【11万PV,1240F,★170,♡2450】勇者にフラれた最強美少女の『ざまあ』を手伝ったら、急にスローライフが始まりました~俺でいいならお好きなだけ隣にどうぞ~
Episode040 ワタクシの殿方ですわ!「ヤメテクダサイ」
Episode040 ワタクシの殿方ですわ!「ヤメテクダサイ」
「これはこれはディアー様。もういらっしゃったのですか」
パメラさんが俺たちに声を掛けた方の王女様に近寄る。
焦げ茶色のストレートロングで、大人びた印象のあるこの人がディアー様か。
長い髪の方が長女だ、とどこかで誰かが言っていたし、ディアー様が長女だろう。
それなら、もう一方の、椿のような赤い髪でツインテールを作っている、なんだか怯えたような表情をしている人がリューヴ様なのか。
とりあえず、挨拶の一つでもしておくか。
呆然と立ち尽くしていた所為で声掛けに反応できてなかったし。
俺は片膝を床につき、胸に手を当てると。
「お初にお目にかかります、ディアー様、リューヴ様。私は冒険者、アヅマ・カンザキと申します。この度は対談をしたいと仰ってくださり、誠に光栄でございます」
……うーん、これでいいもんかね。
何も考えてなくて放ったし、こうなるのもしょうがないか。
まあ、アドリブでコレだったんだし、自己採点で90点を付けさせてもらおう。
下げていた顔を少し上げ、ディアー様の様子を確認すると。
「そこまでかしこまらなくていいのですよ。ワタクシたちは全てのことで、必要最低限以上の抑制は不要と考えて行動していますから」
……王女様がそう言うのなら、最低限の身の弁えだけでいいか。
堅苦しいのが嫌いとか、そういう感じなんだろう。
王都の犯罪発生率がそう高くないのも、代々受け継がれてきたであろう、この温厚さのおかげなのかもしれない。
「初めまして。ワタクシはこの国【自由国バイダー】の第一王女、ディアー・シノラウホ・ラックワーソと申します。本日はワタクシたちの要望にお応えしていただき、誠にありがとうございます」
「リーはリーヴァって言います。精霊さんの悪戯で生まれてきた、第二王女です。お姉ちゃんはリーのことを人間さんって見てるから、そう扱ってね」
この国って、そういう名前だったんだな……。
今までその辺のこと気にしてなかったから、正直言って初耳である。
「それでは、まずはあなた方の功績を話してもらえます? ワタクシ、あなた方にちょっと、いえ、かなり興味がありますの」
*
それからしばらくの間は、俺が主導でつい一ヶ月くらい前からのことを話した。
こうして振り返ってみると、この世界に来てからの日々は充実しているな。
そりゃ、美少女たちに囲まれながらくらしていて充実していないワケがない。
それはともかく、俺たちの話に、王女様たちはとても喰いついてきた。
一回一回リアクションしてくれるから、コッチも話していて楽しい。
「それで、俺は言っちゃったんですよ。『……そっか、ありがとな。俺も、……ま、まだどういう意味なのか言わないけど、好きだからな! 皆のこと!』って。そうしたら、皆して俺を追いかけてきまして。アレは疲れましたよ」
「それはご主人様の自業自得です! 素直にカミタ……私たちに捕まっておけばよかっただけなんですから!」
とりあえず、今は現段階で最後の出来事である天体観測の事件について話している。
どこぞの素晴らしい世界でも、こうやって王族に呼ばれて冒険の話をしていたヤツ等がいたが、アイツ等の冒険と比べたら、俺たちの冒険はまだ短いものだな。
「……かなり女誑しのようですね。あまり訊かない方がよろしいのでしょうが、アヅマ様はどうしてそのようなことを?」
「俺自身もちょっと理由が分からなくてですね。天然ってこともないんですが……」
この質問には、本当は『ヘルメイス様が与えた体質』って言いたかったんだけど、もしそれで神への侮辱とかってされたら大変だから黙っておく。
俺の返答に苦笑したディアー様は、そのまま微笑みを浮かべると。
「あなた方は、短期間の間にそんな多忙な冒険をしてきたのですね……。ワタクシは王城の外に出る機会がないので、とても羨ましいです」
と、王族の娘なら誰しも言いそうなことを言った。
