Episode024 そうだ、結界を張ろう。王都全体に。

あの勇者一行は何のつもりだ?

人類を守る側であるはずのアイツ等が、魔物を発生させるとか。

しかも死人が出てるし。

今は何の証拠もないから訴えることはできないが、そのうち尻尾を掴めるかどうかってところに賭けるしかない。


「それにしても、どうして宝石人形なんて発生させたんでしょうか……?」


ユイナも、信じ切れないという様子で呟く。

幸いにも――と言っていいのか分からんが――宝石人形からドロップした宝石は本物だったが、どこに魔物を発生させる術があるのやら。

あと、大量の魔力を空中に撒いておくと魔物が発生するとは聞いたことがあるが、狙って発生させることは可能なんだろうか?

日本にあったラノベでも、せいぜいランダムで召喚するくらいしかなかったしな。

まあ、この世界にそういう術が存在するなら在り得るんだろうが。


「あの勇者だけど、強いヤツを王都近くに出現させておけば俺たちが食い付くってことを分かっていて宝石人形なんて発生させたんだと思う。これから出現する魔物は『解析』で何か魔法が付与されてないか見てから戦うことにした方がいい」


何があってアイツ等が俺に絡もうとしているのかは不明だが、それなら調査されないように戦えばいい。

何もなかったら普通に戦うし、もし差し金だったら『終焉之業火』や『魔力砲』で対処するしかないとは思うが。


「……とりあえず、全員無傷なんだし、帰るか」



俺たちは王都に帰ってから、依頼書に書いてあった通りに加工職人が――ギルドの受付嬢伝いだが――紹介された。

だが、勇者の唐突な人類を裏切る行為の発覚があったので、今日は誰1人として、その職人のところに行きたいとは言いださなかった。

家もとい屋敷に着くと、――皆考えていることは同じだったのか――全員でダイニングテーブルに座り。


「それじゃあ、これから、王都や俺たちの暮らしを守る為の会議を始める」


俺の一言に、全員が頷いた。

今日のクエストで行った鉱山は王都から10㎞は離れているが、もしそこから何かされても十分に気が付けない自身はある。

だからこそ、自分たちができることだけでも話し合っておく必要があるのだ。

と考えていると、ミュストが。


「ミュッさんもここに来たのは、『王都近くの高原の家には、勇者キラーがいる』って噂を聞いたからなんだけど、そのこと関連ってことでいい?」

「ああ、その通りだ。俺とユイナが出会った頃から話した方が早いから、大まかに話すとだな……」


そのまま俺は、10分以上も今日までのことを話したのだが……。


「どうしてユイナさんとご主人様は既に一緒にお風呂に入っているんですか! ご主人様、何でも一つ言うこと聞くみたいなこと言いましたよね? ならば、今夜はカミタンと一緒にお風呂に入ってください!」

「カミカミがアヅッチを『ご主人様』って呼ぶようになったのって、そういうことだったんだね! ……ミュッさんも、そう言われたいんだけどなあ……」

「へえ……。アヅマって意外と大胆なのね。まさか出会って間もない女の子に壁ドン……いえ、壁ダァンをするなんて」


……誰か、助けてくださいッ……!

俺の冒険譚――と呼べるのかどうか怪しい代物――はかなり異質だなと思ってはいたが、自分で振り返ってみると異質にも程があるって話だった。

というか、話の軌道を戻そうか。


「ま、まあ、そういうことでユイナ……というより、俺が狙われてるんだと思う。俺が強者を求めるって考えてなのかどうかは分からんが、そうやって狙われてる以上は何か対策を練っておきたい」


俺としては、結界を王都全体に張りたいと思っている。

王都全体はダメだとか思っていたが、この周辺に来た頃に確認したところ、法律なのか条例なのか、ここ周辺のルールには『人々に利益をもたらす結界ならば、王都の許可なしで張ってもよいとする』って書かれていた。

普通なら承認くらい必要じゃないのかとツッコみたくなるが、王都がそう言っているならば好都合なんだし、問題ないか。

とはいえ結界の知識なんてないんだよなーと悩んでいる俺に。


「それなら、私に任せてくれれば強力な結界を張れる」


と、ジェルトが言ってくれた。

話を聞くに、精霊は魔力いじりも得意なようで、結界を作るのに必要な魔方陣の組み方のルールも知っていたのは救いである。


「それで、効果はどうするの?」

「……それなら、勇者を入れないタイプ……世界から公式的に勇者認定されている者の一行を入れない結界って張れるか?」


できればあのクソガキ勇者だけを入れない結界ってしたかったんだけど、ユイナは流石にアイツの髪の毛の1本も持ってるはずないし。

だからこそ、『世界から公式的に勇者認定されている者の一行』を入れない結界にするしかなかったのだ。

アイツ等とのイザコザに決着が訪れるか、アイツ自体が死ぬかしたらジェルトが解除するだけだから、何も問題はない。


「それじゃあ、今から張ってくる」


そう言い残し、ジェルトは外に出て行った。

それを追うようにして俺たちも外に出ると、ちょうど結界を発動させたところらしく、空をよーく見るとうっすらピンクっぽく見える。


「王都に入ってきた時点で、私たち全員に告知が来るからよろしく」


おお、そんな便利なシステムも組めるのか。

褒めるべきだと思った俺はジェルトの頭を撫でたが、まだあの壁ダァンの影響が残っているのか、アニメでしか見ないだろってくらいに顔を真っ赤にして倒れた。

……これでしばらくは、勇者一行の手に脅かされることはないな。


次回 Episode025 加工職人、まさかの悪魔だった件。

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