パンツの色を知っていても
「そえれじゃ、また……」
「ん」
「じゃあなー」
そう言って俺と美琴さんは雫さんの家を出て帰路につく。
「いやー、にしても元気そうでよかったな」
「そうだな」
そう言って頭の後ろで腕を組みながら美琴さんは何事もなかったかのようにそう言った。
「なあ……美琴さんさ、その……大丈夫?」
「ん? 何が?」
「さっき雫さんに吹き飛ばされてたからさ……なんていうか、怪我とかしてないかなって」
「ああ、それな~……まあ、何処も痛まないし大丈夫だろ」
そう何でもないとでも言うように軽く笑って言った美琴さんだが、本当に大丈夫なんだろうか?
さっき雫さんに吹き飛ばされたの、結構な勢い合ったけど……
「まあ、何時もの事だからな」
「本当に、その言葉便利だね」
まあ、本人が大丈夫というなら大丈夫なんだろう……きっと。
そう思いながら俺たちは揃って歩く。
「ねえ、そう言えば美琴さんって昔から雫さんと友達なんだよね」
「ん? 昔って言っても4年くらい前からだが……まあ、付き合いはお前よりは長いな」
「4年前?」
ってことは、中学一年生くらいか?
「そうだ、丁度中学入ってそこら辺から付き合いは始まったな」
そう話していた俺たちは、踏切に差しかかり立ち止まった。
カンカンと赤信号が点滅し、ゆっくりと黒と黄色の縞々のバーが降りてくる。
「出身は東京から遠い田舎町らしいが、なんか色々あってこっちに引っ越してきたらしい。そんで、近くの中学入って……って流れらしい」
「ふーん……え? 引っ越してきたの?」
「らしいな、まあさっきも言ったように私はあんま詳しくは知らないけどな」
美琴さんはそう言うと、肩をすくめた。
雫さんって都会出身じゃなかったんだ。
「……田舎町ね。どこなんだろ?」
「ん? お前気になるのか?」
「ま、まあ……ちょっとね」
俺は雫さんの事を何も知らない。
今日のお見舞いに行く品は俺じゃなくて美琴さんのアドバイスで決まった。
友達と言っても、所詮パンツを渡し貰われる関係……
俺は雫さんのパンツの色を知っていても、雫さんの事については全くの無知なんだ。
だから少しでも、雫さんの事を知りたい。
「まあいいぜ、別に減るもんじゃないから教えてやる……って言いたいとこだが、残念ながら私は雫の出身地に関しては全く知らねえんだ」
「そっか」
そう言って俺はそう言って目の前を見た。
ガタンゴトンと、電車が走り長い時間をかけて通り過ぎていく。
数秒後、完全に電車が通り過ぎ、バーが上がった。
「……あ、そういえば」
さあ行くかと足を進めようとした時、美琴さんがそう声を上げた。
「そういやなんだが、雫と電車に乗った時、あいつめっちゃ手間取ってたな」
「手間取ってたって、雫さんって電車に乗るの苦手だったの?」
「みたいだぞ、なんでも前まで住んでたところは電車が無かったらしいからな」
そうか、田舎だから普通に電車はあまり使わない……って。
「電車が無いって?」
「ああ、らしいぞ。線路すらなかったらしい」
線路が無いって……どんな田舎だよ。
島かな?
◇◇◇
それから、俺と美琴さんは雫さんの話をして歩いていた。
少しでも雫さんの事を知りたかったからね。
「で、そん時に雫の奴が俺の事助けてくれてよ」
「雫さん、凄いアクティブ何だな」
「本人はあくまでインドア派らしいけどな……っていうかよ、さっきからずっと気になってることあるんだが」
「どうしたの?」
「お学んでずっと私の隣歩いてるんだ?」
「いや、だって帰り道こっちだし……そう言う美琴さんこそどうして俺の横をずっと歩いてるのさ」
「なんでって、私も帰り道こっちだからだよ」
そうなのか。
帰り道一緒だったんだ。
そんな話をしながら歩いていく俺達だったが、家に着いた時衝撃的な事実が明らかになった。
「お前の家隣だったんだ」
「そうらしいな」
そう言って俺たちは、互いに目を合わせたのだった。
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