Episode067 ヘルメとの談話

俺はヘルメイス改めヘルメを連れて、中断していたお礼探しを続けることにした。

ヘルメイスをヘルメと呼ぶようにしたのは、この世界でも名が知られている方の神様と名前が同じでも、誰も信じないしちょっと面倒事の予感がしたからである。

どこぞの宴会芸の神様じゃあるまいし、それで俺の――本当にそう呼んでいいのか怪しくなってきた――スローライフを邪魔されたくはないからだ。

それに、この人は俺を推薦してココに転生させた本人なんだし、ぶっちゃけて誰よりも俺を知っていると言えるからな。

そうやって名前を省略形で呼べるような友が欲しかったのはウソじゃないし。


「なあ、コレとかいいんじゃないかい? 俺の34番目のカノジョが好きだった宝石なんだが、ユイナちゃんとか喜びそうだと思うんだが」

「……あんたの元カノの人数は言わなくていい。で、その宝石はどれだ?」

「コレだ。ビーネットジャスパーって名前で、混合種らしいぜ?」


俺はヘルメに差し出された宝石を手に取って『解析』を使ってみる。

特に何の効果もないと思っていたにも拘わらず、『攻撃威力上昇(高):火炎属性』という結果になった。

色合いからユイナに似合うってのは分かるモンだが、もしかするとヘルメは神としての力の一部は失ってないのかもしれない。

それ以外にいいのがあるか分からんしってことでルビーとガーネットとレッドジャスパーの混合種であろうソレを買い、俺たちはそこを出た。

空を見上げると、既に太陽によく似た星は正午を示している。

すると、それに呼応するようにして俺とヘルメの腹が鳴った。


「……どっかで何か食うか。オメーのオススメで頼むわ」

「ああ。それなら、あんたが喜びそうな店があるんだ」


短く交わし、俺たちは歩き出した。



「……ちゃんとオレの趣味分かってんじゃねえか」


目を子供のように輝かせながら、ヘルメはそう零した。

俺が向かったのは、冒険者ギルドにある酒場である。

意外と一部の異世界行ってみたいヤツ等と同じ感じなんじゃないのかと思っていたのだが、ソレは当たりだったらしい。

俺たちはカウンター席に座ると、目の前でジョッキを拭いていたおっさんに「シュワリアル二つ」と言ってからヘルメと向かい合う。


「それにしても、どうしてヘルメは果物屋にいたんだ?」

「オレがいつかもう一回地上に来たら食べてえと思ってたヤツを見つけちまってよ。金持ってないの分かってたけど、神だったこと振りかざせばいけると……」


……むしろ、そう思ってるところもあったから追放されたんじゃないんだろうか。

俺としては、皆が死ぬようなことがあったときに復活できる可能性が減ったって意味では、地上に降りてきてほしくなかったんだが。

その辺は本来どうにもならないハズのことなんだし、しょうがないんだろうけど。


「まあ、地上に転送される一瞬前にオレ自身を精神生命体にして『魔法創造』を使えるようにしたから、そんなに問題ねえけどな」

「ソレって大丈夫じゃないだろ」


思わずツッコんでしまった俺だが、本当にソレは笑いごとにならない気がする。

だって、相手は最高神様なんだろ?

だからといって、天使を地上に送り込んでくるとかはないと思うけど。

……何かあったらあったときってことでいいか。


「なあ、あんたは俺たちがいなくても生活できるんじゃないのか? 『魔法創造』なんてチート持ってるんだから、魔法でどうにかできるだろ?」

「……オレって寂しがり屋なんだよ。言わせんな恥ずかしい」


だから俺たちと暮らしたいと……。

意外な一面が分かったが、コレは誰にも言わないでおいてあげるか。

そのギャップで女性が寄り付いてきたら俺たちとも暮らさなくなるんだろうが、ソレはヘルメ本人の判断次第だな。

と思っていると、シュワリアルが俺たちの目の前に置かれた。

コレは日本にあったリア〇ゴールドと味が同じなんだが、どこの同郷のヤツがレシピなんか知ってたんだか。

とりあえず、前世からその味が好きだった俺は、初めてこの酒場でユイナやケントたちと飲み食いしたときからずっとコレを頼んでいる。

他のを頼むってのは賭けになるからな……。

その盗作ドリンクを一口飲んだヘルメは、ソレを意外と気に入ったらしい。


「これうめえな! オレが地上にいた頃はこんなのなかったからな。そういう意味では、この世界も昔より良くなったもんだ」

「……殆どあんたがココに送り込んだ日本人の影響だと思うけどな」


俺がそう言うと、ヘルメは急にドヤ顔になった。

まあ、コイツのおかげでこうなったのは事実なんだし、そうしたくなるのは分かる。

というか、この世界の魔力式冷蔵庫とかって日本人だった輩が生み出したってことで確定でいいんだろうか。

……そういうのを実現できるだけのチートを持っているのはヘルメやその他の神様が選んだ人間の中の誰かだろうし、日本人とも限らないのかもしれない。

それはともかく、もうそろそろ食べるものも頼むか。



昼食後もヘルメと一緒にお返しを探し、全員分を買い終えたので帰ることにした。

もう夕方になってしまったし、帰ったらもうサプライズの用意は終わってるだろう。

その時は驚くとして、ヘルメのことも説明するとしよう。

皆ならすぐに納得してくれるはず。

そんなことを考えながら歩いていると、家もとい屋敷の目の前にいた。

俺は一度深呼吸をし、その扉を引いた直後。


「「「ハッピーバースデー! アヅマ・カンザキ!」」」


12人の掛け声が、俺とヘルメ――コッチは理解できず呆然としている――を迎え入れたのだった。


次回 Episode068 俺の誕生日パーティーとヘルメの入居

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