Episode025 加工職人、まさかの悪魔だった件。

結界をジェルトに張ってもらった翌日、何の懸念もなくなった俺たちは、昨日紹介された加工職人のところに行くことにした。

その人は腕が凄いらしく、どんな宝石や鉱物も依頼の通りに加工してしまうらしい。

どんな超人なんだろうかと期待しながら【加工屋プメロ】と書かれている看板が吊り下げられている店へと入った。


「いらっしゃい! 今日は何を加工すりゃあいいんでっか?」


そう言いながら声をかけてきた筋肉質の男は、ここの店主であるプメロさんだろう。

……この男、王都の中でも有数のイケメンなんじゃないのか?

日本にいた頃から『女友達に恋人ができると複雑な気分になる』タイプだった俺としては、いわゆるネトラレ展開にならないかちょっと心配になる。

とか思っていると。


「あら? あなた、もしかして、プロメテウス?」


カカリが急に、そんなことを言い出したのだが。

俺にもその名前に少しだけ聞き覚えがあったのは、日本もとい地球にもその名前があったからである。

しかも、この世界に出てきてから間もなく、そんなに王都の中を歩き回ってないカカリが知っているってことは……!


「おお! もしかして姉貴か!? お久しぶりです! マルも元気にしとったか?」

「うん! プロ兄も元気そうでよかった」


……やっぱり、悪魔ってことなのか。

『プロメテウス』っていうのは、人間に光を灯したとされている悪魔で、人間を創ったともされている人間側の――というイメージがある――悪魔である。

まさか悪魔が普通に人間の中に紛れて暮らしているとはねえ……。


「ところで、姉貴もマルもこんなところへ何用ですかな? アッシに会いに来た……とかではなさそうですが」

「相変わらず察しがいいのね。まあ、分かりやすく説明すると、あの羊の娘……コトネが現世に逃げ出しちゃったんだけど、そこの少年、……アヅマにいろいろと提案されて、この世界で暮らすことにしたのよ」


カカリがそう言うと、やたらとキラキラした目でプメロさん改めプロメテウスが俺を見てくるんだが、俺の顔ってそんなにブサイクなのか!?

じゃなかったら、こんなイケメンが男の顔をまじまじと見つめるはずないし……。

……もういっそのこと、BL展開にならなかったら何でもいいよ……。

と謎の妄想をしていたら、プロメテウスに話しかけられた。


「あんたが姉貴たちを助けてくれたって?」

「え? ……まあ、そうなるな」


もしかして、『姉貴たちを助けた男として認められたいなら、アッシを倒すのだ!』とか面倒なこと言い出すつもりはない……よな?

すると、流れるようなキレイな動作で、プロメテウスは俺の前で跪いた。


「姉貴たちを救ってくれたこと、心より感謝する! 今日からあんた……いや、あなた様のことを、兄貴と呼ぶことを許してください!」


……これって、魔物にありがちな『上下関係をハッキリさせる』って習性か?

悪魔も一応は魔物であることに変わりはないってことなのかね。

というか、俺たちは客で来たんだが、こうされるとやりづらいんだが。


「それならオーケーだ。それでなんだが、今日は宝石人形がドロップした宝石類を、何らかのステータスアップもできる、どんな服装にも似合うヤツに加工してほしくてここに来たんだ」


俺がそう言って宝石の入っている袋を懐から取り出すと、プロメテウスは俺から離脱し、作業の用意に取り掛かった。

コイツも悪いヤツじゃないみたいだし、どうしてこの世界に来たのか聞いてみたいものである。



だいたい3時間は経過しただろうか。

適当に雑談していただけで3時間も過ぎていたと知って驚いた俺たちだったが、プロメテウスの腕の中を見て、更に驚かされた。


「兄貴たちが持ってきた宝石、余すところなく加工できたから、むしろ作りすぎになっちまったかもだ……。でも、大切に使ってくだせぇ」


と言われ、目算100個以上もあるペンダントや腕輪、指輪の数々を渡してきた。

確かにそれなりの量の宝石はあったが、どうやってこんない作ったんだ……!?

まあ、流石悪魔とでも思っておくのが一番いいか。


「おっと、支払いをしないとな。ちょっと待っ」

「その必要はないでっせ。兄貴たちは人々を救う為に奔走してるんですから、その為に作ったものに金はいらねえってことで」


……俺としては、普通のスローライフを送りたいんだが。

俺自身もどうしてこうなっているのかは分からんが、もう戦績がちょっと……。

このまま、王都の騎士とかにされないといいんだけど。

そう思いながら、俺たちは一匹……いや、1人の加工職人の店を出て行った。

プロメテウスは俺に期待してるみたいだし、クエストももっと受けるか。

昨日の宝石人形戦だって、まともに剣を試すことなく終わっちゃったし。


次回 Episode026 そうだ、剣を振ろう。

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