Episode026 そうだ、剣を振ろう。

加工職人・プロメテウスという悪魔に宝石を加工してもらった夜。


「……んー……。『命中上昇(低)』か……」


俺は今、この100個以上もあるアクセサリー類を『解析』することで、どんな効果が付与されているのか調べているところだ。

居間にあるソファーで集中作業をしている所為で誰もソファーに座れてない……のが普通だと思っていたのだが、皆が俺の周りで俺の作業を眺めている。

……正直、凄くやり難いんだが。

日本で読んだラノベにも、集中作業を仲間に見られていてやり難いとか言っていたヤツがいたのを思い出すが、自分の立場になると確かにそうだと分からされる。

そんなことはともかく、ユイナ曰く、プロメテウスたちのような加工職人がやってくれるのは効果の付与だけであって、その効果を選ぶことはできないとのことらしい。

だからこそ、俺たちの需要次第では、ただの『着けるだけのアクセサリー』も出てくるワケなのだが。


「……まだ実用的なの、ぜんぜん出てきてねえな」


俺は解析済みのアクセサリーの山を見ながら呟く。

もう俺は半分くらいの宝石を解析したはずなのだが、その中で俺たちのパーティーメンバーが使いそうなものって言うと、『打撃威力上昇(中)』と『斬撃威力上昇(高)』とかで、弓矢や槍に関するアクセサリーは用済みである。

にも拘わらず、どうしてか槍専用や弓矢専用ばかり出るのだ。


「あら? アヅマ、何やってるの?」


と、そこにカカリがやってきて思った。

俺はまだ、カカリやマルヴェ、コトネがどんな得物を使ってくるのか知らない。

もしあの娘たちが使えるアクセサリーだった場合、使えるはずだったアクセサリーを知らずに売ってしまうところだったワケだ。


「今日作ってもらったアクセサリーに付与されてる効果を見ていたんだが、カカリやマルヴェってどんな得物を使うんだ?」

「そうねえ……。私は槍を使うけど、マルヴェは短剣を使うわ。コトネは天使のイメージ通り、弓矢を使っていたかしら?」


……これで1つも売る必要はなくなったな。

使えなくても日常的に身に着けることはできるって話で残していた気はするが。

少なくはあるが、短剣にも適応する効果を持つアクセサリーはあったし。

俺は幾つかあるアクセサリーの山の一つを指して。


「そこにあるのは全部槍専用のアクセサリーだ。槍使うのはカカリだけなんだから問題ないし、全部どうぞ」

「……こんなに貰っていいのかしら?」


カカリは困り気味な顔でそう言うが、誰にも需要ないんだから遠慮することはない。

……まあ、今日作ってきたアクセサリーの3割が槍専用の効果を持ってるアクセサリーだったし、一部は売ることになりそうだが。

とか考えながら『解析』を続けていると、全部のアクセサリーの『解析』が終わる。

剣専用や魔法専用はその2種類を合わせても槍専用と同じくらいの数しかなく、次に多いのが弓矢専用だ。

あとは打撃威力を上げたり、斬撃威力を上げたり――この辺の効果だと、物理とか魔法とかは関係なくなる――するアクセサリーが少し出て終わった。

皆で何気なくアクセサリーの配分――俺はちょっと遠慮した――をし、残った効果の弱いアクセサリーを転売する用に袋に詰めていると。


「……アヅマ。あなたって、まだ武器で戦ったことないわよね?」

「え? まあ、そうだな。昨日だって武器を使う前にピンチで魔法使っちゃったし」


俺の気のせいだといいんだが、さっきからカカリがイタズラっぽく微笑んでいるような気がするんだが。

どんなことを企まれているのか知らんけど、面倒事とかでは……なさそうだな。

何にせよ、俺が関係している話だと思う。

すると、俺の前にズイッと詰め寄ったカカリは。


「それなら、今から私と得物を使って勝負してみない? ルールは一つ、魔法を使わないことよ。負けた方は相手の言うことを何でも一つ聞くってことでどうかしら?」


……俺、日本にいた頃ですら竹刀を授業で握ったくらいしかないひよっこだぞ?

