Episode033 え? 仲間になる? 予想通りだよ(笑)

2人のウサミミ少女をユイナたちに任せ、俺はジェルトに近寄る。

まだ玉座の横で棒に縛られたままだったが、あの少女たちの出現によって忘れていたなどとは、口が裂けても言えない。


「ジェルト、大丈夫だったか?」


俺がそう訊くと、さっきまで俯いていたジェルトが顔を上げた。

……表情の硬い精霊の少女は、泣いていたのだが。

流石に声には出さないが、俺はうへぇと思った。

泣いている子を泣き止ませることが可能なほど、俺の主人公属性は機能していない。

どうして泣いているのかなんて、『見ず知らずの少女たちを先に助けたから』ってところなんだろうが、それならジェルトには十分なほど、俺に怒る権利がある。

そう思っていたのだが。


「……ありがと……! 怖かったけど、……信じてた。アヅマさんたちが助けに来るって……!」


ジェルトは、泣きながらそんなことを言ってきた。

……そういえば、俺ってのは、実は意外と逃げるタイプの人間だったんだよな。

塾や部活も、ダルいと思ったらアレコレと手を尽くして逃げていたモンだ。

だから、仲間も信用も、失う上限まで失ってきていた……はずである。

それなのに、この世界に来てから一度も逃げてないなと、今更思う。

自分でも無自覚に逃げてないってのは、それだけこの娘たちが大切ってことだろう。

俺のどこに、この世界で誰かと戦ったり、油断すれば殺しに来る魔物を討伐したりなどと危険なことをやってのける度胸があったのかなんて知らない。

でも、俺はそれだけ、この世界が、皆が好きってことなの……か?

まあ、皆に対しての『好き』は、恋情を含んでいるのだが。

俺も意外と気の多い男なのかもしれないな。

唐突に自分の変化に浸りながら、俺はジェルトに巻かれていた縄を剣で切り、脱力していたその体を抱きしめる。


「ごめんな。俺がもっと強ければ、こんなことにはならずに済んだんだ……」


何を言っていいか分からず、とりあえず謝る。

実際に、俺が数十分前に倒した棟梁のアクセサリーの『魔法破壊不能付与』をも意味を成さないレベルの魔法さえ使えればどうにかなっていたのだ。

不謹慎かもしれないが、今回はアジトの近くで輩が犯行してくれたおかげもあって被害者を追加で2人も救うことはできたけれども。

どうであれ、ジェルトを危険な目に遭わせた事実に代わりはないのだ。

だが、そんな俺を、この精霊の少女は抱きしめ返してくれた。


「ううん。アヅマさんは、私のヒーロー。……大好き」


……きゅ、急に照れさせおって……。

俺は、『好き』って言うのは構わないが、言われると照れるのか……。

初めてユイナに言われたときはそんなに照れなかったのだが、不意打ちだと今みたいになるのかもしれない。

まあ、これから少しずつ慣れていく……べきだな。



俺たち6人は、ヒゲオヤジを引きずりながら部屋を後にした。

コイツが従えていたスライムたちが落とした魔石も回収したけど、事件の証拠物品の一部として没収されちゃうんだろうってことは、気付かなかったことにしておく。

それはともかくとして、さっきからミュストがやたらと何か気にしているような顔をしているのはどうしてだろうか。

こうして長いと言えば長い階段を歩いている間にも、何か考えているのが分かる。

乙女心とやらを理解できているのかできていないのかすら不明な俺はお手上げなのだが、もしかして、ジェルトを早く助けなかったことに怒ってるのか?

