Episode048 マッサージとヘルメイス様と伝説の大魔導士

全員が洞窟に入り終えると、俺は『物質創造(中)』を使って洞窟に蓋をした。

空気中の酸素濃度が低くなっても『解析』で分かるし、そんなに問題ではない。

その中に落ちていた使えそうな枝数本を集め、中心でソレに『火炎弾』を使う。

焚き火を作りたかったワケだが、この炎は発動者である俺の魔力で燃えているし、二酸化炭素も一酸化炭素も出ないから安心である。

ちゃんと厚着してきてよかったと思いながら、俺は焚き火に手をかざす。

前世はこうやって焚き火を目の前にする機会はなかったからなあ。

ホント、この世界に来てよかったと改めて感じる。

皆が焚き火の周りに集まったところで、俺はなんとなく話を振る。


『その大魔導士だけどさ。だいたいどの辺にいるか探し当てる方法ってあるか?』

「そうですねえ……。家があったら、そこが大魔導士様の家だと考えるくらいしか、できないと思います」


やっぱり、家の有無で確かめるしかないのか。

在り得ないと思うが、移住してたらどうなるんだろうとも思うけど。

それはともかく、俺はカミナスにマッサージをしてやらねばならない。


『なあ、カミナス。ずっと羽ばたいてて疲れてるだろ? マッサージしようか?』


俺が『思念通達』で訊くと、カミナスは少し頬を赤らめながら服を少し脱いだ。

何をしようとしてるんだと思うと、肩甲骨の辺を俺に見せてきた。


「あの、この辺をやってもらえたら有り難いんですが……」


まあ、普通に考えたらそこになるか。

人型の状態で翼を生やしたらそこに生えるんだし。

というか、まだ人型カミナスが翼を生やしているのは見たことないな。

今度やってもらうとするか。

俺は『物質創造(中)』で創り出した布の上に寝転がるように指示をすると。


『それじゃ、今からマッサージするからな? 痛かったらどんな手段使ってでも抵抗していいからな?』

「はい! ご主人様のマッサージ、楽しみです!」


その答えを聞いた直後、俺は肩甲骨のだいたいココだろうと思う部分を少し力強く押してみる。

カミナスが地味にビクッとしたが、抵抗しないってことは効いてるってことだろう。

そのまま俺は、5分もの間、カミナスにマッサージをし続けた。

終わって起き上がったカミナスが少し色っぽく見えたが、まあそれは暗闇の中で焚き火に照らされてた所為によるプラシーボ効果ってことで。


「ご、ご主人様ありがとうございました……。すっごく気持ちよかったです……」

『おい聞こえが悪いからその言い方はやめてくれ』


『異世界あるある・誤解を生むような言われ方をする』だろうか。

だったとしても、ココで誤解は起こらないから問題ないのだが。

まあ、ゆくゆくはソウイウことをしなきゃいけない日も来るのかもしれない。

その時はその時で、その時の俺がどうにかしてくれるハズ。


「あの、アヅマくん。私たちにもしてもらえないですか?」

「ダメですよ、ユイナさん。体験したカミタンだからこそ言えますが、本当に疲れてるとき以外にやってもらうのは損です!」


……マッサージってのはそんなモンである。

分かってる風なことを言ってるだけなのか本当にそう思ってるのか分からんカミナスを眺めていると。

なんだか見覚えのあるような石像が洞窟の奥にあることに気が付いた。

近付いてみたら、それがヘルメイス様の石像だったんだが。


「あれ、ヘルメイス様の石像ですね。まさかこんな場所にそんな珍しいものが……」


俺の後ろにいたユイナが、そんなことを呟く。

意外と知ってる人は知ってる神様ってのは分かったが、珍しいんだな。

まあ、俺も王都の中じゃ見たことなかったけど。

どうせだし、ここで彼の詳細を訊いておくのはいいかもしれない。


『このヘルメイス様って、どういう神様なんだ?』

「……ヘルメイス様は、元人間で、かつて人間を地上最強の種族にする為に尽力していた人でした。新生児には魔法を与え、誰でも生まれながらに戦えるようにしていたそうです。それが原因で戦争が起こり、死刑にされたところまでは知っています。」


つまりは、今ヘルメイス様が神様なのって、誰かが処刑したからなのか。

とりあえず、魔法を創ってるのか与えてるだけなのか分からんけど、『魔法再現』もヘルメイス様がいたからこそなんだよな。

だとしたら、次に会ったときはヘルメイス様の過去の話でも聞いてみるか。

イケメンなんだし、俺と張り合うくらいのつもりで女性が群がってきた話でもするんだろう。


『……実は、俺の『魔法再現』も、ヘルメイス様からもらってたんだよな』

「そうなんですか……。それなら、私たちの平和の為に魔法を使っているアヅマくんは、ヘルメイス様に気に入られてるかもしれませんね」


ユイナはそういうが、もう夢の中に出てきたんですけど。

次に会ったら、俺のことどう思ってるかとかも訊いておくか。

焚き火のところに戻り、俺は今の状況を思い出し、いつになったら移動を再開するべきなんだろうかとちょっと悩む。

今はだいたい12時だから、せめて暗くなるまでには到着したいんだが。


『カミナス、もう移動できそうか?』

「は、はい! 鱗があっても寒いですが、カミタンを応援してくれるなら、いつまでもどこまでも飛びますよ!」


何たらのトラックの歌みたいな言い回しをしながら、カミナスはそう言って笑う。

……ホント、苦労かけてるなあ。

と思い、俺はなんとなくでカミナスの頭を一度撫でる。

急な事態に赤面したドラゴン娘は、その恥ずかしさを誤魔化すように、洞窟を閉じていたデカい石板を体当たりでぶち壊す。

流石はドラゴンと思ったが、今のは俺でも怖いわ。

で、石板の瓦礫の向こうに誰か立ってるんですが。


「やっぱりか……。生命体の気配がしたから来てみたけど、どうしてあなたたちはここにいるの? 助けに来たから、もう安心して」


……目の前でオレンジ色のパーマのかかったセミロングを揺らしている少女……にしか見えないこの人は、『解析』曰く、大魔導士らしい。


次回 Episode049 大魔導士ナノック・ビシュア

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