一応はユイナから『剣術』は回収したとは言え、俺ごときが勝てるか?

そもそもの話、カカリは牢番に指名されるレベルの槍術はあったってことだろうし、俺が戦ったら余裕で負ける自身があるぞ。

でも、棄権は負けと同じ扱いになるだろうし、女の子……それも美少女からのお誘いを断るのは俺の趣味ではない……。


「……できるだけ負けないようにがんばるよ……」


俺がそう言うのと同時に、皆外に移動しはじめた。

全員で観戦するのはいいけど、それって俺たちの戦いで起きた衝撃波で吹っ飛ばされるとかないようにした方がいいヤツなんじゃないのか?

あと、家もとい屋敷にも壊れてほしくないし。


「なあ、ジェルト。俺たちの戦う範囲内に結界を張ってくれ」

「うん、分かった」



ジェルトが結界を張り終え、それを確認してから俺たちは対峙した。

カカリが身長160㎝を少し超えたくらいなにに比べて、彼女の使う得物である槍は普通に2mくらいある。

それを普通に操れるというのだから、流石は魔族である。

あと、カカリがこんな夜遅くにも拘わらず戦いを挑んできたのには理由がある。

異世界ファンタジーあるあるの、『魔族は夜になると強くなる。また、月が出ているとかなり強くなる』ってヤツだろう。

それを知っていながら許可する俺も、意外と余裕ぶっているのかもしれない。

この肉体の出来がよかったからなのか、それとも剣が高額だったおかげで軽量設計になっているからなのか、俺は普通に剣……【壊滅剣グランギニョル】を片手で振り回すことができたのが救いである。

ちなみに、ユイナの剣もそうだったが、王都にある武器屋では、ダンジョンから持ち帰って来られたスペックの高い武器が売られているらしい。

だから、厨二病じみたネーミングで店主が売っているワケではないのだそう。


「それじゃあ、あなたからどうぞ」


もう既に戦闘モードになって角も尻尾も生やしているカカリがそう言う。

もう勝った気になっているんだろうが、俺の性質を忘れたんだろうか。

いや、まだユイナと2人暮らしをしていた頃の話だから、知らないのも当然か。

俺は魔力が多いから、普通の人が発動する魔法よりも効果が高いのだ。


「……俺って剣術を習ったことがないんだ。だから、剣を使えるようにする為に『剣術』を使うだけは許してくれるか?」

「ええ、勿論よ。得物が使えなかったら話にならないわ」


カカリはアッサリと許してくれたが、きっと後悔するだろう。

まあ、俺が剣の使い方を全く知らないってワケだったんだし、どうであれ許してくれたとは思うが。


「それじゃ……シッ!」


俺は地面を蹴り、カカリとの距離を少しずつ詰めようと……したのだが。

やっぱり俺の肉体の出来がよかったからか、俺自身も驚く勢いで空白はなくなった。


「えっ……!?」


俺も想定だにしていなかった展開に、カカリが戦慄して声を出す。

その声にも構わず、俺は喉の横に剣を添える。

……折角の機会だし、日本でまあまあ有名だったチート剣士のセリフを借りるか。


「……悪いが、降参してくれ。俺は女の子を斬るのは好きじゃないんだ」


……あれ? 降参って何って言えばよかったんだっけ?

リザ……何て言ったか思い出せないな。

まあいいか。そんなことで悩む必要はない。

そんなことを思いながらカカリの顔を見ると……。


「……あ、あなた、私のこと、お、女の子って見てくれてたのね……。……あ、ありがとう……。べ、別にそう見てほしかったとかじゃないんだけど……」


……顔を赤らめながら、そんなことを言ってました。

流石はあの女誑しとされた黒の何たらのセリフなだけはありますね。


次回 Episode027 天体観測してみる?

   《第一部 第六章》スタート

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