パンツの雨よ降りやがれー
「雫さん、次どの機体で……雫さん?」
何度か野良で入った俺達だったが……おかしい、雫さんの声が聞こえない。
「おーい、雫さん~?」
『ふぇ~』
もう一度声をかけるとそんな、気の抜けた返事が返ってきた。
……凄い、力が抜ける声だ。
これはもしや……
「雫さん、眠たい?」
『へ~、眠くない……眠くないよぉ……』
そう言った雫さんの声がしりすぼみになっていく。
うん、通話越しでもわかるくらいに、明かに眠たそうだ。
『……ふぁ、ねむたくない……うん、雫眠くないぃ』
そう言って雫さんは言葉がしりすぼみになっていく。
「えっと、そうだなぁ……なんかもう雫さん眠たそうだし、もう今日は終わりにしよっか」
『んー終わりーなんでー』
「……雫さんが眠たそうだからだよ」
『私まだ、眠くな……ぐー』
「あれ? 雫さん、雫さん~」
『ふぁっ、眠ってない。しずくねむってない』
あーもうこれ、寝落ち数秒前って感じだ。
『ふぁー……眠くない……』
可愛い。
なんていうか、駄々こねる子供みたいでかわいい。
しっかりした姿でクールな雫さんもいいけど、こういう感じで駄々っ子雫さんもいいなぁ……
『眠くないもん……zzZZ……ハッ、寝、寝てない……寝てないから……』
そう言って雫さんは睡魔に堕ちまいと必死に耐えている。
早く、通話切った方が良いかな?
いや、しかし……このまま駄々っ子雫さんの声を聞いていたい気もする。
『ねみゅく……ふぁい』
そんな力が抜ける声がイヤホンをしている耳元に響、俺の意識が一瞬傾いた。
はっ!? ヤバい、俺まで眠くなってきた。
このままじゃ俺まで寝落ちしてしまう、早く通話を終えなければ……いや、このまま雫さんと一緒に寝落ちするってのもまたそれはそれでありなのでは?
いやいやいや、何考えてるんだ。
通話繋げたまま俺が寝落ちして、変な寝言でも言ってみろ。
絶対引かれるだろ。
怖すぎる。
それは恐ろしすぎる……が、ちょっと待て、俺の寝言が雫さんに聞こえるなら逆もまたあるのでは?
即ち、雫さんの寝言が聞けるという事。
……ありだな。
=俺は混乱している=
……なんか今、コマンドっぽい何かが見えた気がしたが気のせいだろう。
あ、でも待てよ。さっきの状況だと俺もまた寝落ちしているわけで、雫さんの寝言が聞こえるとは限らない。
むしろ雫さんに恥ずかしい声を聞かれるという確率が高いのでは?
……むむむ、そうなるとやはり通話は切るのが正解か。
ここまで約三分。
丁度お湯を注いだカップラーメンが食べごろになる時間で結論を出した俺は、雫さんに声をかけた。
「……とりあえず今日はもう通話おわろっか、雫さん……あれ? 雫さん?」
おかしいな。
「しずくさーん?」
返事が無い。
まるでただの屍のようだ。
何かあったのか、通話先からは全く何も聞こえて……ん? なんだ、返事はないが、何かが聞こえてくる。
小さな空気が動くようなそんな音……これはもしや。
『すー……んー……スヤァ………スー』
「あ、これ寝落ちしたな」
◇◇◇
そして、次の日。
俺は通話が切れたスマホを取ると、心地いい朝日を全身で浴びた。
「昨日は深夜まで雫さんと一緒にゲームしてたんだよな……」
幸せな時間でした。
そう思いながら、遥の作ってくれた朝ご飯を食べ、学校に行く準備を済ませる。
……雫さんは今日は学校に、いや、昨日の今日だしまだ学校には行かないのかな?
「……あ、雫さんの体調の子と考えたら昨日のゲーム断っておくべきだったかな」
しまった、選択肢をミスった。
早めに雫さんをねさせれば今日学校で合えたかもしれないのに……
そう思い、しょぼんと肩を落とし、家の扉を開けた。
扉を開けるとそこには見覚えのある銀髪の女の子が制服を着て立っている。
「ん、おはよ」
「あ、おはよう雫さん……はぁ、今日もきっと雫さんは休み……やす、雫さんっ⁉」
「ん、どうも」
そう言って雫さんは、まるでそこにいるのが当然かのように挨拶をする。
「え、えっとどうも……じゃなくて、あ、あれ? 雫さん、なんで……俺の家知ってるの!?」
俺、自分の家どこにあるかって教えたっけ?
そう首をひねると、雫さんが隣の家を指さした。
「ん、美琴に隣の家だって聞いた」
「そ、そっか」
美琴さんに聞いたから知ってたのか。
「それより……」
そう、雫さんは言うと俺の事をじっと見た。
「えっと……何?」
「ねえ、昨日私変なこと言ってなかった?」
昨日? 昨日……あ、通話か。
「変な事……変なことは……」
そう思い返すが、変なことは言ってなかった……気がする。
なんか『パンツよ私は帰って来たー』とか『パンツの一発あれば十分だー』とか言って『あひゃひゃひゃー、パンツの雨よふりやがれー』って言って笑ってたのを変ことに含めなければだけど。
「言ってなかったかな?」
「……そう、それならいい……」
そう俺が言うと、雫さんはホッと胸をなでおろしたのだった。
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