Episode035 終わる事件、ココに星が降る

シズコとミュストの頬の熱が治まったのを確認し、俺はヘリュミとタシューが俺たちと共に暮らす旨を話した。

一緒に来なかった5人は驚いていたが、『アヅマならどうであれ、そうなっていた』とかいう論で納得していた。

アレは俺の主人公属性とか関係なく、俺が生んだ誤解だったワケなのだが。


「そういうことだから、改めて、これからよろしくね!」

「お、お願いします……」


どうやらタシューは社交的みたいだが、ヘリュミはそうでもないらしい。

冒険者は人と人との関わりも大切にした方がいいから、その辺にも少しずつ慣れていってもらう必要がありそうだな。

まあ、それはともかく。


「それより、このヒゲオヤジを近くの人里に持っていくか?」


俺は、まだ片手で服の襟をつかんだままでいた貴族――今となっては貴族だが――の男を持ち上げながら言った。



「ま、まさか、あのメルトマン男爵がそんなことをなさるとは……」


もう金属――どんな場所にも一つはあるらしい、オリハルコンでできた――檻の中にいるヘルマンを見ながら、近くにあった村の村長は言う。

この村は、あの小屋から上空に飛び立ってすぐに目に付く場所にあった村だ。

そんな近くに村があるとは思っていなかったが、もし俺が『魔法破壊不能付与』なんかをぶち破るほど高威力で魔法が使える人間だったら、この村にも被害が出ていたのかもしれないと思うとゾッとするな。

何も起こらなかった方が幸せだったとは思うが、ジェルトに盗聴魔法を使われていた限りは回避不可だたし、ヘリュミやタシューを助けられたことで考えても、今回ばかりは強者の俺たちが引っ掛かってよかったのかもしれない。

そんなよろしくない考えを頭から追い出し、俺は村長に問う。


「ところで、迎えの馬車ってどうするんですか?」


情報を伝える魔法がないと思しき――俺の『思念通達』はゴブリンから回収したし、まだコレを使える人を見たことがないから――連絡手段は何なんだろうか。

ヘルマンは強者だったし、一刻でも早くしないと逃げられる気もする。

そんな俺の疑問に。


「いえ、連行要請をする際に打ち上げろと言われている花火がありますので、それを打ち上げました。王都もそれほど遠くはないですし、一時間もすれば来ますよ」


村長が手短に説明してくれた。

……よかったー! 一応当事者だから、話さなきゃいけないってことで離れられない時間が惜しいと思っていたが、まだ一時間ならマシな方だ。

まあ、待ってる間はただただヒマだからってだけなんだけどね。

というか、どんだけ高くまで打ち上がる花火なんだろうか。

そういう連絡手段だと、魔物が寄ってくるとかないんだろうか少し心配になる。

魔物に見えない光とかじゃなかたら、かなり危険な道具だと思うんだが……。



一時間後、本当にこの村に王都の騎士が来た。

馬車の御者台の部分の後ろには、そっちにもオリハルコン金属でできている檻があり、騎士は犯罪者への容赦など知らぬといった感じでヒゲオヤジを放り込むようにして移動させたのだが、未だに起きる様子がない。

その後に関係者の調査が行われ、俺は話すだけ話した。

数人いた騎士の1人が『解析』を使えるらしく、それで嘘を吐いていないかどうかを調べられているので、疑われることはないとのことだ。

ケモミミの少女たちは俺たちについていくと言っていることを聞いたときの騎士の顔はなんとも複雑そうな微妙そうな感じだったが、そもそも2人の故郷からどのくらい離れているのかも分からない状況じゃ、騎士には頷くことしかできなかったらしい。

