パンツを貰うのと比べたら簡単なことのはずなのに

「それじゃ、一緒に行こ?」


 そう言って雫さんは俺の手を引いた。


「え、あ……」


「その、昨日は一緒に行けなかったから……嫌?」


「イヤジャナイデス」


「そう……それなら、ね?」


「うん」


 そう言って俺は雫さんの手を握り返す。


「ひゃっ……」


「ど、どうしたの?」


「ん、ちょっとその……びっくりしただけ。うん……何ともない、うん」


「顔赤くなってるよ?」


「ん、気のせい……たぶん今日リンゴ食べたから」


 そう言ってプイッと雫さんは顔をそらした。

 ……リンゴ食べたら顔を赤くなるって……どういうことだ?


 どういう事なんだろうな。


「っていうか、そう言うあなたも顔赤くなってる」


「え、マジ」


 そう言って顔に手を当てる……熱いわ。

 これ真っ赤になっちゃってる奴だわ。


 真っ赤っかだわ。


 それに気が付いて、俺は少し彼女から顔をそらした。

 ……手はつないだまま。


 柔らかい肌が触れ、静かに俺へと体温が伝わってくる。

 ふと気が付けば、手が湿ってきている。

 

 ……手汗、だよな。俺の。

 そりゃそうだ。

 

 雫さんと触れ合って俺の体温が上がっているんだ。

 そりゃあ、熱くて手が触れ合ったら汗もかくだろう。


「……雫さん、その」


「何?」


「なんていうかその……手汗が」


「え、あ……そっか。うん、ごめん私の手汗、汚いよね」


「い、いや全然そんなことなくて……むしろ、雫さんの手は綺麗っていうかなんて言うかっ……って何言ってんだろ俺」


 そう言って俺は、顔が熱くなる。


「ん……本当何言ってんの?」


「い、いや……あははー」


 そう言って俺は空笑いする。

 ……雫さんからも突っ込まれたよ。本当さ。


「……手汗が綺麗って、そんなの……変態」


 そう言うと雫さんは俺の手を、強く握ってきた。

 手が密着し、俺と雫さんの体液が混ざり合っている、そんな気がする……いや、別にエッチな話じゃない、けど……なんて言うか、その。


 何を言いたいんだ俺は。


 会話が途切れ、俺は頭の中で独り言葉の整理をする。だけど、ふとした瞬間に手に意識が向いてしまい、すぐに言葉がぐちゃぐちゃになる。


 駄目だ、冷静に。

 冷静にならないと……深呼吸、駄目だ。

 雫さんの匂いが肺に入ってくる。


 落ち着けねえッ‼


 そう俺が落ち着かない中、雫さんは更に俺の事をわざと落ち着かせないようにしているかのような質問をぶつけて来た。


「……ねえ」


「な、なに?」


「私の事、嫌い?」


「そ、そんなことない……むしろ……」


「むしろ?」


「その……」


 突然そう言われて、俺の頭は真っ白になる。

 好き? 好きだとも、勿論。

 好きだけどでも、なんていうかその……好きだけど。


「やっぱり……嫌い?」


「嫌いじゃない……」


「じゃあ、好きなんだ?」


「そ、それは……」


「じゃあ嫌いなの?」


「……嫌いじゃなくて」


「じゃあ好き?」


「それは……その」


 難しいな。

 いや、言葉は簡単だ。

 好き。


 ただそれだけだ。


 ただそれだけなのに、伝えられない。

 おかしいな、パンツを貰う事と比べたら簡単なことのはずなのに。


 たった二文字。

 簡単な「すき」という意味の言葉は、簡単すぎて簡単じゃない。


 簡単じゃないけど、いつかは伝えなきゃいけない……って分かるけど、うわ―――――‼


「……き、嫌いじゃない……嫌いじゃない……その、あうあぁ……」


「……ん、やっぱり……ん? あれ」


 そう言って雫さんは俺の目をじっと見てこてんと尋ねた。


「ん……大丈夫?」


 大丈夫……じゃねえよぉ。

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何故か学園一の美少女が、毎日脱ぎたてのパンツ渡してくる件について。 青薔薇の魔女 @aomazyosama

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