Episode029 よし、さっさと脱出しよう。

俺たちが落ちたのは、どこかしら草原だった。

土地に見覚えはなく、しかも地味に霧がかかっている。

……コレ、普通に昇っていけば何も問題なく移動再開できるんじゃないのか?


「……完全に方向が分からなくなりましたね……」


カミナスが悔しそうに呟く。

言われてみればそうで、俺たちは移動中にはコンパスを使わなかった。

その所為で、俺たちが進んでいたのがどの方向だったか分からなくなっている。

ホント、巻き込まれ体質を解消できる秘宝でもあったら探しに行きたくなるな。


「……しょうがないし、ちょっと脱出できる手がかりでも探してみる?」


こういうときは、近くを歩いていれば周辺の住民に発見してもらえるモンだ。

楽観的な考えかもしれないが、何もしないよりはマシだろう。


「……それもそうですね。最悪の場合、人のいる場所が見えるまでカミナスさんには飛んでもらうことになりそうですが……」


そんな会話を終え、俺たちは霧の中を歩きだした。

ただ、こういうときにアリガチなのが……。


「全員で手を繋いでおかないと、誰かしら分からなくなるとかあるんじゃないか?」


そう、はぐれることである。

こういうときに離れ離れになってからの展開が邪魔な上に長い話を日本で幾つか読んだことがあって、俺はああいう時間が嫌いだ。

だからこそ、対策するのが最善策なのだが……。


「あれ? ジェルトがいないよ?」


一番最初に異変に気が付いたのはミュストだった。

霧の中には俺以外の7人の姿はあるのだが、確かにジェルトの姿だけがない。

でも何も問題はない。俺には『思念通達』があるからな。


『おーい、ジェルト。大丈夫か?』

『あ、アヅマさん……! お願い、助けて!』


……え? 助けて?

何が起こってるのかは知らんが、ジェルトは今、危険な状況にあるってことなのか?

精霊なんだから透ければ問題ないと思うんだが、それができないから助けてほしいと言っているんだろう。


『なあ、何が起こってるんだ!?』

『今、よく分からない人たちに縛られてる。私の精霊子、つまりは私の一部を送ってるから、助けて……!』


どうして俺たちの場所を知っているのかとかを訊くのは野暮だと思った俺は、とりあえず現状理解を急ぐ。

俺たちは魔法によって発生していた竜巻に巻き込まれてこの辺に落とされ、その直後にジェルトが何者かに誘拐された……。

いや待てよ。思えば魔法ってのは、魔物か人間か悪魔か天使のいずれかが使う以外では発生することはないし、聞いている話だと、道中には魔物の出現する地域はない。

つまり、この魔法は俺たちを狙って行われた計画的な犯行!?

と考えていると。


「おいお前等! 大人しく降参するんだ!」


無精髭を生やした輩が、唐突に出てきた。

こんなタイミングで出てくるのは、計画的にやってますと言っているのも同然だ。

だが、何かがおかしいと本能は訴えていた。

もしコイツ等が山賊なのだとしても、やたらと服が綺麗だし、昨日俺たちが作ってもらったアクセサリーにも似ている装飾品を付けているのだ。

俺は棟梁だと思しきヤツが首に下げていた宝石を『解析』してみる。

すると、『魔法破壊不能付与』という効果があった。

そんなモンがあったから、俺やユイナの攻撃でも竜巻が壊れなかったのだ。


「なあ、アンタたちは何者だ?」

「へんっ、そんなこと言ってたまるか! 冥途の土産に言ってやるとするなら、俺たちはとある貴族に雇われた、優秀な山賊ってことだな! いくぞ子分ども!」


棟梁がそう言うと同時に、俺たちを取り囲んでいた5人が詠唱を始めた。

それぞれの詠唱を聞くと物騒なワードが入っているし、浴びたらタダじゃ済まないのは確定事項でいいな。

『爆風竜巻』なんてのが使える時点でかなりの強者ってのは確かだったんだし。

……こうなったら、俺がすべきことはもう決まっている。


「それじゃあ、冥途の土産をもう一ついいか?」

「なんだ欲張りさん? どうせ無駄になるんだし、いいだろう!」

「それなら……。お前たちの狙いはジェルトで、その雇ってきた貴族からあの娘を拉致してくるように言われていて、口封じだか何だか知らないけど、俺たちを殺すことも命令なんだよな?」

「ああそうとも! それじゃあ、来世は楽しみな!」


棟梁の言葉と共に、全方位から魔法が飛んできた。

だが、俺はそんなことで死なないよ。

だって、俺ってハーレム主人公属性持ちなんだから!

俺は両腕を広げ、『終焉之業火』で壁を作り出し、放たれた魔法を全て無力化した。


「なっ……!? バケモノだとは聞いていたが、まさかこんな強さだとは……」


棟梁は絶句し、子分たちに至っては失神してしまっている。

……この程度で驚いていたら、俺の今までの――とは言っても2週間程度しかないが――の日々を映像で最後まで見るのは不可能だな。

そんなことを考える余裕も出てきたので、俺は。


「それじゃ、そっちこそ来世は真っ当に生きろよ」

「へ? ちょ、やめ」


何か言いかけているところで、俺は終焉之業火』による壁の幅を2m伸ばした。

それだけで、山賊6人は焼けて吹き飛んだ。


「……人殺しはしたくなかったけどね」


そんなことを言い訳の如く呟いたら、そこに中くらいの6つの魔石が残っていた。

つまりは魔物だった……ってことになるが、人間と見分けがつかない魔物って?

『魔法破壊不能付与』の所為で『解析』は効果を示さなかっただけで、何らかの手段で正体を隠蔽していた魔物だったのは想定外だったな。

『解析』なら、本来は人間なのか魔物なのかを見分けてくれるモノなのだ。

急な謎を目の前にして考えていると、ジェルトが放った体の一部がやってきた。


次回 Episode030 ジェルト救出作戦

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