Episode052 増える家族と増築と混沌を極める野次馬たちの意見派閥

さて、今の俺に選べる選択肢はたった二つ。

一つは『もう部屋が空いていないと言って諦めてもらう、もしくは王都で暮らしてもらう』で、もう一つは『どんな手間が掛かったとしても、家族として受け入れる』であるが、どちらも俺には難しい選択肢である。

前者を選んだ場合、俺の中には罪悪感が残るだろう。

たとえ王都に移住してもらったとしても、多くの人々が毎日押しかけてきて全くと言っていいほどにゆっくりするだけの余裕はナノックたちから奪い去られる。

後者を選んだ場合、家の増築なら俺の『物質創造(中)』でどうにかできるし、俺の良心は痛まなくて済む。

ただ、何度も思うが、俺としてはコレ以上は家族を増やしたくはない。

このままだとヘルメイス様のおもちゃだし、事あるごとに誰かが家族になる、つまりはいつかヤバい人数になることの確証になりかねないからだ。

どこぞの100人の彼女とかじゃないんだから、そんなにヒロインはいらない。

いや、アレはアニメだとメインヒロインは現状の俺より少なかったと聞いているが。

どうせ原作だと現時点で今の家族の人数を超えているんだろうけど。

とりあえずその辺をまとめると、俺は300人くらいを好きにさせるんだろうか……。

別に、俺を好きになってくれるのは普通に嬉しいんだけどさ?

先が思いやられるが、そんな不確定な未来に畏怖したって意味はない。

……もう、俺が甘いだけなのかもしれないが、コレイ以外にないか。


「……分かった。それじゃ、今日からよろしくな」


俺がそう言いながら2人に手を差し出すと、同時にパアッと眩しい笑顔になって俺と握手しようと……したフリをして、抱き着いてきたんだが。

しょうがないので、俺はそのままその腕を2人の背中にまとめて回す。

あとで同じことをしてほしいと数人にお願いされるのも覚悟の上で。


「どうデスか? テイニーの抱き心地は本当によかったデスか?」

「……ああ。なんていうか、そんな気がする」


実際、どう抱き心地が違うかと聞かれると、少しムニッとしているところだろうか。

太り気味だとかっていう話をしているのえはなく、そのスラッとした肌のどこにムニッがあるんだろうかと疑問になるレベルだ。

だからと言ってソレを直接言うワケにもいかず、とりあえず誤魔化す。

女の子相手に誤魔化すのはよくないのは俺だって知っているが、太っていると取られるのは俺としても望まない展開だったので黙っておく。

それに、ナノックもテイニーも幸せそうだし、そこでそんなことを言うのは野暮だ。

……というか、当然のことだと思うが、テイニーって普通に肌が冷たいな。

流石は極寒地域の精霊である。


「……アヅマ、あったかい。こうやって人肌に触れたの、3000年ぶりだな……」


何かを思い出すような懐かしそうな声でナノックは言いながら、俺を抱きしめる力をより強くする。

この感じからして、思い出しているのは母親だろう。

ナノックが何があって3000年もの間、こうして心身ともに少女なのかは知らない……というか訊かないが、俺たちについてこようとしたのと俺を好きになったのって、もっと多くの人と一緒にいたかったからなんだろうなあ……。

だったんなら、家族に迎え入れるって判断は正解だったって言えるだろう。

とりあえず、そろそろ王都に帰るとするか。



王都に戻りたい旨を伝えると、ナノックとテイニーはもう荷造りを始めた。

そんなに片づけるものがなかったのか、それとも早く終わらせただけなのか、ものの5分で全ての作業を終わらせた2人が戻ってきた。


「それじゃあ、王都に行くのも『瞬間移動』でいい? 古参ヒロインのユイナ?」

「はい、それでお願いします。新しいライバルさん」


ナノックとユイナがドンパチになりそうな空気を作り出したものの、2人はお互いにそのまま噴き出してしまった。

どうやら、この様子だと仲良くなってくれそうで何よりである。

永久に等しい時を弟子とだけ生きてきた彼女を救う機会を作ったのがあの忌々しくも憎めないキノコだと思うと、どうしてもまた食べても問題ないんじゃないかと思えてくるが、そうしたら今度は怒られると思う。

