Episode004 最強美少女とのざまあ作戦パート2

俺たちは、俺がユイナの使う技と剣に付与する魔法を選び終え、そのまま温泉街にあるギルドへと向かい始めた頃には、もう夕方も近くなっていた。

笑ったら誰でも簡単に好きになっちゃうような女の子をフッた相手とはいえ、腐ってもその相手は勇者である。

俺みたいな見知らぬ男が付いていたらヤバいんじゃないだろうかと思ったが、ユイナは俺が相談相手になってくれた人であることを理由に離れさせてくれなかった。

まあ、乗った船を今更降りるのもカッコ悪いしな……。

少しずつギルドが近くなり、気が付けばもう目の前である。

もしかすると、付き合っている相手の親御さんに顔を出すときもこんな感じの気分なのかもしれないが、今回は何もそういうワケじゃない。


「それでは、入りますよ。もしいなかったら夜まで待ちますが、いいですか?」

「ああ。最後までこの一件を見届けさせてもらうよ……」


ユイナと短く言葉を交わすと、俺はギルドの扉をゆっくりと開けた。

扉から顔を出してみると、中は少しガランとしていたが、ギルドの奥の方にやたらと煌びやかな装備に身を包んでいる集団が。

アレが勇者パーティーなのか。

それにしても、どうしてか悪そうな見た目のヤツが多いな。

装備が違ったらチンピラの集団だと見間違えるかもしれん。

と、俺がそんなことを考えていたら、ユイナがギルドの奥へと走って行っていた。

……そういえば、ユイナって温泉街でフラれたってことでいいのか?

じゃなかったら勇者パーティーまでここにいるってことはないだろうし。


「テルネモ様! どうか一戦お願いします!」

「あれ? チミって、この前俺に告ってきた元右腕チャン? 悪いけど、チミと一線を越える気はないって趣旨を言ってなかったっけ……」


…コイツ、完全に舐めてやがる。

ボサボサな灰色の髪を掻き毟りながら言うこのガキっぽいヤツが、その勇者なのだろうが……。

『一線』と『一戦』を掛けて上手いこと言いやがった。

まだテルネモの性格は知らなかったけど、まさかこんな野郎だったとは……。

というか、この様子だと、勇者としての使命に縛られていたからユイナとの交際を拒んだとかじゃなさそうだな。

本当にこんなガキみたいな中身のヤツが勇者になったっていうのか?

ユイナには申し訳ないけど、こんなヤツのどこに好きになる要素があるんだ?

むしろ、勇者になったし好き勝手にやっていいと思い込んで本性を現したとか……。

いずれにしても、一回シメておいた方が良さそうだな。

もう勇者だろうが何だろうが知らんが、ここまで腹が立ったのも久しいな……。


「おい、そこのクソガキ勇者。お前さ、今は違うからって、ソレが仲間だった、それも右腕だった人に対しての態度だっていうのか?」

「あ? オメーさん誰だ? 俺が誰か分かってそんなこと言ってる?」

「そんなん関係ない。どうしてこんなヤツをユイナが好きになったのか……。別に人の趣向にどうも言うつもりはないんだけど」


俺たちが言い合いを始めてアタフタしているユイナをチラッと見てから、もう一度目の前の勇者ことクソガキを睨みつける。

コイツも中身はそんなんだが、黙ってればモテそうな感じだ。

……あれ、そういえば、ユイナは『もっと役に立ちたい』から告白したんだが、『好き』だから告白したとは言ってないよな……?

それって逆にどういうことなんだ?

