Episode030 ジェルト救出作戦
俺たちはジェルトの救出の為、あの娘が放ってくれた体の一部……らしい光の粒を追って走っている。
どういう目的でどこの貴族がジェルトを拉致するように仕向けたのかは知らないが、こういうパターンで関わってくる貴族って、捕縛されるまでに時間がかかる上、ソイツ絡みの事件に何回か巻き込まれるのがオチだろう。
だが、それこそ1人くらい逃がして、ソイツの居場所を探り当てるのも手だ。
どうであれ、今はジェルトの救出が最優先である。
たとえ相手が全員死のうが、ジェルトに手を出した報いである。
そして、俺はふと気になり、走りながら訊いた。
「なあっ……。もし、俺がもうあと数人殺さなくちゃいけないとしてっ……、キミたちは、それを許してくれるかっ……?」
さっきは魔物だったからいいものの、俺は少し冷静さを失っていた。
そして今、見た目から人間と決めつけるんじゃなく、一度『解析』するくらいはした方がよかったんじゃないのかと、要らぬ後悔をしている。
もしアレで本当に人だったら、俺は牢屋送りだったのは明確だし……。
ところが、そんな俺の心配は杞憂だったらしい。
「悪人が相手なら、私は構いません! それがアヅマくんの覚悟なんですから!」
ユイナのその言葉に、皆頷いてくれている。
……俺はホント、いい仲間を持ったモンだな。
コレでおまけに全員美少女なのだから、俺は幸せ者である。
あと、――経験の差とかの問題だと思うんだが――息切れの一つもしないで俺の質問に答えてくれたユイナの体力はどうなってるんだ?
それはさておき。
「でも、今度からは『鑑定』を使ってからにするよっ……」
俺は、できるだけ皆に迷惑は掛けたくない。
そして、巻き込まれ体質があるなら、それに適応していくしかないのだと、今日の一件から改めて思うのだった。
*
ジェルトの体の一部とされている光は、よく分からん謎の小屋の前で消えた。
この中にいるんだろうが、どうせなら最後まで案内してほしかった気もする。
と浮かんだ不満を頭から振り落とし、俺は警戒しながら小屋のドアを開ける。
すると、目の前には、外から見て小さいなと思えただけのことはあって、地下へと続く階段があった。
この下にジェルトが拉致られてるワケだが、全員で行くべきなのか……?
敵組織のアジトがどのくらいの広さなのか知れない限り、全員で潜り込むのはあまりいい作戦だとは言えないよな。
「……なあ、今回は、俺とユイナ、そしてジェルトの主であるミュストだけで行ってもいいか? 残りの5人はここに戻ってくるヤツ等がいたら捕縛してくれ」
本当は『殺しちゃってくれ』と言いたかったんだが、もし人まで混ざっていたときに責任を取ってほしくない。
俺は『解析』を使えるからいいんだけど、他には誰も使えないだろうからなあ……。
「分かりました。それでは行ってきます!」
「頑張ってジェルトを取り戻してくるよ。絶対にね」
ユイナとミュストもそう言い残し、俺と共に小屋の中へ入った。
目の前の階段を下っている間、少しずつ大きくなってきている話し声に耳を澄ませている所為で事前に作戦を練ることもできない――どうであれ、階段じゃ声が響いたし――のはどうにかならないのか……あ。
そうか、俺には『思念通達』があったじゃないか。
『2人とも、聴こえるか?』
『はい、聴こえます。もしかしなくても、作戦を練るんですね?』
『ジェルトが助かるなら、ミュッさんはどんな作戦でも乗るよ!』
さて、どうやって戦うことになるのやら。
相手の戦力が未知数な以上、まずは俺が先頭にいないと何かあったら死ぬな。
『それじゃあ、俺が先頭になった状態で降りたら、まずは状況次第では魔法を使う。ミュストって、ジェルトをあの壺だか瓶だかに入れることってできるか?』
『え? うん、できるよ』
……そういうことなら話は早い。
報復もしてやりたいが、今回の俺たちの目的は、あくまで『ジェルトを助けること』なんだから、目的を履き違えてはいけない。
『それなら、ジェルトを発見したら、俺が道を作るから、ジェルトを頼んだ!』
『うん! ソッチこそ、道を開くの頼んだよ!』
俺たちはそう交わし、もう臨戦態勢に入る。
階段の終わりが見え始めたからだ。
『よし、ジェルトも救出して、全員で生きて帰ろう!』
『『おー!』』
脳内での最後の会話を終え、俺たちは階段を降り切る。
直後、俺は『解析』を発動させる。
俺が考えていた通り――じゃなかたら危なかった――で、そこに小学校の体育館程度の大きさの広間があるだけの空間で、多くの……スライムがいた。
『解析』を使う必要すらなかったってことになるんだが、油断し過ぎだな。
ソイツ等は俺たちに気が付くと、それぞれ人間の形を象り始める。
確かに、こういう手段を使えばどう見ても人である。
……一番奥の玉座っぽいのに座ってる、『解析』にて人間判定になった、この事件の発端となる野郎を除いて。
「おやおや、もしや、あの強化スライム一番隊を倒してきたのですか? 素晴らしい戦闘能力、欲しくなってしまいますね」
片手にワイングラスを持ち、もう片手にはジェルトの顎を載せて、男はそう言う。
実は最近、魔法を使いまくって魔力量が増えた影響なのか、『解析』を集団に使うと誰がリーダーなのかが分かる効果も追加されたのだ。
コレを魔法の進化と言えるのかはさておき、まさかこんなに早く役立つとは。
まあ、こんな形で使うことになったってのは想定外でしかないが。
とりあえず、まだ俺の『解析』ではコイツの戦闘能力は計れないが、あんな近くにジェルトがいたら、救えるモンも救えないな……。
しょうがないし、ココは命懸けてみるか?
最悪の場合、相討ちくらいは目指せるようにしよう。
俺が死んだら皆が悲しむのは分かってるけど、そうするしかないのだ。
雑魚だったらいいんだけど、この雰囲気はそうではないからな。
俺は意を決し、高級そうな服に身を包んでいるヒゲオヤジに向かって言う。
「おいあんた。俺たちの仲間を拉致したこと、後悔させてやる。俺と戦って、俺が勝ったら、ジェルトを離してもらおう。あんたが勝ったら、何でもご自由にどうぞ?」
「ほう……、言ってくれるね。この一件の発端の、大貴族であるヘルマン・ゾリード・メルトマンにそんな大口を叩いたのは君が初めてだよ」
……貴族って、強いって聞くんだよなあ……。
日本にあった話でもだいたいはそんな感じだったし。
というか、自らどういう立場なのか告白してくるくらいの余裕があるのか?
まあ、ジェルトさえどうにかなれば、コイツの命まで助ける必要はないよね。
俺は、牢屋に入らなくて済むことを願いながら、レイピアを腰から抜刀したヒゲオヤジ……ヘルマンと対峙した。
次回 Episode031 VS貴族、そして。
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