第二部 異世界の夏を満喫する方法

第一章 神と往く夏①

Episode066 俺の誕生日、そして神の追放!?

あの後、俺たちはテルネモとその三下をパメラさん率いる王城家臣たちに任せて帰ることにした。

自我を失っている三下が自我を取り戻す方法はそのうち見つけるらしいが、今はその手掛かりもない状態だろうし、今度手伝いに来るか。

そんな気楽に行き来できる場所じゃないとは思うけど。

帰る前にディアーに「テル……いえ、ザァコの代わりの勇者になってくださりませんか?」と言われたが、そんなことしたら簡単には会えなくなるぞと言ったらその件は取り消しになった。

それが俺の言った「限度アリの何で一つ言うこと聞く」のヤツだったらしく、「それなら抱きしめさせてください!」と言われた俺は断ろうか考えたが、12人からヤバい気配もとい嫉妬の怨念がしなかったので、そのままソレを承諾した。

まあ、家に帰ってからどうなったかは想像に難くないだろう。

それはともかく、気が付けば、もうその翌日になってしまっている。

つまりは……。


「どうしましょう! 昨日の一件の所為で仕込みもプレゼントの用意も完全にはできていません! 今からでも、ザァコさんの首を私が……」

「ディアーがどうにかしてくれるかもしれんけど、逮捕されちゃうからヤメテ」


俺の誕生日である。



結局夜に、無事に俺の誕生パーティーは行われることとなった。

そういうワケでサプライズの用意をするらしく、俺は家もとい屋敷を出てきた。

俺にバレてる時点でサプライズになるのかどうかは分からんが、その時になったら驚いてあげるか。

そんなことを思いながら、今は王都の宝石屋とか装飾品屋とかを見て回っている。

プレゼントのお礼として何かあげようとしているのだが、コレは迷惑だろうか?

誕生日プレゼントにお返しとか、あんまりいいモノじゃない気はする。

まあ、俺の自己満足になってしまうが受け取ってもらおう。


「待ってくれって! ホントなんだぜ?」


……ん? どうしてか聴き覚えのある声がするな。

直接耳で聴いたワケじゃなく、脳内空間とかその辺の類の中でになるが。

俺はその声のした方へと走っていくと、果物屋のおばさんに縋っているような感じのイケメンがいた。

どこぞの素晴らしい世界の駄女神や爆裂娘じゃあるまいし、見てくれが良くても中身がヤバいなんてことはなくてもいい。

まあ、俺はその人……そのお方を知っているから、何も問題はない。

俺は果物屋に近づくと。


「……何やってるんですかヘルメイス様」


俺はそのお方……ヘルメイス様に話しかけた。

神が普通に地上を歩くことができるというのは意外だな。

というか、昨日言ってた「すぐに会うことになる」ってのはこのことだったのか。

俺の誕生日を祝う為にわざわざ降りてきてくださったんだろう。

……目の前のヘルメイス様が瘦せ細っているのを確認するまではそう思えた。


「やあ、アヅマ君! やっと会えたな!」


ゲッソリとしていても2回会ったときと同じような振る舞いをしているヘルメイス様だが、正直言って大丈夫そうには見えない。

ガチ恋してるヤツが告白に失敗したら、こんな顔になると思えるくらいには。


「おや、アヅマさんじゃない。この人と知り合いなら、どうにかできないかい? さっきから、『俺は神なんだ』と言って、果物をタダで持っていこうとしてるのよ」


果物屋のおばさんは困ったように言うが、本当に神様ですよ?

ヘルメイス様だって、信じてもらいたかったら力の一つでも見せればいいのに。

それとも、地上じゃそういうのは使えないのか。


「だから、オレは本当に神なんだって! ほら、ヘルメイスって名前だし、分かるだろ? 人類が最強になるように尽くして死刑になったって……」

「そんなハッタリが通用すると思ってるのかい? イケメンなんだから、内面も大事にした方がいいよ?」


そう言われてかなり落ち込んでる様子のヘルメイス様。

……しょうがないし、早いところこのお方を連れてココを去るか。


「知り合いがすいませんでした。俺からも言っておくので、許してあげてください」

「……アヅマさんがそう言うのなら、今回は見逃してあげるよ……」


許してくれた果物屋のおばさんに一礼し、俺はヘルメイス様の腕を引っ張って路地裏へと入り込む。

誰も見たり聴いたりしていないことを確認してから、俺はヘルメイス様に。


「……俺の誕生日を祝いに来てくれたんですか?」

「いや、ただ追放されただけだが?」


さっきより元気になった様子のイケメン神は、躊躇うことなく言い放った。

……そう簡単に言うことじゃないだろ。


「いやー、まさかアヅマ君を精神生命体にして復活させた挙句、『性質操作』まで付けてあげただけで追放されるなんてねえ! オレは人類を救う手段がコレしかないと思ってやったんだって言っても、ゼイウス様は納得してくださらなかったんだ……」


つまりは俺の所為ってことなのだが、コレは俺が謝るべきなのか?

というか、チートの詰め合わせだなと思っていたら、裏ではそんなことが……。

『魔法再現』も使える俺を更にバケモノにしたんだしし、追放されるのも納得できなくはない。

それに、そんな力を持っていたら、世界を滅ぼされる危険性もあるにはあるからな。

だからこそ、そんなヤツをもう生み出されないようにする為にも、ヘルメイス様は天界から追放されたんだろう。

とか考えていると、ニカッと笑ったヘルメイス様は当然のように言った。


「それでなんだけどさ、もしオメーが許してくれるんなら、一緒に暮らすことって許してもらえないか?」


……どうするべきなんだ?

俺としては問題ないし、むしろ恩人もとい恩神であるヘルメイス様のお願いは断りたくはないのだが。

皆が許可してくれない気がする。

その時は近くに風呂やキッチンも付いてる小屋でも創ってあげるだけだけども。


「……皆が許可してくれるかどうか分からないですけど、とりあえず一緒に帰りましょう。俺がどうにかしますので、これからよろしくお願いします」


俺がそう言うと、ヘルメイス様はホッとしたように見えた。

まあ、俺以外にこのお方を直接知っている人なんていないだろうからなあ。


「それじゃ、よろしくな。あと、昨日最後に言ったけど、もうオレに対して敬語はナシだぜ?」

「……分かったよ、ヘルメ」

「お、いいね! アヅマ君は飲み込みが早いな!」


こうして、俺たちは家族に天界から追放された神様を迎え入れたのだった。


次回 Episode067 ヘルメとの談話

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る