それと、今のユイナの発言から、俺は少し俺以外12人の関係性を一言で表した。


「……皆は、仲間でライバルってところか」

「ん? アヅマくん、どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


まあ、コレは個人の感想であるから、心の内にしまっておくとするか。

俺は、皆の関係がこれから悪くならないことを少し祈るのだった。



帰ってきた頃には夕方の6時も越していた俺たちは、まずは増築から始めた。

どうしたのかというと、家もとい屋敷を『解析』で完全に構成を解読し、ソレを元にして『物質創造(中)』で作り上げたのである。

というものの、畑のある屋敷の左側と反対の右横の空きエリアを潰したのだ。

勿論のこと、後で無理矢理にでも屋敷と複製屋敷を繋ぐ通路は創った。

それでベッドやら寝巻やらも創り、2人に渡しておいた。

その後、2人に魔力式の風呂やら魔力式冷蔵庫やらを説明。

3000年もの間、ナノックはテイニー以外の誰ともまともに話していなかったから、その辺のことについては全く知らなかったらしい。

当然のように、極寒地域で生まれ育ったテイニーも知らなかった。

その説明の途中で何回も驚いたときの2人の顔は可愛かったな。

結局、それだけで今日が終わったが、もっと話しておくべきことはあるし、後日ゆっくりと話すとするか。

とにかく、今日は長い一日だったな、と思う俺なのだった。



その翌日、俺たちは大魔導士であるナノックとその弟子であるテイニーが俺たちと一緒に暮らすということを報告しに、冒険者ギルドに向かっている。


「うう……。3000年前から、やっぱりあのガラの悪い人たちの騒々しさに向かってると思うと足が重いな……」


どうやら、3000年以上前は普通の少女の冒険者だったらしいナノックが、少し俺に引っ付くようにして歩きながら言う。

いつか話してくれそうなときになったら、どんな感じで冒険者をしていたのかとか、その辺の昔話も訊いてみるか。

と思いながらギルドのドアを開けると。


「よおアヅマ! 話は聞かせてもらった! 俺たち総出でお祝いするぜ!」


周囲から拍手喝采が響き、目の前に現れたケントにそんなことを言われる。

話ってのは、考えるまでもなくナノックとテイニーが家族になったことだろう。

どこから話が漏れたんだとか、そもそもそれ以前に俺たちはそのことを誰にも話してないという恐怖みたいなのはあったが、祝ってもらえるなら祝ってもらうか……。


「なあお前等! 勿論、一番最初のユイナがアヅマのヒロインだよなー?」


……何を言っているんだ?

急に謎なことを叫び始めたケントの言葉を理解したのは、その30秒後である。

もしかして、俺と誰のカップリングが尊いとかって話でも上がってるのか?

中学生じゃあるまいし、恋バナで盛り上がる年齢でもないだろうに……。

まあ、別に悪い気はしないからいいんだけどさ……。

などと平和脳な考えをしていると、ギルドの一部では言い争いをしている連中がいるのを発見するが、俺がいつか誰と添い遂げるなんていう不確定要素で言い争うのはちょっとやめてほしい。


「はあ!? いーや! 魔族随一の意外な甘えん坊であるカカリさんだろ!」

「違う違う! この世界歴一ヶ月と3000年の超年の差ってのもいいだろ! まだ大魔導士様とアヅマのイチャつくところを見たことはねえが、一番に決まっている!」


と言った意見の他にも、多種多様な意見がギルドの中を飛び交い続けた。

あと、このアホ等には伝えてないから知らないのはおかしくない話になるんだが、悪魔や天使であるカカリたちの方が年上だと思うんだが。

まあ、女性に年齢は訊くモンじゃないので俺も知らないのだが。

それにしても、どいつもこいつも俺の恋の行く末に興味なんか持ったんだか。

意外と冒険者ってのは多くの意味で中学生みたいな存在なのかもしれない。

そんな疑問等を頭から振り落とし、『神の都合によって俺が転生させられた『アヅマ・カンザキの転生』から一ヶ月とちょっと。冒険者たちの間で、俺が誰と添い遂げるかの想定できる組み合わせは13パターン――家族12人+ディアー――に分かれ、混沌を極めていた……』などと、地味に懐かしいとある仮面ライダーのオープニングナレーションの改造を頭に思い浮かべ、軽く現実逃避するのだった。


次回 Episode053 よし、キミたちは今日からアイドルだ!

   《第一部 第九章》スタート

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