Episode046 【朗報】カミナスの翼を強化する方法、添い寝だった

ケントからもらった情報をアテにして、俺たちは家もとい屋敷に帰った。

可能性の高い話が出てきた以上は試さないワケにはいかない。

そう、極寒地域ベルーファに行くのだ。

俺は寒いのは嫌いだが、それでホンネコチョウダケの毒がどうにかなるならそれだけで行く理由は十分である。

まずはその用意からなのだが。


「そんなところに行ったら、カミタンの翼が壊れますよ?」


そうか、袋のモンスターでも、竜は氷に弱かったな。

翼が凍って落ちるとか、どうであれ動かせなくなるからなんだろうが。

だからと言って、『地図移動』を使うってのはよろしくない。

どこに伝説の大魔導士がいるのか分からん以上は賭けになるからだ。

それなら、どうするべきなんだ……?

もう『思念通達』での会話に馴染みはじめた俺たちは、そのまま会話を続ける。

ホント、俺の魔力量が異常でよかったと思わざるを得ないな。


『どうにか翼を強化する方法とかはないのか?』

「あるとすれば、……ドラゴンの本によると、『愛の力』で強化できなくはないと書かれていたくらいなんですが……」


……何か意外な強化方法だな。

それにしても、さっきからハッキリしないが、何かマズい手段でも使うのか?

とか思っていると、カミナスは少し頬を赤らめながら言った。


「……あ、愛する相手に、一晩共に寝てもらうことらしいんです……。勿論、ただの添い寝ですが、それだけで翼の硬度が10倍以上になるとのことで……」


……ドラゴンって、そんなに愛を重んじてる種族だったっけ?

日本で見てきた作品だとそういうドラゴンの方が多く、家族や恋人を大切にするドラゴンが出てくるヤツはそんなになかった所為での偏見である。

まあ、この世界のドラゴンがそうってだけなんだと思うが。

とりあえず、状況をいいように利用してるとかじゃなくってそれが真実なのは、既に『解析』でウソ判定になってないことから確定してるし。

何にせよ、『ヤる』ワケじゃなくてよかった……。


『その方法で上手くいくのか?』

「ど、どうやら、ドラゴンの種族間で強くなろうと思うと、そうするしかなかったみたいです……。ご主人様は、イヤですか……?」

「嫌なワケないだろ。むしろドンと来いだ」


あ、しばらく沈黙を貫いていた口が動いた。

変なところでしゃしゃり出てくるのはやめてほしいものだ。

それがホンネコチョウダケの特性なんだと思うが。


「そ、そうですか。それなら、今夜お願いします。ご主人様には、一日でも早く元に戻ってほしいですから」


まだ恥ずかしがりながら言うカミナスに、俺はどうしようか悩んだ。

早く治るんなら、ヤバい手段でない限りはやってみるべきではあるが、それを皆が許してくれるのかどうか……。

まあ、それから毎日誰かと添い寝って展開になるのもやぶさかではない。

俺は『思念通達』で全員と繋がり、脳内で問う。


『なあ、皆はその作戦を承諾してくれるか?』


俺が訊くと、皆は少し「しょうがない」という感じの顔をしてから頷いた。

まあ、早いところホンネコチョウダケの毒をどうにかしたいって思い故だろうが。

治ったら、しばらくは1人ずつ一緒に寝てあげるか。


『ありがとう。それじゃ、今夜は俺の部屋で寝るか?』

「は、はい。一緒に寝ることができる幸運に感謝して、絶対にご主人様を襲わないことを誓います!」


……思ってもなかった不安を湧き上がらせないでほしかったんだが。

カミナスが使える魔法がどんなのかはまだ見たことないけど、あんなことやこんなことの為に悪用できる魔法は持っちゃいないよな?

もしカミナスが約束破って俺を召し上がろうとしても、絶対に対抗させてもらうが。

というか、外を見るともう日が沈んで星が出ていて、あのシイタケモドキを食べてから6時間くらいは経過していることになる。

もう口の不自由に慣れてしまった俺は異常なんだろうか。


『とりあえず、もう夜になったから晩御飯にするか』


と、『思念通達』で言ってから、俺は思った。

口が支配されてるってことは、何か食べることすら不可能なんじゃね?

咄嗟に俺はユイナに訊く。


『なあ、ホンネコチョウダケに口が乗っ取られてて、どうやって何か食べるんだ?

口が動かせないなら噛むことすらできないと思うんだが』

「そこは根性でどうにかするしかないと思います。喋ることはできなくても、噛んだり飲み込んだりくらいはできるかと……」


……そうなるのか。

まあ、それで喉に詰まったら息苦しさで分かると思うし、心配しない方がいいな。



結局、俺は何だかんだで食べることができると分かった。

とは言っても、舌で無理矢理すり潰して食べたんだが。

栄養素を生成できる魔法とかあったら便利なんだが、そんな魔法はまだ知らない。

その後風呂に入り、寝る時間になるまで待った。

ただカミナスを強化する為だけなのに、どうしてか少し緊張してしまう。

前世で姉とか妹がいなかった弊害なのかね。

そんなことを思いながら部屋で本を読んでいると、誰かが部屋のドアをノックした。

魔力時計――中に入っている魔力が原動力になってる時計――を見るともう10時を超えていたから、カミナスで間違いないだろう。


『どうぞー』


俺がそう言うと、ネグリジェっぽいものを着たカミナスが入ってきた。

……なんだろう、イケナイことをしようとしてるみたいで罪悪感ハンパないな。

こういうのは意識しなければいいと思うんだが、そういう経験が皆無の俺に気にしないでいられるはずはないのである。

無言でベッドまで歩いてきたカミナスが、緊張しすぎな俺に言う。


「そ、それでは……。だッ、抱いて寝てもらえますか……?」


……童貞にそんな難易度高いことを要求されても。

まあ、俺は童貞を卒業する気はないから、一生こういうときは緊張するんだろう。

2人でベッドに寝転がると、俺は優しくカミナスを抱いた。

どこに手をやるべきなのか分からんが、俺はだいたいこんな感じだろうと思ったところに手を回して抱く。

……今更だが、もしかすると、コレも翼の強化方法を知ってないことをいいことにヘルメイス様が仕組んだことなのかもしれない。


「……カミタンの翼の強化に付き合ってもらい、ありがとうございます。これではカミタンは皆から恨まれてしまいますね……」

『いや、俺がいずれ他の全員とそれぞれ一晩ずつ添い寝するだけだから、そう心配すんなって。それ以前に、一刻でも早くホンネコチョウダケの毒を解毒するのに尽力してくれてるキミには、皆感謝してると思うぞ?』


俺が『思念通達』でそう言うと、カミナスは俺を見て微笑んだ。

……月明りに照らされてるカミナスって、ヤバいくらいの美少女だよな。

今回は口をしっかり閉じていたからか、毒の効果が薄れているのか。

どっちかの影響で、その言葉が俺の口から零れることはなかった。

だが、こういうときは真意なんだから、しっかり伝えるべきなんだろう。


『……なあ、カミナスって、月明りに照らされてると……』


そこまで伝えかけたところで、唐突にカミナスが光り始めた。

……お預けプレイは好きじゃないんですが。

カミナスから放たれる光が止むと、そこには何の変哲もないカミナスがいた。

まあ、ドラゴンとしての姿にならないと分からんのだろう。

とか思っていたんだが。


「……どうしてか、少し胸が大きくなりました」


……翼に関係ない部分で強化されるなんて、誰も想定しないだろ。


Episode047 いざ、大魔導士を探しに。

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