【11万PV,1240F,★170,♡2450】勇者にフラれた最強美少女の『ざまあ』を手伝ったら、急にスローライフが始まりました~俺でいいならお好きなだけ隣にどうぞ~
Episode006 スローライフに向けて
第二章 スローライフ……なのか?
Episode006 スローライフに向けて
宿に帰った俺たちは、簡単に宿の人が許可を出してくれたことに驚きつつ、俺が泊まっている部屋にて一緒に寝ることにした。
ここの宿は一階にある食堂で食べるところだから、夕飯の用意とかに支障が生じることもないってことで、宿の人はすんなりと許してくれたのかもしれない。
…とりあえず、部屋にあった露天風呂に入ろうとしたらしい。
タオルを巻いたとは言えど、湯で濡れればタオルだって透けてしまう。
こういう旅館のタオルってのはそういうものだ。
ここで俺の『魔法再現』で吸収してきた魔法が役に立つのである。
「ん? 今、少しタオルが光りましたが、何かしたんですか?」
「ああ、透けるのってあんまりよろしくないから、『耐水』を付与した。……少なくともあと数年は、健全な関係を崩す気はないからな……」
「そっ、そうですね! 赤ちゃんができると、冒険者は引退してしまいますから!」
ユイナも俺が何を言っているのか理解して、頷いてはくれたが。
好きな人が下の話が分かるのって嬉しくないし、これからはこの手の話は遠回しでも言わないようにしよう……。
湯に入ると、ずっと眺めていたくなるくらい、ユイナは気持ちよさそうな顔をした。
今の風景を撮って広告にしたら、この温泉旅館は永遠に繁盛するんじゃないのか?
それはともかく。
「ところで、あのクソガキ勇者から奪った屋敷はどういう感じなんだ? 王都から少し離れた高原にあるって言ってたけど」
俺のその疑問に、ユイナは微妙そうな表情で口を開こうとする。
ただ、上手い具合に伝えられる言葉が見つからないのか、少し黙ると。
「……あの家には、そんなにいい思い出はないですね。あそこから旅立ってまだ一ヶ月も経ってないというのに、あまり記憶もないですし。あなたと過ごした今日一日の方が、すっと長く覚えていられると思います」
「そ、そうか。ありがとう……」
急に照れるようなことを言いおったな、この最強美少女は。
あと、あくまで最強美少女というのは、俺の中でのユイナの二つ名みたいなものなのだが、一応は実力者であるクソガキ勇者に勝ったんだし、本当に最強かもな。
「2階建てのログハウスで、2階にはルーフバルコニーがあります。当時はしたことはなかったですが、そこで天体観測やバーベキューをしてみるのもいいかもしれないですね。……本当に、あなたに出会えてよかったです」
……嬉しいんだけどさ、いちいち俺を照れさせるようなことを言わないでくれ!
そのまま俺の肩に頭をもたれさせてきたユイナは、俺を上目遣いに見て笑う。
こんな境遇に恵まれた俺は、近いうちに死ぬんだろうか。
もしかしたら、旅行から帰る途中で魔王軍幹部の襲撃に遭うのかもしれない。
*
それから数日間は何事もなく、2人で温泉街を楽しんだ。
問題と言えば、ユイナの寝顔を眺めていた所為で、俺が寝不足になったくらいか。
まあ、ユイナが可愛いからか、俺はその程度で倒れることはなかった。
意外なところで恋の力が発揮されたと言っていいのだろうかとは思うが。
そんなこんなで王都に帰った――魔王軍の襲撃も魔物の大量発生もなかった――俺たちは、ユイナの案内でその家へと向かう。
曰く、帰ってくることがあったらと思い、家具やその他諸々は残してあるらしい。
家具を用意しなくていいってのはいいかもしれないが、どうせなら俺がこの手で魔法を使って作るってこともしたかったんだが、またそれは別の機会か。
歩いていて思ったのだが、高原の上にあるとか言っていたはずなのに、少なくとも王都に近くはなかった。
地図上で見たら近いのかもしれないけど、道を歩いて向かおうと思ったらそれなりにあったのである。
まあ、俺の『魔力飛行』さえ使えば、そのまま降り立つことができるから問題ない。
少しずつ屋根みたいなのが見えてきて、この距離からでもその家が、サイズで言うなら貴族の別荘くらいの広さはあるのが確認できた。
何が家だよ屋敷じゃんかとツッコみたくなるのを抑えながら、家もとい屋敷に到着。
「それでは、鍵で開けますので、ちょっと待っ……」
ユイナがそう言いながら、カバンの中から鍵を出そうとする。
だが、屋敷に入るのを待ちきれなかった俺は。
ガチャリ。
「……どうして開いたんですか?」
「あ、ゴメン。『解錠』を使っちゃった。でも安心してくれ。この魔法は入場する資格のない場所には使えない、いわば鍵をなくした場合用の魔法だから」
俺は魔法を使って、屋敷の鍵を開けてしまった。
いくらこれからここで暮らすとしても、どうして一度も入ったことのない俺の解錠が効いたのかは分からんが、成功したんだしいいとするか。
少なくとも、コレを使って犯罪に走るようなことだけはない……と思いたい。
「と、とりあえず、入っていいですよ」
「ああ。……おお! 外から見た通りに広いな!」
屋敷の中に入ると、そこには以前暮らしていた勇者パーティーが暮らしていた形跡を残したままの屋敷が広がっていた。
玄関を入ってすぐのフロアが広いリビング兼食事スペースになっていて、その右奥にあるキッチンには冷蔵庫を模したような謎の直方体が見える。
左奥には廊下があり、そっちには風呂とかがあるんだろう。
玄関のすぐ右には階段があるし、この屋敷は俺がスローライフをする理想の家として想像した屋敷に似ている。
まあ、その辺は関係ないと思うけど。
ユイナは軽く玄関から屋敷を見回すと。
「ちょっと埃っぽいですね……。一緒に掃除しましょう!」
「りょーかい」
俺はそう返事すると、『物質創造(低)』を使い、雑巾を2枚創る。
この魔法は特殊能力に近い効果があるレアな魔法で、つい数日前に討伐したグリフォンの中の一匹が持っていたから回収させてもらった。
さて、新生活の醍醐味を楽しませてもらおうじゃないか……!
*
2人で時間をかけて家の隅々まで掃除を終えた頃には、もう夕方になっていた。
掃除の途中で書斎や実験室っぽい部屋があって気になったが、どうせならそういうのは後日、ユイナと一緒に過ごす楽しみとして残しておいたのは秘密である。
「……それにしても、一日中掃除してるのも疲れますね……。もう私、お腹が空きました……」
「そっか。なら、ギルドに晩御飯でも食べに行くか。キミがここに帰ってきた事情を酒場に溜まってる冒険者たちに話したら、きっと楽しいと思うし」
「……そうですね! 皆さんと一緒に話して笑って食べましょう!」
そう言うと、より一層輝きの増した気がする笑顔で最強の天使様は笑ったのだった。
次回 Episode007 スローライフ、開始。そして、来訪者。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます