第八章 キノコの毒と伝説の大魔導士

Episode044 『ホンネコチョウダケ』とかいうキノコ

梅雨の時期も終わり、現在は7月初旬になった。

俺はたまにディアーと『思念通達』で会話をしながら、最近はかなり普通のスローライフをしている。

川に釣りに行ったりバーベキューをしたりとかはしていないが、畑を耕したり森で気ままに狩ったりと、充実した日々にである。

そんな日常を謳歌している俺は、皆との森で――今日はミニスライムを数十匹――の狩りからの帰りに……シイタケを見つけた。

日本にあったものと遜色ない形や色に、日本人だった俺が手を出さないハズがない。

というワケで、スキを見てササッと回収してきた。

そんで、家もとい屋敷に帰ってくると、俺は『物質創造(中)』で七輪を創り。

俺は醤油と一致している調味料――名をを『ジョーユ』という――を持ってきて、いい感じに焼き目の付いてきたシイタケに垂らした。

醤油モドキことジョーユの焦げるいい匂いがしてきたところで、俺は一口かじる。


「……うまい!」


俺は醤油をシイタケにかけて食べるという食べ方をしたのは初めてだったが、今までこの調理法をしてこなかった自分が愚かに思えてくる。

俺は近くにいたユイナに声をかけた。


「なあ。ユイナもこのシイタケ食べるか? すごく美味しいぞ」


そう言いながら箸でシイタケを見せると、ユイナが少し驚いた顔をした。

……もしかして、この世界じゃシイタケは食べないのが基本なのか?

それも異世界あるあるだとは思うが、それはかなり損をしていると思う。

それとも、シイタケが嫌いってことなのか?

と思って様子を見ていたんだが。


「……アヅマくん、誰に何を言われたのかは訊きませんが、そのキノコをすぐに吐き出してください! それはあまり、あなたの為にもいいとは言えません!」

「え、どうして? コレはシイタケって言って、美味しい……」

「それはホンネコチョウダケと言い、人間関係を壊しかねない危険なキノコです!」


……何ソレ怖い。

それって『言語理解』の影響で名前がそうなってるんだろうけど、漢字で書いたら絶対に『本音誇張』って書くヤツだよな?

しかも、こういうキノコの効果に限って1分と待たずに効き始めるのが俺のイメージなんだが、本当にそうなるんだろうか……。

……なんか、口全体と声帯の感覚がなくなりました。

別に喉の筋肉が機能停止したとかいうワケじゃないと思うが、呼吸困難になる可能性はまずないはず。

じゃなかったら、ユイナがもっと慌ててるはずだからな。

とりあえず、コレが人生で最後のシイタケだったということになるのか……。

その効果をなくせる方法が見つかればいいんだが。


「……ユイナって、やっぱり美少女なんだよな。そのサラサラの髪といい整った顔といい、褒めるところしか見つかんないよ」


あ、口が勝手に動き始めた。

コレの仕組みがどうなってるのかは分からんが、確かに今のもウソじゃないな。

というか、誇張されていないんだが、まだ効果の真骨頂じゃないってことなのかね。

当然のように、ユイナは真っ赤になった頬を両手で抑えながらアタフタしている。


「そうやって照れてる姿も可愛いよ」

「やッ、やめてください! それがあなたの本音なのは十分分かりましたから、これ以上はやめてください!」


……なんだろう、意外と悪くないかもしれない。

効果がどのくらいなのか知らないが、俺は口の支配権をホンネコチョウダケに取られているから質問すら無理だ。


「み、皆さん! アヅマくんがホンネコチョウダケを食べてしまいました!」


直後、家もとい屋敷の中で幾度となくバァン!と音を立ててドアが開いた。

待っていると、15秒後には全員が集まっていた。

……もしかしてだけど、俺に全員への本音を言わせるつもりか?


「さあ、アヅマくん! 1人ずつに本音をあげちゃってください!」



「シズコって、貴族なのに落ち着いてていいよな。俺のイメージだと貴族って落ち着きなかったから、キミみたいな貴族は逆に好きになっちゃうよ」


「カミナスって、オシャレしなくても十分可愛いと思うぞ? 少なくとも、俺はすっぴんのカミナスが一番好きだ」


「ミュストは、シズコと明るさが対照的な感じで元気をもらえるから、そのままでいてくれ。俺は、キミの満開の笑顔がかなり好きだ」


「ジェルトは普段無表情だけど、たまに見せる笑顔にドキッとさせられちゃうんだよな。抱き着いてくる頻度だって気にしないで、いつでもどうぞ」


「コトネの眠そうな表情で俺が癒されてたの知ってるか? もっと俺に膝枕を要求してもいいんだからな」


「カカリって大人びてるのにぬいぐるみが好きなのがチャームポイントだと思う。あと、表情豊かなのも好きだ」


「マルヴェって、意外と大胆なのも好きだ。この前のキスだって、頬にとはいえ急だったからビックリしたけど、嬉しかったぞ」


「ヘリュミって、もっと元気出したらめっちゃ可愛くなると思うぞ。今も十分に可愛いけど、その可愛さを秘めたままにしておくのはもったいない!」


「タシューはミュストと同じくらい元気なのが好きだ。俺の料理に一番美味しいって言ってくれるのもキミだしな」


……この声帯、あんまりモノを考えずにいろいろと言いやがる。

全員を満足させているようだが、AI生成されたセリフほどとはいかないけど、ちょっとした違和感を感じるな。

まあ、全員がそれで満足してるならいいか。


「い、言い過ぎですよご主人様! カミタン、そんなに自分に自信がないです……」

「何言ってるんだ? 俺が可愛いって思ってるんだから、それでいいだろ?」

「……そ、そうですね。ありがとうございます……」


いい加減黙ってほしい声帯だが、未だに鎮まる様子がない。

こうなったら、俺の意思のことは紙に書いてやり取りするしかないだろう。

手に痺れはないから、普通に文字は書ける。

少なくとも、書くことまで本音になるとは思えない。

俺は『物質創造(中)』で紙とペンを創り出すと、そこにこう書いた。


『治るまでにどのくらいかかるんだ? 治療方法はないのか?』


その紙を見たユイナは、少し答えに詰まったらしい。

答えるのを躊躇ってから、口を開いた。


「……自然に治ることはありません。ですが、治す方法はあります」


おお、どうにかできるのか。

できれば俺のスキルでどうにかできる範囲だといいんだが……。


「それは、……伝説の大魔導士様のところに行くことです」


……無理ゲーじゃねえか!


次回 Episode045 情報収集、本音を言われまくる11人(いつもの皆+ケント)

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