Episode039 姉妹の王女との対談

ヘルメイス様との話を終え、俺は目を覚ました。

……なんでか、ジェルトに膝枕されてるんですが。

いやいいんだけどさ?


「……大丈夫?」


ジェルトが不安そうに呟く。

自身の都合で俺を気絶させてしまったことに、負い目を感じているんだろう。

でも、俺を好きだから、あんな器用なこと――俺の魔力だけで術式を完成させる――をしたんだと思うし、悪くはない。

むしろ、それで膝枕をしてくれているなんて、贅沢すぎる気がする。


「ああ、大丈夫だ」

「……私のワガママで気絶させちゃた。ごめんなさい……」


……ここは、やっぱり頭を撫でて慰めてあげるべきか?

チャラ男じゃないんだから、そんな簡単にナデポを使うってのはガラじゃない。

だが、今回ばかりはそうしないと俺の気が済まなさそうだ。

俺は起き上がり、ジェルトの頭を撫でる。


「なんているか……。そういう愛の伝え方も、俺はアリだと思うぞ」

「え? 愛の、伝え方……?」

「そうだ。だって、ジェルトは、その……俺が好きだから、俺の魔力だけでドレスを完成させようとしたんだろ? だったら、俺は問題ないと思う!」


そう言って笑いかけてあげたところで、俺は我に返る。

いかん! これではナデポとニコポの強力コンボが発生してしまった……!

ジェルトを見ると、また耳まで顔を真っ赤にして俯いてしまっているが、もうその光景に慣れを覚えはじめてしまっている俺は異常なんだろうか。


「あ! ジェルトだけズルい! ミュッさんもなーでーて!」


俺たちの声を聞きつけたのか、ミュストまでが撫でるのを要求してくる。

……今までミュストを撫でてあげたことはなかったが、身長的には俺にそれなりに近いんだよな……。

まあ、撫でてほしいと言われれば、誰でも撫でてあげないこともないが。

ただし、俺と暮らす11人に限る!


「そういうことなら、コッチに来てくれ。……ジェルトがどさくさに紛れて、俺に抱き着いてきてるから動けないんだ」


つい今の今まで気が付かなかったんだが、ジェルトに抱き着かれていた。

人の温もりが好きで、ハグが好きなんだろう。

まあ、その相手に選ばれる俺は光栄に思うべきかもしれない。

そんなことを思いながら、俺は近づいてきたミュストの頭にも手を乗せる。


「……よく考えると、ミュストが俺たちのところまで来てくれなかったら、俺たちはまだ6人暮らしだったんだよな。……出会いをくれてありがとな」


無言で撫でるのもどうかと思い、俺は何気なく感謝を伝えながら撫でる。

こういうのって、そんなに言う機会って設けられないからね。

……まあ、そうしたらミュストも耳まで顔を真っ赤にするのは分かっていたが。


「……ミュッさんも皆も、アヅッチが大好きだよ……」


そう言いながら抱き着いてくるのも想定外な俺は、手遅れな自意識過剰ヤローだ。

でもそうじゃないと、何が起こるのか想定できないんよな……。

まあ、それが俺の常識ってことで。

その後、俺がその光景を8人に見つかって、全員の頭を撫でてあげなきゃならなかったのは誰もが想定通りであろう。



そして、遂にその日が来た。

全員が俺の『物質創造(中)』によって創られたドレスを着ているのだが、やっぱりいつもよりも皆が可愛く見える。

もしこの世界にカメラがあったら、写真撮影の一つでもしたところだ。

いつか『物質創造(中)』が『物質創造(高)』に進化したら創れるか試してみるか。

そんなことを思っていると、俺たちの目の前に一台のデカい馬車がやってきた。

話しかけたことのある人には直接話かけらられる魔法『思念通達』にて、俺が事前にパメラさんにお願いしておいたヤツだ。

本人はそんなことができていいのかと驚いていたが、世界は広いモノですよと冗談めかして言っておいた。

御者の男性に促され、俺が先に乗り込むと。


「さて、お乗りください。お姫様」


と言いながら、それぞれに手を差し伸べてあげて乗せさせた。

こういうの、いつかしてみたかった気がしないでもないんだよな。

それでまた全員を赤面させた後、馬車はゆっくりと進みだした。

よくこんな高原まで馬車を派遣してくれたなと思うが、それだけ人情深い王女様って認識していいんだろう。

そのまま進んだ馬車は王都の門をくぐり、周囲の人をざわつかせながら進んでいく。

事前の交通規制とかしないで王都を突っ切って行くのは、そういう知らせを出していると、相手次第では襲撃しようとする輩が出るとかだと思う。

まあ、そもそも一般人みたいな俺たちが王城に呼ばれているってこと自体が前例のないことなんだろうし、どうであれ知らせは出しにくいか。

少しして王城の前に辿り着いた馬車から降りた俺たちは、城の範囲の門前で待っていたパメラさんがお出迎えしてくれた。


「こんにちは、アヅマ様。この度は、王城に来てくださり、誠にありがとうございます。王女様方がお待ちになっておりますので、どうぞこちらへ」

「こちらこそ、馬車を手配してくださり、ありがとうございました」

「魔法による会話が可能なお方の要望にお応えしないワケにはいきませんからね」


……もしかして、俺ってかなり恐れられてるとかあるのかな?

そりゃ、魔法でいきなり話しかけてくるヤツなんて普通はいないからな。

というか、王女様の召使であるパメラさんに急に話しかけて大丈夫だったのか?

もしかすると、意外と問題視されてるとか在り得るかもしれない。

俺のそんな不安を察知したかのように。


「あなた様の魔法ですが、ディアー様もリューヴ様も大変お褒めになられていましたよ。この世界には、まだ見ぬ力を持った冒険者様もいるのですね、と」


……この王城の中に、そのディアー様とリューヴ様――この国を治めている2人の王女様――がいるのだ。

とりあえず、できれば王族貴族にも好きになられるのは困るんだが。

別に自意識過剰ってワケじゃないんだが、俺の主人公属性ならそうなりかねない。

だって、日本にいた頃に見てきた話でも、主人公が王女様に好かれる――主人公の男女関係なしに――ってことはかなりあったし。

それとも、それは俺の見る作品が偏っていただけなんだろうか。

俺はそんな解決しない疑問を頭から振り払い、パメラさんに誘導してもらって、大広間みたいな部屋に到着した。

その扉をパメラさんが開けると。


「あなたが、最近話題の冒険者様、アヅマ・カンザキ様ですの?」


大広間の中心には長くて広い、アニメで王族がよく使っているようなテーブルがあり、その一番奥の席二つに、2人の王女様が座っていた。


次回 Episode040 ワタクシの殿方ですわ!「ヤメテクダサイ」

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