閑話 マルヴェとコトネの気持ち

家まで馬車で送ってもらった俺たちは、御者の男性にお礼を言い、家に入った。

もう日が暮れているくらいの時間帯だが、今は特に何も食べる気になれない。

皆もそんな感じで、対談の疲れが出ている様子だった。


「アヅマく~ん。コトネちゃんに膝枕してよ~」


今までに見たことないくらいに眠そうな顔をしているコトネが、居間のソファーでぐでっとしている俺にそう言いながら身を預けてきた。

……俺に下心というか、強い性欲とかがなくて運が良かったと思うぞ。

巨乳に身を預けられるのも悪くはないのだが、アレを感じてしまうからね。

なんというか、その柔らかみにあまりムラつかない俺は異常なんだろうか。

それ以前に、俺は子育てとかしたくないから子を成すようなマネはしたくない。

そんなことを思いながら急いで膝の上にコトネの頭を乗せてあげると、羊の少女の天使は嬉しそうな表情でニマつく。


「あ、コトネちゃんったら、またアヅマくんに甘えて……。……私だって、たまには甘えてみたいのに……」


俺たちの横を通りすがったマルヴェが、頬を膨らましながらに言う。

最後になんだか聞き逃していけないようなことを言っていたのだが、鈍感主人公じゃない俺には何を言っているのか分かる。

自分を自意識過剰だと思うのは、この世界に来てから何度目だろうか。


「それなら、マルヴェも俺の隣に来ればいいじゃん。ほら、右が空いてるぞ」


俺がポンポンと隣を叩くと、少し躊躇したような表情になってから、マルヴェは俺の隣に座り、肩を寄せてきた。

……この様子をユイナに見られたら、後で大変なことにならないだろうか。

いや、本人が前に言っていた『誰のモノでもないのに怒る権利はない』をまだ遵守していると信じる他ないな。

……そうだ。このメンバーに話しておきたかったことがあったじゃないか。


「なあ。自意識過剰なつもりはないんだけどさ、……2人は俺のこと、どう思ってるんだ? できれば、素直に教えてほしい」


そう、2人の気持ちの確認である。

この2人に限っては、まだ俺に好意があるのかどうかが確実じゃない。

今朝の馬車に乗るときのアレで頬を染めていたのは見たが、それだけじゃ確信には至れないのだ。

天体観測の前に皆で微笑んできたときのだって、全く証明とは言えないしな。

別に、俺は2人が俺のことを嫌いだろうが何だろうがそこは気にしない。

……気にしないと言えばウソになるが、俺が訊きたいことは、この空間にいて居心地が悪くないかということである。

俺を好きな者たちとの間でされているやり取りにうんざりしているかもしれないし。

まあ、こうして膝枕を要求してきたり、俺に甘えたいと思ってくれたりしているってことは、殆ど問題じゃないってことなんだけど。


「……コトネちゃんは、アヅマくんのことが好きだよ?」


静かになっている家もとい屋敷の居間に響く、確かな意思を宿している声。

下を向くと、少し赤くなったコトネが俺を見て満足そうにしている。

……不意打ちは恥ずかしいんでやめてほしいんだが。

俺から仕掛けておいた質問の答えなんだから不意打ちとは言えないのだが、せめてワンクッションくらい挟んでから言ってほしい。

俺も、なんだかんだで面倒なヤツなのかもしれない。

コトネの言葉はそこで終わらず、更に話し続けてくれる。


「だって、急に現れて、天使だって分かっても、差別しようだとか思わなかったじゃん。それに、追ってきてたカカリちゃんやマルヴェちゃんと和解して、しかも2人とも幸せにしちゃったし」


……そこまで褒められるとは思ってなかったな。

というか、この世界って天使が現れても差別しようとする人がいるのか。

言い様からして、もしかすると、以前一度くらい地上に出てきたコトネは差別に遭ったのかもしれない。

それを思うと少しモヤッとしたので、俺は何気なくコトネの額を撫でる。

頭はともかく、誰かの額を触ったことのない俺からしてみると、コトネの額はどうなってるんだと言いたくなるくらいにスベスベだった。

とりあえず、無言ってのも場を悪くする要因だ。


「お、俺って、意外とそういう非常事態に慣れてたのかもしれないな。別に、コトネもマルヴェも美少女なんだから、種族とか関係ないだろ」


俺は一応、自称美少女至上主義なのだ。

美少女なら種族も何も関係ないし、助けになるなら頑張って行動する男なのだ。

まあ、今の俺なら、11人以外の案件は積極的に避けようとするだろうが。

もしかすると、俺はこの11人に何か感じていたからこそ素直に手を差し伸べたんだろうが、ここで『ヘルメイス様がそうしたのかも』と考えるのはある種のメタ発言みたいになるだろうな。

あと、今のセリフで2人が赤面したのはいつものこと……だな。

すると、さすがに黙って聞いていられなくなったのか、マルヴェも語り始めた。


「わ、私も、最初は戦いを覚悟してた。人間さんとは仲良くしたいのに、皆さんが偏見を持って攻撃してくるのは普通のことだと思ってたから……」


どうやら、天使や悪魔の中では、人間が攻撃してこないのが異常らしい。

すぐ攻撃するとか好戦的なヤツとか、自分の身しか案じてないヤツだけだろうし。

どうであれ、俺の対処は間違ってなかったんだよな。


「……だから、戦わずに済ませてくれたアヅマくんに今も感謝してるし、これから先も、この楽しい生活に引っ張ってきてくれたお礼をしたいの。……例えば、こんなお礼はどうかな……?」


まさか……!? と思って本能に従い右を向くと、マルヴェが俺の頬にキスをしようとしているのだが。

驚きのあまり硬直していた俺は、そのまま頬にキスをされた。

……なんか、ありがとうございます。


「こ、コレは秘密だからね?」


そう言うと、天使な悪魔はウインクをして、俺の隣を発った。

そのまま階段を上る音がしたし、部屋に帰ったのだろう。

ちなみに今のキスだが、コトネは寝ていたので誰にも見られていないことになる。

……俺は明日から、どうマルヴェと顔を合わせればいいんだ!?


次回 Episode043 お忍びクエストと雨宿り

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