そりゃ、契約主だから、怒るのも無理はないよな……。

と思っていたのだが。


「……ねえ、ジェルト。もしさ、……もしだよ? もし、ミュッさんもアヅッチのことが好きって言ったら、ジェルトはどうする?」


……どういう質問なのか、詳しく訊きたい。

別に、ハーレムゲットしたいとか思っちゃいないんだが、かと言って取り合われるのも悪くないけども止めてほしい。

ここは一回、俺なりに客観的に考えよう。

ピンク色の長めのショートヘアーのジェルトに、黄色ポニテのミュストか……。

ルックスの良さとか、その他諸々の要素で考えても、どちらも捨て難い……おっと。

今ので分かったのだ――と言っていいのだろう――が、ミュストは、自分よりも先にジェルトが俺に気持ちを直接伝えたんで、そのことで拗ねている……んだろう。


「……アヅマさんがどっちか決めるまで、アヅマさんを好きな人全員が傍にいていいんじゃないかな」


少し考えてから、ジェルトはそう零す。

一番平和だけど平和じゃない案キタ――――――!

そんなことしたら、俺は今の皆での暮らしを続けるって言うと思うぞ?

それはともかく、ホントのとこはどうなんですか、ミュストさん?


「そ、それはダメだよ! ミュッさんは、ジェルトを、一番大事な相棒を救ってくれたアヅッチに、一生たった1人で傍にいたいの!」


……コレはどうするべきですかな?

脳内で調子に乗りすぎたからバチが当たったんだろうが、バチにしてはショボいな。

このままじゃ修羅場になるのも遅くないし、ここは一旦鎮めておくか……。


「ちょっと待て! 俺はキミたち全員が好きなんだ! 正直言って、誰がいいとか選べなくなってきてるんだよ! だから、一旦落ち着いてくれ!」


……うーん、60点。

そんな適当な言葉で惑わせるはずがないだろうが!

今のセリフで白けられてないといいんだけど……。

だって、全員に何かしらの情を抱いてるのはもう明白だし。

そんな俺の密かな悩み(?)を脳裏に浮かべていると。


「そ、そうですか……。私も、もっと好きになってもらえるよう、がんばります!」

「ミュ、ミュッさんも、ちゃんと好きになってもらえてたなら嬉しいやー……」

「……あわわわ……」


3人とも、それぞれ耳まで真っ赤にしながら照れていた。

……主人公属性にカンパイ!

そして俺は選択肢を用意されれば完敗!

そんな謎の言葉を脳内に浮かべていると。


「え、えへへ……」

「わ、私たちのことも、好きなんだ……。私も、あの一撃にはピピッちゃったし、……そ、相思相愛……かな……?」


……薄紅色の髪に負けないくらいに顔を真っ赤にして照れているウサミミの少女と、唐突な愛情に混乱している黒髪のウサミミの少女がいた。

確かに、俺は『キミたち全員』と言った。

そして、この場に女の子は5人いるワケで。

あくまで『行動を共にする8人』を指して言っていたのだが、どうやら『この場にいる全員』と捉えられてしまったらしい。

あと、さっきから垂れ耳の少女が言った『ピピッちゃった』ってのは、ときめいたとかそんな感じの言葉なんだろうか。

急な誤解が発生したことに呆然としていると。


「ねえ。私はあのピピッっちゃった技を追うから、お兄ちゃんと一緒に行く!」

「え!? ……もう、タシューちゃんがそう言うなら、私も行くよ。……それに、私だって、好きって言われちゃったし……」


……つまりは、仲間になるってことだよな?

行方知れずだった少女たちを急に仲間にするってなると、親御さんに話とかしておいた方がいいんじゃないのかと思ったが、少女たちにはどこ吹く風って感じである。

俺は困りながら3人の方を向く。

だが3人は、俺に向かって同時に親指をグッと立てることしかしてくれなかった。

……自業自得ってか……?


「……ねえ、それって一緒に冒険したいってこと?」

「うん! お願い、お兄ちゃん!」


黒髪の垂れ耳少女は、俺に上目遣いでそう言ってくる。

……ソレは禁忌の技だっての。


「うん、大丈夫。予想通りだよ(笑)」


その瞬間、垂れ耳を僅かに浮かせて、少女は満面の笑みを見せた。

こうして、俺の主人公属性にて起こりそうなことは、見事に俺自身の手によって起こされたのだった。


次回 Episode034 【驚報】俺たちのパーティー、貴族がいたらしい

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