Episode055 作詞コンテスト、勃発!?

ニルコに作編曲魔法を教えてもらい、俺たちは家もとい屋敷に帰った、

コイツを使うにしても、歌詞のリズムや雰囲気に合わせて作るから、そうとなるとまずは……。


「ちょっとそれぞれでどんな歌がいいのか考えてみてくれないか?」


とりあえず作詞である。

それぞれに考えてもらうことで多種多様な意見が回収できるし、考えがまとまらなくて作るのに時間がかかるってことも起きない。

前世で一時期作詞をやっていた――ソレを歌う機会がないと気付いてからはやめてしまったが――こともあるので、俺もそれなりに自身はある。

……まあ、一旦は日本にあったヤツでも書き出してみるか。



皆で考え始めてから、既に一時間が経過した。

居間に全員で普通に作業できるだけのスペースがあるかと心配したが、その必要はなかったらしい。

それぞれがかなり集中した様子だが、全員採用されたいとかなんだろう。

まあ、それでやる気になってくれるならいいんだけど。

かく言う俺は、『物質創造(中)』で歌詞の書かれた紙を生産しているので、書き出す必要はなかったみたいだ。

まあ、その紙面に何て書くのかを思い浮かべながら物質を組み上げていかないといけないから、コレもコレで大変である。


「よし! できました!」


次はどの曲の歌詞の書かれた紙を作ろうかと悩んでいると、ユイナが自分の歌詞を書き終えたらしく、俺のところに持ってきた。

俺は実際、この世界の歌については詳しくは知らないから、日本にあったヤツと同じ感じになっているとは期待していない。

ニルコの歌詞は日本のモノと遜色なかったが、アレはプロだからだろう。

と思いながら、その紙に書いてある歌詞を読んでみると。


『どうしてあなたは 私から離れてしまったの? ……』


「……どうして失恋ソングを?」

「わ、私もどうしてそうなったのか、よく覚えてないです……。初めての歌詞作りだったので、どう書いていいものか分からず……」


俺と2人だけで暮らせなくなったことに対する不満が出ている……のか?

もしかしなくても、ユイナをもっと愛してあげるべきなのかもしれない。

そのうちヤンデレな曲を書き始めるかもしれないと思うと怖いからな。

どうであれ、全体的にプロも顔負けな歌詞になっている。

日本でコレを出したら、『ちょっと重いな……』とか思われつつも、かなり評価される曲になると思うんだが。

だが、できれば明るい歌詞の曲がいい俺からしたら、参考くらいにしかなあ……。


「なあ、もっと明るい歌詞にしてくれないか? 俺は皆で歌う曲なんだから、明るい曲にしたいからさ」

「分かりました。では、書き直してきます」


ユイナは俺の手から紙を――少し手を触れさせながら――受け取ると、また歌詞を考える為に戻っていった。

やっぱり、歌詞を考えるのって容易なことじゃないな……。

俺も、作業っぽくなりはじめている書き出しを一回止めて、オリジナルの歌詞でも書いてみるか。



俺がオリジナルの歌詞を書き始めてからも、皆が俺に歌詞を見せに来たのだが。

それぞれの個性や感じ方が出ていていいなとは思うものの、ピンとくるような歌詞がなかなか出てこない。

それぞれがソロで歌うつもりなら「120点!」と評価させてもらうところではある。

ただ、今回は全員で歌うってことになってるからなあ。

とりあえず、俺が書いたもとい『物質創造(中)』で歌詞を写して創り出した紙はもう50枚を超したが、どうするものかね。


「そういえば、アヅマくんの書いた歌詞はどうなってるんですか?」


唐突に、まだ自分のオリジナル歌詞が3つくらいしか書けていない俺に、ユイナがそんなことを訊いてくる。

確かに、まだ皆に俺の作った歌詞は見せていなかった。

自分だけ見るってのはちょっとどうかと思い、俺はその紙をユイナに手渡す。

それを受け取ったユイナの周りに12人が集まり、俺の歌詞を見るのを見守る。

俺としては不完全燃焼とかはないのだが、ちょっと自信がないというか。

とか思っていると。


「す、凄いです……! 私たちとは全く格が違います!」

「コレは私たちとは完全に違うね……! 歌詞見ただけでピピッとしちゃったよ!やっぱりお兄ちゃんは天才だよ!」


ユイナとタシューが、俺の歌詞にすごく驚いているんですが。

普通に日本のアイドルやその辺のアニメの曲の歌詞を参考にして作っただけなのだが、マネゴトだからすごく見えてるんじゃないかと思うと罪悪感が……。

まあ、ユイナたちに限って、俺を好きだからといって盲目的に見ているハズはない。

ない……と思う。


「それでは、この曲でデビューしましょう!」


既に盛り上がり始めたユイナたちだが、俺は何となく見落としがある気がしている。

何だろう。誰かの歌詞をまだ見てないような覚えが……、あ。


「まだナノックの歌詞を見てないと思うんだが、思いついてないか?」


思い出した俺がそう言うと、話が終わったことに安心していたかのようなナノックがビクッとなった。

……思いついている……のか?


「……べ、別に見てもいいけど、笑わないでよ?」


ちょっとふくれっ面になったナノックが、雑に俺に紙を渡してきた。

……後で撫でてあげるか。

そう思いながら、俺がその紙に目を通すと……。


「……よし、ナノックのが優勝だ」

「「「ええっ――――!?」」」


勝手ながらもナノックの優勝宣言をした俺の声に続いて、皆の――特にナノックの――声が響いたのだった。


次回 Episode056 センターはナノックで。

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