Episode054 作編曲魔法? 何ソレ美味しいの?

さて、アイドルをすることになったんだから、俺はプロデューサーというところか。

前世にアイドルを目指す者の話は見たことがないワケじゃないし、そこからどうすべきかを考えるべきなのかはさておき。

今は作詞や作曲をするところから始めた方がいいだろう。

グループ名ってのは、意外と最初の曲ができた後に考えた方がいいのが浮かんでくるかもしれないから、今は決めない。


「そういえば、あの冒険者ギルドでやってたライブで流れてた音楽なんだけどさ。日本にいた頃の音楽と何ら変わらなかったんだけど、何してるんだ?」


この世界で化学が発展しているとかは聞いていない。

冷蔵庫や風呂を沸かす機械だって、魔力を使ってるらしいし。

ちなみに、冷蔵庫は巨大な魔石が入っていることで、日本の冷蔵庫と同じくらいの期間ははたらいてくれるそうだ。

それはともかく、日本で使われていたものと同じ機械が魔力で動いてる感じか?

でも、パソコンがあったらネットワークがあるってことになっちゃうし、そうはならないんだろうなあ……。

と、あの音楽がどう作られているのかを考えていると。


「あの音楽は、作編曲魔法という魔法で作られているそうですよ」


ユイナが、あっさりと回答してくれたワケだが。

……作編曲魔法って何だよ……。



今はだいたい昼時である。

冒険者ギルドは内設されている酒場での昼食の為に集まった冒険者たちでごった返しているが、ソイツ等は、今日は俺たちの座っているテーブルの周辺に集まっていた。

理由としては、いつものことではなく……。


「私は自分で全て一から作っているアイドル、ニルコ・ニャワルズで~す。今日のライブを見てくれてて、それで憧れたってことは分かるんだけど……」


この発端になったアイドル、ニルコがいるからである。

黄土色のツインテを揺らしている少女は、意外と――と言ったら失礼だろうが――人気があるようで、多くの男冒険者が群がっている。

曰く、世界中でライブをすべく、各地を練り歩いているらしい。

そんな感じで忙しそうだと思ったのだが、俺たちが話をしたい理由を洗いざらい話したら、快く許可してくれた。

ただ、どこか乗り気じゃなさそうな気もするな。


「……作編曲魔法は、そんなに簡単な魔法じゃないわよ? 何やら目が疲れる光線で表示される特殊な魔力映像が出てくるの。私は、そんな疲れを伴う覚悟をしてまでアイドルをやってるんだけどね」


乗り気じゃない理由は、そういうところらしい。

……目の疲れる光線って、間違いなくブルーライトのことだよな?

だとしたら、まんまパソコンで作曲するときの画面が出てくるってのか!?

異世界なのにブルーライトを浴びる破目になろうとは思いもしなかったが、そういう作業は前世でもしたことがあるし、まだよかったってところか。

日本のヤツと根本的な仕組みが違ったら、使い慣れるまでに少しかかったところだ。

まあ、俺が経験者じゃなくても同じ状況だったってことになるんだろうが。

どうであれ、そういうことなら話は早い。


「それなら、ココで少しだけソレを出してもらえますか?」

「え? 別にいいけど……」


ニルコはすぐに応じ、手を空中に突き出す。

どうやら長い詠唱が必要らしく、1分も使って詠唱を終わらせると。


「『作編曲』!」


そう言うと、目の前に懐かしくも新鮮な画面が表示された。

日本ではまだ夢物語な、空中に映像を映すってのはこんな感じになるんだなと思いながら、俺は『魔法再現』を発動させ、目を閉じる。

かなり久々に使ったヘルメウス様からの贈り物の効果は問題なく、瞼の裏に『作編曲』に関する情報が表示された。

ざっと目を通して俺が目を開けると、ニルコは既に魔法を閉じている。


「で? 魔法を見せたけど、どうだったの?」

「ああ。魔法をどうも」


俺は言いながら、目の前に『作編曲』の発動によって出てくる画面を表示した。

周囲がどよめく中、ニルコが少し驚いた声で。


「も、もしかして……。最近世界で話題になってる、少女たちを拉致してた貴族を倒したり、3000年も極寒地域ベルーファで暮らしていた大魔導士様を連れ出したりした所為で『女誑しのクヅマさん』って呼ばれてる、あの……?」


……世界中で話題だったのかよ。

そもそも俺たちはこの国から出て行ったことがないから、そういう世界での知名度とかは知る機会がなかったんだよな。

というか、厄介事に巻き込まれる原因を作るだけだから、むしろ俺の名前は広まらないでほしいんだが。


「ま、まあそうだ。ちなみに、キミの真後ろに座ってるオレンジ色の髪の少女が、その大魔導士様だよ」


俺の一言に少しだけビクッとナノックの肩が震える。

だが、そんな彼女には見向きもしないニルコは、ホッとしたような顔で。


「……そりゃあ私が使った魔法を見ただけで使えるようになるわよね。人間は魔法を教えるか魔導書で知るかして詠唱を覚えなきゃいけないけど、あなただったからその必要はなかったみたいね。教える相手としては、不足はなかったわ」


コレを魔法を教わった扱いにしちゃっていいんだろうか。

俺はそう悩みながら、空中に浮かぶ画面を指先でつついてみるのだった。


次回 Episode055 作詞コンテスト、勃発!?

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