すると、俺が何か気が付いたのを見抜いたユイナが、一旦勇者パーティーから俺を連れて一緒に離れて、耳許で言った。


「……私は、テルネモ様のこれからの活躍を増やすことや、誰かに迷惑を掛けないようにさせることを目的として、一緒にいる口実を作ろうとしただけだったんです。でも、それが不可能になったから混浴にいました。あの選択を後悔させるってことは言ってあったと思いますが……。もしかして、私がテルネモ様を好きだと勘違いを?」

「ま、まあそういうことだ。……妙な勘違いしてゴメン」

「いえ、その節を言っていなかった私も悪いです」


……誰もそんなこと想定しないって。

距離を置いて小声で話していると怪しいと思われるかもしれないが、何にせよ、ユイナみたいな才色兼備があんなクソガキを好きじゃなくてよかった。

まあ、俺は盛大な勘違いの結果、こうして首を突っ込み過ぎたんだが。

もう誰かが不安そうにしていても、変な勘繰りはなしで相談に乗るか……。

話に一段落ついたところで勇者パーティーの方に戻ると、テルネモは。


「それで、元右腕チャンは俺と勝負したいと」

「はい。もしあなたが勝ったら私に、私が勝ったらあなたに、1つ言うことを聞かせられるっていうのはどうでしょうか?」

「へえー。勇者相手にそんな無謀な賭けしてくる人とかいたんだー。俺は手加減しないから、負けたら俺の知り合いの奴隷商に売り払うってこと、覚悟してねー」


うわ、コイツってどこまで掘っても悪役な感じだな。

どうせ山賊とかとも繋がりがあるんだろうけど、今その辺を掘り下げたら、予感が当たっていた時に俺たちの命はない。

とは言っても、ユイナが何も知らなかったんだし、テルネモ本人の知り合いなんだろうけど。


「それでは、降伏するか、傷を1つ付けた方の負けとしましょう」

「ああ、それでいいよー。世界で一番強い奴隷になる人さん……フヒヒッ……」


……やっぱり、俺がコイツを直接ぶちのめしてやろうか。



そのまま温泉宿の外に出た俺たちは、勝負が始まるのを待った。

テルネモもユイナも、自分で『身体強化』を施しているが、どうせテルネモは弱体化魔法でも使ってくるのがオチだろう。

使われないに越したことはないのだが。

それにしても、勇者の三下ってうるさいイメージがあったんだけど、コイツ等は妙に静かだな。

勇者パーティーの1人がレフェリーを申し出て、2人が剣を構える。


「それでは、勇者テルネモ様と元勇者パーティー右腕のユイナの一騎打ちを始める」


俺はその言葉が終わると、『魔力隠蔽』と『泥沼発生』を発動させる用意をする。

あとは開始の合図を待つだけだ。

俺は魔法を『再現』することしかできないからか、無詠唱でいいらしいが、今更になって思うと、コレって日本のラノベじゃチートの一角じゃなかったか?

それはともかく。


「それでは……開始!」


次の瞬間、俺は手に溜めていた魔力を一気に放出する。

すると、すぐにテルネモの足元がグチャグチャになり、滑りそうになりながらも進んでいるが、その状況が俺の掌の上であるとも知らないらしい。

その直後に立っていられるだけの魔力を残して『身体強化』をユイナに付与し、彼女は泥沼がなくなった地面から走り出したテルネモへと刃を向ける。

剣に火炎魔法『煉獄之伊吹』をまとわせ、全力で突貫した。

急に埋まった空間に驚きながらもテルネモは抵抗を試みるが、右腕は右腕だった。

勢いでテルネモの剣を弾き飛ばしたユイナは、アイツの首の寸前で剣を止める。

実に見事な俺のシナリオ通りの戦いであった。


「……これで、チェックメイトですね」


そう言うと、悔しそうにギリッと歯を噛んだテルネモを置き去りに、急に俺に近づいてきたユイナは……。


「「「なっ……!?」」」


……俺の腕に自身の腕を絡め、嬉しそうな満面の笑みで俺の隣に立った。

その光景に、俺を含め、そこにいた全員が声を上げた。


「私は何も、勇者パーティーに戻りたいとは言ってないじゃないですか」


……なるほど。これがユイナ流の『ざまあ』でしたか。


次回 Episode005 最強美少女は、俺と生きるらしい。……ホントだよ。

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