Episode032 はじめてのけもみみ

……ケモミミだ!

出会った状況が状況なのに、俺は今、かなり感動している。

俺はまだ、この世界に来てからケモミミをまともに見たことはなかった。

理由としては、昔から少数で森で暮らしていた各ケモミミたちを、貴族たちが拉致して互いに取り引きし合っていた……とかだと聞いている。

今も尚、ギリギリいるにはいるという話はあったのだが、まさかこんな早い段階でケモミミに出会うことになるとは思わなかった。

まあ、つまりはヘルマンがこの娘たちで交渉するつもりだったってことなんだが。

コイツに繋がってる貴族も、そのうち縛り上げておいた方がいいんだろうか。

思えば、今朝まで天体観測に行くという予定だったのに、どうして悪徳貴族の制裁をしているんだ?

ジェルトが狙われたのも、俺の巻き込まれ体質の所為なんだろうなあ……。

俺はよじ登った体勢のままで、中にいた2人の少女に声をかける。


「おーい、大丈夫か? もう悪い顔したオッサンは倒したから、もう問題ないぞ」

「うん! 助けに来てくれてありがとう!」


片方の、薄紅色の髪のウサミミ少女が満面の笑みで言う。

もう片方の黒髪ツインテ……いや、ツインテに見える垂れ耳の少女も、その子と抱き合って喜んでいる。

……今回この2人まで助けてしまったワケだが、もしこの一件が解決するまで――関係者として――首を突っ込んでいなきゃいけないとかにはならないといいんだが。

もしそんなことになったら、場合にもよるが、ユイナにまたロリコン疑惑をかけられてしまうのがオチである。


「なあ、キミたちって、その中から自分たちで出られるくらいの脚力は……」

「アヅマくん、この子たちにそんな力はないですよ」


後ろから遅れて来たユイナが、俺の質問に答えた。

もしかして、ジャンプして乗り越えてもらうことで、その下からパンツを見ようとしているとでも疑われているのか……!?


「この種族が生まれた経緯ですが……。まず、ケモミミと一括で呼ぶことができる種族は、1500年前、見た目を可愛くしたり、カッコよくしたりする為の手術を受けた人々の末裔なんです。ただ、その手術の技術が最盛期を迎えた頃、『獣人迫害』という忌まわしい事件が起きまして……。それ以降、彼等は森の奥に移住しました」


つまり、ただの見てくれ改造人間だから、能力としては人間と何ら変わらないと。

……だから抵抗できずに個体数が減っていったワケだ。

というか、それってこの世界でも、ケモミミは幻想だったってことか。

じゃなかったら、可愛くしたりカッコよくしたりするなんて思想でそんなことはされないと思うし。

まあ、それなら俺がこの木箱に風穴を開けるしかないってことか。


「そういうことなら……。ちょっと真ん中に寄って座って!」

「え? うん、分かった」


立ち耳の少女が不思議そうな表情を浮かべながら頷き、垂れ耳の子と指示に従う。

少女たちが真ん中に寄って座ったのを確認すると、少しの間よじ登った体勢を保ち続けていた所為で疲れた手を放して降り、剣を構える。

さっきの戦いでも斬撃を入れることはなかったし、カカリとの一本勝負でもそういう剣の使い方はしなかったから、今回がこの【壊滅剣グランギニョル】の初めての斬撃である。


「それじゃ、いくよ……セイッ!」


俺は体を捻って勢いを出すと、剣を戦法に突き出した。

突き攻撃みたいなモンだが、ユイナには負ける威力だろう。

俺もこの一撃で壊れるとは思ってないのだが、……って、ええ!?


「……どう、なってるんですか……?」

「ミュ、ミュッさんも、こんな威力の突きは見たことないよ……」


……俺も含めて3人、いや、壁の向こうの少女も合わせて5人が、威力に驚いた。

少女たちが座っている少し上を、斬撃の余波が通ったような感じになっている。

俺が攻撃した面に穴が開くのは分かるんだが、向かいの壁にも穴が……。

座ってもらってなかったら、俺は罪なき人を殺していたのか……。


「と、とりあえず、すぐに出すからな!」


取り繕うように言うと、俺は手の先から、普段の10%くらいの『火炎弾』を出す。

それをその風穴に押し付けると、あっという間に壁は燃え尽きた。


「す、すごい……!」


垂れ耳の少女が、技の威力に怖がることなく、むしろ食いつくように見ながら呟く。

やっと出られるようになった2人を手招きすると、覚束ない足取りで2人は来る。

俺たちの前に立った2人の少女は、急に安心したからなのか、へなっとその場で膝を床に着いて、そのまま泣き出してしまった。

深く考えるまでもなく、ここに来るまでに怖い思いをしたんだろう。

俺は――再来するロリコン疑惑など気にせず――2人をそっと抱きしめた。

こういうときは何も言葉が思いつかないのが俺だからな。


「……アヅマくん。この2人、どうしますか? 近くに村か街があれば、そこでどうにかしてもらうこともできるはずです」

「そうだな……。どうせあのヒゲオヤジも突き出さなきゃいけないし、そこで引き取ってもらうのが一番だろうな」


正直な話をすると、主人公属性を持つ俺には今後の展開が見え透いている。

何をどうしたらそうなるんだと思うのだが、この子たちが仲間になるとか言い出すのがオチなんだろう。

まあ、そうならないように祈るしかないが。


次回 Episode033 え? 仲間になる? 予想通りだよ(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る