お兄ちゃんの部屋に会ったパンツの匂い

「ただいまー」


 そう言って家に入ると、俺の鼻にスープのいい匂いが漂って来た。


「あ、おかえりー遅かったね~」


 そう言ってリビングから遥がひょこっと顔を出す。


「まあ、ちょっとな……友達の家に行って来た」


「そっか~」


 そう言った遥は、トテトテと俺の方に近づくと「ところでぇ」と、静かに笑顔を向けて来た。


 何だろう、凄い圧を感じる。


「ねえ、今日の朝ご飯食べてくれなかったね」


「あ、す、すまん。けど、あれは遅刻しそうだったからさ……」


「うん、僕もそれは分かってるよ? だけどさ、やっぱり食べて欲しかったなーって、折角美味しくできたのになーって、あー別に怒ってないともさ?」


 あーうん、これ怒ってる。


「まあ、そう言うことだから……うん」


 そう言ってニコッと笑って遥は俺に抱き着いた。


「ちょ、いきなり何するんだよ」


「いやー、ちょっと兄ちゃんに抱き着こうと思って。これで相殺だよ」


 これで相殺って……それでいいのか。


「まあ、お前が良いなら別に俺に抱き着いててもいいけどさ」


「じゃあ、遠慮なく……すーはー」


「お前、何俺の匂いかいでんだよ⁉」


「いいでしょー……別にーお兄ちゃんの匂いって……匂いって」


 そう言って遥の言葉が留まった。


「どうした?」


「ねえ、お兄ちゃん……お兄ちゃんの友達ってもしかして女の子?」


「……っ⁉ そ、そソウダナ。女の子……かな?」


「ふーん……」


 別に隠すことでもないからそう言うが、何故遥は分かったんだ?

 そう言えば昨日友達の話してたから、その時に言ったっけ?


 いや、女の子だってことは言ってない。

 ラインの画面も隠したし。


 遥は俺の友達の性別については全く知らないはず……


「何で、俺の友達が女の子だって思ったんだ?」


「ん? いやーなんとなく……」


 そう言うと遥は、玄関に置かれていた紙袋を手に取り中に鼻を突っ込んだ。


「何してんの」


「くんくん、すーはー……やっぱりこれだ」


「あ、あのー遥くん? それは?」


 そう尋ねると遥は俺を見た。


「これは、なんかお隣さんが家庭菜園してて出来た野菜が入ってた袋なんだけど……この匂い。お隣さんの幼児パンツの匂いが兄ちゃんからする」


「え?」


 幼児パンツの匂いってなんだよ……


 って、違う違う。それもあるけどお隣さんの匂いがするって、おいおい。


 どういうことだってばよ。


 お隣さんってことは……もしかしなくても美琴さんのこと言ってるのか?

 確かに、さっきまで俺は美琴さんと一緒にいたが、そんなにに追いついてるか?

 

 ……嫌、ついてない。全くついてない……と思う。


「それだけじゃない、他の匂いも……くんくん。他の女の匂いがする」


 え、怖い。

 どういう鼻してんの。


「これは……どっかで嗅いだことある匂いなんだけど、よくわからない……まてよ、この匂い。すんすん、あ、分かったこの匂いは兄ちゃんの部屋にあったパン……」


「待て待て待て待て、嫌、お前……え、何? 兄ちゃんは遥が目茶苦茶怖いんだけど」


 そう言って俺は、何かに気が付きかけた遥を制止し、そしてついでに遥に対して謎の恐怖を覚えたのだった。

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