第六章 天体観測したいだけなのに

Episode027 天体観測してみる?

それにしても、昨日はトンデモナイことになりかけた。

――俺がカカリとの一本勝負を終えた後、まさか自分を女の子をして見てくれていると思っていなかったらしいカカリはちょっと様子がおかしかった。

その所為……いや、完全に俺の所為なのだが、それから小一時間くらいユイナに「何人を似たような手段で意識させたら気が済むのか」と問い詰められた。

俺だって好きでそうしてるワケじゃないと言いたいところだったが、全部俺の行動が発端だったのでぐうの音も出なかった。

今回の件にしたって、俺が女誑しな何とかの剣士のセリフを使ったのが原因だし。

まあ、ユイナがそうなるのはいつものことになってきているから、いつも通りの対応をして済ませようと思ったが止めた。

そんなことを繰り返していても、マンネリ化してこの9人の状態が崩れる可能性を作ってしまうだけだと考えたからだ。

だから、明日にそのお詫び……というか、『これからもそういうことになるのは避けられないかもしれないけど、その度に許してね』の意味を込めたあること・・・・について説明する、と言っておいた。

そして、その明日もとい今日に至る。

朝食を囲む中で、ずっとソワソワしているユイナとカカリを見て、今言うべきか今言わないべきかどうか悩んでいたが、俺は今言っておくことにした。


「なあ、明日から天体観測に出かけないか?」


そう、天体観測である。

前世から憧れの行動であり、絶対に大切な人と行くと決めていた、あの天体観測だ。

どうしてコレをカカリに勝ったことによって発生した命令権とユイナへのお詫びなのかというと。


「俺としては、ただ出かけたいだけなんだが」


……それらのことをまとめて解決する、バカな俺が思いついた唯一の方法だからだ。

命令権って言っても、俺はそういうのはあんまり好きじゃないし、お詫びなんていつものパターンじゃいけないと思った末で、こうなったのである。


「それでなんだが、カカリへの命令権を使って、キミには今ぐらいだと世界のどこで一番綺麗に星が見えるのか調査してもらいたい。ユイナは、俺なりの償いってことで、一緒にその買い出しに出かけてくれないか?」


俺はちょっと緊張しながら答えを待った。

そもそも天体観測に行きたくないと思う娘の1人や2人いてもおかしくはない。

前世だって、小さい頃に親に頼んだら「寒いだけで暇するぞ?」って言われたし。

実際、アッチだと視力が悪かったとか、星が綺麗に見える場所が遠かったとかで天体観測はできっこなかったワケだが、この世界なら違う。

果たして、皆の答えは……?


「私も、天体観測は少し興味あります。それに、アヅマくんと一緒に買い物できる理由ができるなら、私は地獄でもどこでも行ってみせます!」

「昔、カミナスと一緒にしようとしたことがあったんですが、人型になるって考えたことなかったからできてないんですよね……」

「カミタンも、今はこうして人型になれてることですし、楽しみです!」

「天体観測……。岩石の精霊がちょっとニガテ……」

「ミュッさんも、皆といろいろできるならそれでいいかな!」

「わ、私を頼ってくれるのは嬉しいんだけど、実は方向音痴なのよね……」

「天体観測かあ……。魔界じゃ星なんて見えなかったからね」

「コトネちゃんも、眠いけど行ってみたいな……」


……よし、問題なさそうだな。

まさか誰も否定的なことを言わないとは思っていなかったが、俺に気遣ってるのか?

まあ、その辺は気にしていてもしょうがないし、ありがたく行かさせてもらおう。


「そういうワケで、急だけどそれぞれ用意をしておいてくれ。天体の様子次第では明日じゃなくなるかもしれないし、……カミナス、カカリが場所を指定したら、空中の調査を頼めないか?」

「はい! ご主人様の命令とあれば、カミタンは何でもします!」


……急なのに、よくこんなノリ気だな……。

天体観測なら金はかからないし、今回はクエストに行っておく必要はない。

さて、俺はユイナと買い物を楽しまさせてもらうとするか。



今はだいたい10時――と、常時発動型魔法『体内時計』がそう告げている――で、王都の多くの店が開いている頃だ。

俺は家もとい屋敷の前で、ちょっとソワソワしながらユイナを待っていた。

思えば俺は、もう誰がいいとか決めるのを諦めかけている気がするが、逆にその分、誰とでも楽しみになるって利点はある。

以前、もっと早めの時間に4人で行ったときにはそんなに混んでなかったし、このくらいの時間になってもそんなに問題ないはず。

と思っていると、ユイナがドアを開けて出てきた。


「お待たせしました! 何を着ていくのか迷っちゃいまして……」

「いや、いいよ。……俺があの店の全商品を買ったのがいけないんだし」


今のユイナは、まだこの時期にしては早いような、白いワンピース一枚である。

これもあの店で買った商品の一つで、俺が一番ユイナに似合ってると言った物だ。

梅雨もまだだというこの時期にこの服を着ているのは、普段から火炎系の魔法を使って剣を使っていることによる体温の上昇だろう。

あと、あんまり考えない方がいいのは分かっているんだが、……何もやましいことはない……のだが、見た感じ今のユイナはブラをしていない。

もし誰かがユイナの丘を見てしまったのなら、その時はソイツを全力でぶん殴ろう。

そんな物騒なことを頭から追い出し、俺はユイナに一言。


「なあ、そのワンピース、似合ってるぞ」

「えっと……、その、ありがとうございます……」


……褒めたら、いつでもこの照れ笑い顔を見ることができるんだろうか。

いや、慣れられてしまったら見られなくなっちゃうだろうし、たまに見れるくらいが尊いんだろうから自重しよう。


「ほら、早く行かないと時間がなくなっちゃいますよ!」


満面の笑みでそう言いながら、ユイナは俺の手を取って走り出した。

こういうときって、男からエスコートしないと白けられると思っていたが、この誰よりも元気な少女は違うらしい。

俺は少し安心し、その手を握り返して走り出した。


その後、俺たちは数時間かけて、星座早見盤やコンパス、コップ置き付の折り畳み式のイスや望遠鏡を購入した。

途中でユイナと買い食いしたり、出店で来ていた射的でユイナの欲しがったぬいぐるみを取ったりと、かなり充実した一日を過ごした。

温泉街で出会った当初の感覚もよかったが、今みたいな曖昧で不透明な関係でも意外といいものだなと思った俺は、かなり幸せなのかもしれない。

ちなみに、射的屋では1000テリンを使っただけで――1回100テリンで三発――全商品を回収してしまった所為で、「もう王都には来るか!」と店主のおじさんを怒らせてしまったのはまた別の話である。


次回 Episode028 いざ、天体観測へ!(そして、ココハドコ? (◦口◦))

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