Episode041 俺からの提案
「ワタクシの剣が受け止められたのは、生まれて初めてですわ! だからこそ、あなたがワタクシの殿方にふさわしいのです!」
「いえ、ちょっと待ってください! 俺みたいな一般人に毛が生えただけみたいな男を殿方に選んだら、あなあの品格が疑われてしまいますよ!?」
……俺は今、一国の王女様に婚姻を申し込まれそうになっている。
普通の人たちからしてみたら羨ましすぎる展開かもしれないが、王族の一員になんてなりたくないし、生活だって変えるつもりはない。
それに、そうするとあの娘たちに会えなくなってしまう。
ディアー様やリーヴァ様と会うくらいなら、そのうち俺の魔法でどうにかできるようになるのは分かる――たった一ヶ月でコレだ――から問題にはなるまい。
ただ、王女様はどうしても諦めきれないといった様子で。
「そんなの関係ありませんわ! 愛する人を愛せずして、人生に価値があると思えますか? つまりは、そういうことなのですわ!」
うーん、言ってることはすごく理解できる。
だって、俺と思ってることは同じなんだもんなあ……。
俺の『思念通達』に顔も表示できる機能が付いたらいいんだけど、さすがのヘルメイス様でもそこまではできないだろうし。
それに、次はいつ会えるのか分かったもんじゃない。
「こんな素晴らしい人と暮らせるなんて、同じ上の身分の者として、素直にフリエール卿とゲルヴェート卿が羨ましい限りですわ……」
掴まれっぱなしだった俺の肩から手を放し、シュンとした様子でディアー様が言う。
後ろをチラッと見ると、シズコとミュスト……とカミナスが、ちょっと複雑そうな顔で苦笑している。
さて、俺はこれからどうするべきなのか……。
「……仕方がありませんわ。今日のところは諦めるとしましょう。いつかあなたが許してくれる日を待って、それまでワタクシはリーヴァと政治を続けますわ」
あれ、意外と簡単に諦めてくれたな。
『今日のところは』って言っているのが怖いが、そんなに王城に来ないといけない機会もそう多くないだろう。
……それなら、少しくらいはその気持ちに応えてあげるべきなのかね。
と、いうワケで、もしかすると怒られるかもしれない提案をしてみることにした。
「あの、ディアー様。失礼を承知の上で、どうか聞いてください。今回あなたが俺に負けた理由なのですが、単に実践不足というところなのではないかと愚考しました。今まであなたと戦ってきたのは、どなたでしょうか?」
「え? そうですね。騎士団長のリピカ殿と、その配下の方たちですわ」
……そんなところだろうと思った。
魔物相手に戦ってきているなら、こうはならないはずだからな。
「今までの方々は、あなたに花を持たせようとしたのだと思います。その所為で、あなたは高い潜在能力を十分に引き出すことができていないのです」
「高い潜在能力、ですか……?」
どうやら、この王女様は自身の能力に気が付いていないらしい。
少なくとも10mはあった俺との間を一瞬で詰めたんだから、十分に強くなる。
俺だって、あの初撃の横薙ぎを見切れなかったら当たっていた自信があるし。
「だから、……王城の皆さんが許してくれたらですが、俺たちとクエストに行きませんか? 勿論お忍びですが、装備はコッチで用意しましょう。強い魔物の出てくるクエストも多いですが、俺たちがサポートしますから安心してください。あなたのその様子だと、強くなりたいって感じがよく分かりますよ」
「そんなこと、許されるのでしょうか……。ワタクシは、確かに強くなりたい。ですが、お忍びと言えど、身を危険に晒すのは、家臣たちが許してくれるはずが……」
そう言いながら、家臣たちがいる方を向くディアー様。
しかし、そこには誰ひとりとして、首を振る者はいなかった。
皆が満足そうな顔をしているが、……俺、結婚させられちゃうとか在り得るのか?
まあ、その辺はそのうちどうにかすればいいんだし、今気にすることじゃないか。
「皆さん、いいのでしょうか? ワタクシは一国の王女の身分であるのに、ワガママのようなことを言ってしまって……」
とディアー様が零すと。
パメラさんが近寄ってきて、「よっ! ジェントルマン!」と褒めたくなる表情で。
「いいのですよ、ディアー様。あなたは、王女の座に就いてからの3年間、一度も要望を仰らなかったではありませんか。たまには、そういうのもアリだと、私は思いますよ。……そこでアヅマ様との関係を深められれば、あなた様の願いも叶いますよ」
余分なことを言いながらも、パメラさんは俺の提案の後押しをしてくれた。
何があっても王族に籍を入れるつもりはないが、このくらいならいいだろう。
これからの王女様がどう変わっていくのか、俺も少し楽しみである。
とか考えていると、ずっと話の蚊帳の外になっていたリーヴァが。
「お姉ちゃんって、この人と結婚したいんだよね? それなら、リーも手伝う」
そう言って、姉妹の愛を感じさせた。
こういう光景は、本当に微笑ましいものである。
ところが、当のディアー様が少し顔を青ざめさせているんだが。
「ちょっ、リーヴァ? 絶対にそれだけはしてはいけませんよ?」
「? どうかしましたか?」
俺が問うと、ディアー様はちょっと落ち着きを取り戻した顔で。
「い、いえ……。リーヴァは魅了魔法の使い手ですので、少し注意を……」
……妹の方だけは、絶対に惚れさせてはいけない。
たとえ、それでヘルメイス様が「えー。面白くないじゃーん」とか言ったとしても。
俺はそう、心の裡に決意するのだった。
次回 Episode042 お忍び王女様とのクエスト、どうする?
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