第七章 王女が姉妹? 嫌な予感が。

Episode036 姉妹の王女からの招待状

俺たちがロリコン事件を解決してから、数日が経過した。

ヘリュミとタシューは俺たちとの生活にも慣れ、最近では家事の手伝いも積極的にしてくれているので、とても助かっている。

だからと言って――ちょうどいい高さだからってのもあるんだが――その度に頭をなでていると、周りからブーイングが湧くので気を付けているのは秘密だ。

それと、遂に俺たちの家もとい屋敷の空き部屋が満室になった。

もうこれ以上は家族が増えることもないと願いたいが、俺の巻き込まれ体質がどこまで作用してくるか次第なのが怖いところである。

それはともかくとして、今朝の手紙取りは俺がやることになっている。

もう11人暮らしと大家族になったこともあり、最近じゃあ作業を幾つかに分けて分担している――食事は全て俺固定らしいが――ので、余裕も生まれた。

だが、これ以上家族は増やせないので、何たらの魔女のとこみたいに、エルフの1人くらい駆け込んで来たり、それから少しして幽霊に出会ったりしないといいんだが。

まあ、増築するって手もあるが、それもそれでどうなんだか。

とか思いながら外に出ると、執事みたいな恰好をした、いかにもジェントルマンな見た目をしている長い髭の男性が立っていた。

この前のヒゲオヤジと違って、かなり好印象な顔をしているな。


「あの……、どちら様でしょうか?」


俺が声を掛けると、その男性は、胸ポケットから名刺と手紙を取り出した。

もしかして、シズコかミュストの家の人か?

執事っぽいと言えば、そのくらいしか心当たりがないし。


「おはようございます、アヅマ・カンザキ様。私は、王城にて王女様の召使をさせていただいております、パメラと申します」


……今、どこで誰の召使してるって言った?

王女様の召使って……ヤバい地位の人が来たな。

もしかして、この前解決した事件だけど、アレで貴族の信用を穢したとかで呼ばれてるとかじゃないよな?

あの事件、俺たちのおかげで300人にも及ぶロリっ子が助かったって聞いたけど。

どんなことしてたらそんなに養えるんだよと思っていたけど、どうであれ、アイツの財産は底を尽きそうになっていて、領地の住民たちに危害が加わる可能性も少なくはなかったんじゃなかったのか?

つまりは少なく見積もっても300人は救われているはずなんだが。

まあ、転生者たるもの、一度は法廷に立っておくのも悪くないだろう。

と、かなり無理のある言い訳で自分を騙そうとしていると。


「一週間後、王女様たちが、あなた方と対談をしたいとお申しになられまして。その詳細をお知らせする為に、ここに参りました」


……よかった。流石にそんなワケなかったか。

逆に、いくら300人以上は助かったからとは言え、魔王軍の幹部を討伐しまくったとか、各地で厄災を沈めたとかって話のない俺たちと面談を……ってアレ?

精霊皇帝に邪精霊、宝石人形にグリフォンの大群まで、その辺の大物討伐をした者の一覧には、俺の名前が入ってるんだよな。

そういえば、冒険者ギルドを通じて、王都の参謀やら騎士団長やらが強者の情報を共有するとかって……。

つまりは、俺が呼ばれる道理はあったってことか。


「と、届けてくださり、ありがとうございます」


俺は礼を言って手紙と名刺を受け取る。

その後、パメラさんは頭を下げて徒歩で王都に帰っていったみたいだが、一応魔物が出る可能性のある森が近くにあるんだし、安全には気を付けてほしいものである。

まあ、わざわざ馬車で出向かれるってのも困るが。

呆然とその背中を見送り、我に返った俺は、ポストから手紙を引き抜いた。

……ん? 王女様たち・・



「王女様たちとの対談、ですか……」


朝食の後で、俺は手紙を取りに行ったときのことを全員に話した。

皆も少しは混乱したみたいだが、300人以上もの人が救われたんだしおかしくないと納得(?)したらしい。

テーブルの真ん中に置かれた手紙を凝視しながら、俺は気が付いた。

解消しておかないといけないことがあったんだわ。


「なあ、王女様たち・・ってどういうことなんだ?」


王様と女王様とか、あって王女様1人――若い娘1人に政治の先頭をさせるのはどうかと思うが――とかってのが常識だと思っていた俺からしてみると、王女様が2人もいるというのはイレギュラーのように感じる。

何か理由があって2人になっているんだろうが、何かあったんだろうか。


「……それなら、この国の王女様の決め方の話からした方が良さそうですね」


ユイナがそう言って、かなり丁寧に話を始めてくれた。

それから話してくれた内容はこうだ。

――昔から、この国は王女様と、王女様に選ばれた騎士で政治が行われてきた。

つまりは君主制ということになるが、この国はどちらかと言えば立憲君主制らしい。

で、次の王女様――王女様の娘――が15歳になると、王女様を引退して女王様になり、たまに女王様の政治を補佐するとかって話だ。

まず、王女というのは、一番最初に生まれた女児がなるとのこと。

現王女様も、勿論のことだが、一番最初に生まれた女児となる。

……ただ、どこぞの精霊に悪戯をされたことが風習を揺るがした。

現王女様が生まれてから数ヶ月後のことで、異国との対談の為に馬車に乗って移動していた現女王様――もとい先代王女様で、一応今も政治に関わっている――に、精霊が魔法を掛け、……女王様は、新たに生命を授かってしまったのだ。

この国では、女王様は王女様となる女児を生んだ時点で、それ以上の妊娠はしないことになっている。

理由は、もう1人女児が生まれると、政権争いになる可能性があるからである。

その精霊が使った魔法の正体も分からず、かと言って流産させることができるほどの技術のないこの世界では、もはや女王様は宿ってしまった子を産むしかなかった。

しかし、運の悪いことに、その子女児だったのだ。

最初は殺す殺さないの論争に至ったそうだが、女王様は意を決し、その子……次女も王女として、長女の王女様と共に政治をさせることにしたらしい。

それで、今のイレギュラーな政治状態にある……みたいだ。


「次女の王女様は内気な性格だったので、今まで政権争いが起こりそうになったこともなく、長女の王女様も姉として、妹の王女様と仲良く政治をしています」


……王族に『仲良く』って概念があるものなのか?

つまりは、何かしらの自由が利く王族なんだろう。

それにしても、王女様2人か……。イヤな予感がするな……。

今回も、俺の主人公属性が発揮されないことを祈っておこう。

そんなんで発揮されなかった試しがないここ一ヶ月ではあるが。


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