Episode056 センターはナノックで。

まさかナノックがあんな日本の作詞家も顔負けなレベルの歌詞を書いていたとは思っていなかった。

アレで笑うとか、逆にできないレベルのクオリティだ。

とりあえず、すごく驚いている本人に目を向けると。


「……私をバカにしてるワケじゃ……なさそうね」


俺を見て複雑な気持ちが顔に出ているナノックは、ちょっとホッとしたように呟く。

というか、俺が12人の誰もバカにするようなことを言わないって分かってて言ってるみたいな気がしたんだが、それは勘繰りすぎってヤツか。


「私たちにも、ナノックさんの作った歌詞を見せてもらえますか?」


ユイナたちも見たがったので、俺は紙を渡す。

それから数秒後、ユイナたちもそれぞれに感心のような表情をそれぞれが浮かべた。

正直言って、ナノックの歌詞は俺の求めていた歌詞そのものを出してきたと言っても過言ではないと思う。

この世界で3000年の時を生きてきたってことが大きく影響しているからこそ、あんな歌詞を書けたんだろう。


「確かに、コレはアヅマくんが優勝と言うのも納得できますね……。私も、歌うならこの歌詞がいいと思います」

「ナノックさんの歌詞にもピピッちゃうな~。この歌詞なら、本当に私たちのデビューにピッタリだと思う!」


横目で見ると、皆がその歌詞で歌うことに賛成している様子だった。

俺はそんな声を聴きながら、未だモジモジしているナノックに。

……コレばかりは断られてもしょうがないと思っているのだが。


「なあ、今回は皆ナノックの歌詞で歌いたいって言ってるワケだしさ。デビューライブのセンターだけど、ナノックがやってみないか?」

「……え? ええ!?」


俺が訊くと、ナノックは驚きながら数歩後ずさった。

そりゃ、急にセンターやらないかって訊かれたらビックリするのも無理はない。

でも、俺としてはやってほしいんだよなあ……。

最初だって皆に混ざってやるのも嫌がってた――というか、本人がまだ自分を卑下していただけなのだが――から、ココでセンターまで強制するつもりはない。

まあ、そうしなくてもテイニーや皆が説得して、結局はナノックがセンターになるんだろうけどさ?


「……分かった……。アヅマくんにセンターを任されたんだから、やりきるよ」


もしかすると俺と同じくこの後の展開に想定がついているかもしれないナノックは、やる気に満ちた、しかしまだ恥ずかしさの残っている顔で言った。

俺はその頭を撫でながら、どんな音楽を作ろうかと考えるのだった。



ナノックの作った歌詞が選ばれてから、もう3日が経つ。

衣装は俺が作ればいいという理由で、皆は俺の音楽の完成を待っている。

とは言っても、会場となるギルドのステージの下見とか、何かセリフとかが要るんじゃないか等、いろいろと皆で考えて考えているらしいので、全員暇ではない。

それと、ジェルトの衣装の問題を心配したのだが、3000年生きて大魔導士と呼ばれるだけのことはあるナノックが、その辺のことはどうにかしてくれるとのこと。

しかも、これからジェルトも風呂に入ることが可能になったということになるのだ。

もしかすると、ナノックがいる以上は俺はもう不要なんじゃないのかと心配になる。

ナノック曰く、俺は通常の人間と何か違うらしいので、今のところは問題ないとか。

その話は置いといて、俺の作っている音楽はそろそろ完成しそうになっている。

日本にいた頃もやっていたことがこんな場所で役に立つとは思いもしなかったが、おかげでかなりクオリティの高い音楽が完成した……と思う。

出来は80点が限界だと自己評価するものの、皆なら満点だと皆で言いそうである。


「これで……フィニッシュッ!」


俺は空中の画面から手を放すと、思わずソファーで横になってしまった。

かなり久々の長時間のブルーライトを浴びる作業で目が疲れたし視力も地味に落ちたが、『治癒』という魔法が存在するこの世界ではそんなに気にしていない。

というか、マジでどうして魔力で作られている画面からブルーライトが出るのやら。

俺は『思念通達』で皆に音楽が完成したことを知らせると、次に衣装作りの為にデザインを考えなければならないことを思い出した。

意外とアイドルの事前用意は大変なんだなと改めて思いながら、俺は前世のアイドルやゲームやアニメのソレっぽい服で覚えているモノの中から、今回の音楽に合いそうなヤツの参考になりそうな衣装を思い出そうとするのだった。


次回 Episode057 公演1日前、ちょっとマズいです。(いい意味で)

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