この世界は魔物もいるってことで、意外と自己決定権が大切にされているんだろう。

いや、騎士の指示で被害が出たって事件を起こさない為の策ってのが正解か。

それはともかく、少しして取り調べが終わったことを確認すると、俺たちは颯爽とその村を出ていった。

天体観測が一番の目的なのに、最早それどころではなくなっていたからなあ。

カミナスの背中に乗って飛び立ち、話していたらすぐに目的の場所の到着した。

あんな目に遭わなかったら、こんなに長旅に感じることもなかったと思う。

どちらかっていうと、今日の事件は起きなきゃダメだったような気もするが。


「ここがその高原か……」


確かにこの辺で一番高いところにある野原で、近くの山とか、もう少し上まで行けなくもないのだが、その辺は安全が確保できないからやめておくことになったらしい。

全員が降り、カミナスが人型に戻ると、俺たちは野原に寝転がった。

アベリタ高原の草はワケが分からないほどに柔らかいと――これもカカリが調べてくれて――聞いたのだが、本当にカーペットみたいな感触である。

まあ、地球アッチとは違うんだし、そういうこともあるわな。

……とりあえず、そのフワフワに背中を押されたかのように、俺は決心がついた。

誰にも言わないはずだったんだが、言わないと、これからも迷惑を掛けるからな。


「なあ、まだ俺たちが6人……俺、ユイナ、カミナス、シズコ、ジェルト、ミュストだけだった頃の話になるんだけどさ。していいかな?」


その質問をしてから3秒間、風が吹く心地よい音だけが響いた。

誰も動かなかったってことは、拒否してないってことなんだろう。

俺は一つ深呼吸をすると、流すように零した。


「ジェルトとミュストと出会う要因になった精霊皇帝がさ、俺が転生者だって言ってたけど……。実は俺、その通りで、転生者なんだ。だから、この世界のこととか全く知らないし、俺や皆がどういう原理で生きてるのか知らないんだよなあ……」


俺がそう言い終わっても、誰も驚きの声を上げない。

仮にこの世界で転生者が珍しくないにしても、ちょっと意外な反応である。

それをいいことに、俺はもう少しだけ話を続けることにした。


「しかも、転生者あるある……って感じで、巻き込まれ体質なんだ。その代わりみたいなヤツで『魔法再現』があるんだけど……。皆は、これからも、巻き込まれ体質の俺と一緒にいてくれるのか?」


今回は、巻き込まれ体質のおかげで2人の少女を救えた。

なんなら、俺は巻き込まれる度に誰かを救ってる気がする。

でも、これから、もっとヤバいことに巻き込まれるんだとしたら……?

それは俺にもどうなるのか分からんし、どうしようもないかもしれない。

だからこそ、こうして訊いておくしか、今はできないのだ。


「……いいですよ。だって、私たち・・・はあなたが大好きなんですから」


独白を浮かべて降ろしていた瞼を、俺は持ち上げた。

そのまま体を起こし、俺は10人の顔を見た。

急に見渡してきた俺に驚いたらしいが、それぞれ、少し照れながら俺を見て微笑む。

……俺、何訊いてんだろな。

自意識過剰かもしれないと思ってそう思うのをやめていたが、皆は俺が好きなのだ。

ちゃんと、やり方は違っても愛を示してくれていたではないか。

まあ、マルヴェとコトネからのアプローチがまだな気はするが、このタイミングで皆と一緒に微笑んでいるってことは、そう考えてもバチは当たらないはず。

年齢も種族も違う少女たちは、俺を愛している。

そんな事実だけで、俺と一緒にいてくれるんだから、誰よりも強い味方……家族だ。


「……そっか、ありがとな。俺も、……ま、まだどういう意味なのか言わないけど、好きだからな! 皆のこと!」

「あー! またご主人様がはぐらかしました! 前もそうでしたよね!?」


俺の返しに誰よりも早く反応したカミナスが、余計(?)なツッコみをしてくる。

次の瞬間、全員が目の色を変えた……と思ったら、何故か追いかけてきた!?

咄嗟に俺も走り出し、謎の鬼ごっこが始まった。


「待ってください! 出会った初日に私に言ってくれた『好き』の意味も、今言ってくれた『好き』の意味も、素直に教えてください!」

「あ、悪魔にも好きって言ってくれるのは嬉しいんだけど……、それなら意味を教えなさい! カミナス、やっちゃいなさい!」

「分かりました! 昨日の方向音痴で迷わせたのも合わせて、カカリさんにはカミタンのお願いを聞いてもらいますからね!」


追いかけてくる先陣で叫ぶユイナの背後から、かなり危険なやり取りをしているカカリとカミナスの声が。

背後を見ると、ドラゴンの状態に戻ったカミナスが……!


「ウギャ――――!」


……響き渡った俺の悲鳴が、かなり遠くの方まで響いていたらしく、王都でちょっとした怖い噂になったのは後の話だ。

その晩に11人で見た満天の星空は、今日を思い出にするには十分だったと思う。

今度は、何事もなく天体観測に行けるといいんだけどな。

だからといって、流れ星に『全員無事』と無理矢理に縮めた言葉で3回小さく唱えたのは秘密である。


次回 Episode036 姉妹の王女からの招待状

   《第一部 第七章》スタート

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