やっぱり、王女様とかからしたら、冒険だって叶えたい夢なケースが多いな。
俺だったらどうにかできんワケじゃないと思うが、今はどうしようもない。
「ねえ、お姉ちゃん。リー、アヅマ様とお姉ちゃんの戦闘を見てみたいです」
ディアー様のドレスの裾をクイクイと引っ張りながらリーヴァ様が言った。
……急に何を言い出すかと思えば、俺からしてみればハードルの高いことを……。
仮に俺がディアー様を傷つけてしまうと、俺は何かの罪で訴えられる可能性がある。
逆に、コッソリと俺たちの存在自体を消してしまうなんてことをしないとも断言はできないのも困りものだ。
「コラ、そんなことを言っては、アヅマ様が困るでしょ? ……申し訳ありません、アヅマ様。もし、あなたが許してくださるのならば、ワタクシの妹の為に、剣で一本交えてはもらえないでしょうか?」
……ディアー様もやる気なのねえ。
王族なのだから、さぞかし実力があるんだろうなあ……。
俺としては問題を起こしたくはないから戦いたくはないんだが、ここで無碍に王女様からのお願いを弾くってのも俺の趣味じゃない。
……しょうがないけど、戦うか。
「分かりました。それでは、お好きな場所でお手合わせをお願いします」
*
あれから、だいたい10分が経過した。
王城の稽古部屋――だいたい広めの体育館くらいはある――にて、俺は一国の王女様と剣を向け合って対峙している。
周辺には王城のメイドさんやらパメラさんやら他の召使たちやらが群がっているんだが、今からする試合で俺が勝っても恨みっこなしだよな?
今のディアー様の服装は、王族って感じを纏う軽装と、一本の剣だ。
『解析』曰く、あの剣は【絶対剣ソリュートエイブ】という剣らしい。
由来は『絶対』もとい『アブソリュート』をバラしたってところだろう。
俺はより強く剣を握り直すと。
「それでは、お願いします」
「ワタクシも、一国の王女として、負けるワケにはいきませんわ」
ディアー様も、俺にだけ視線を集中させてくる。
そうしていると、パメラさんがレフェリーとして前に出てきた。
「それでは! これより、冒険者アヅマ・カンザキ様と、我らが王女ディアー様による、一本勝負を開始する!」
その掛け声と共に、ディアー様が一瞬で間を詰めてきた。
流れのままに放たれる横薙ぎをしゃがんで避けた俺は、横薙ぎを避けられてビックリし、勢いを殺し損ねて転びかけているディアー様をそっと抱きかかえると。
眼前に剣を見せ、無礼にならない程度に微笑んで。
「これで、チェックメイトですね」
確かに、実力はあるみたいだ。
俺だって、このまま戦闘を続けることになったら勝てた自信がない。
勝手に分析させてもらうとだけど、そもそも経験が足らないな。
王城から出る機会はないと言っていたし、完全に根本的な理由である。
そっとディアー様を立たせると、俺は手を差し出した。
とりあえず、こういうときは言うべきセリフが幾つかある。
「もしかして、花を持たせようとしてくださったのですね? ありがとうございます。次こそは、あなたに全力を出して戦ってもらえるくらいになれるよう、精進いたします!」
そう、相手を立てるのだ。
そうしないと、場合によってプライドの高いことがある貴族連中と上手くやり取りをすることだってできないだろう。
そんなことを思っていると、ディアー様が俺の言葉に下を向いた。
花を持たせたと勘違いされてしまった自分に失望しているのか、それとも、負けてしまった自分に怒りを感じているのか。
それとも、今の言葉で侮辱されたと思って怒っているのかもしれない。
「……の、……方……ですわ……」
え? 何か言ってる?
俯いてるし小さい声だしで、何を言ってるのか聞こえないのだが……。
すると、急に俺の両肩をガシッと掴み、英雄を見るような目をして顔を上げたディアー様は、確かに言った。
「あなたは、ワタクシの殿方ですわ!」
「……ヤメテクダサイ」
……どうしてこうなったとは、聞く必要もないな。
おのれヘルメイスゥゥゥゥゥ!
次回 Episode041 俺からの提案
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