バナナは何処だっ⁉ “PANTSU”

 バナナと昆虫ゼリーを買った俺は、雫さんの家にやってきていた。

 目の前には、チャイムが……


「……ゴクリ」


 押すか、押さないか……いや、押すしかないだろ。

 でも、少し緊張するな……口臭くないよね? 大丈夫だよね、よし押す、いやいや……


「何やってんだよ、早く押せよ」


 そう言って呆れた顔をした美琴さんがチャイムを鳴らした。


『あ、は~い』


 しばらく待っていると雫さんのお母さんの声が聞こえた。


「美琴と、あと……お前誰だっけ?」


「え、あ……」


『あらあら~美琴ちゃんと、花子さん……』


「太郎です」


『あら~ごめんなさい~次郎君』


「だから太郎……何笑ってんのさ?」


「いや、なんか面白くってな、つい……くく」


 そう言ってほっぺを赤くして、美琴さんは笑っていた。


『あらあら~仲よさそうで~……まってて、すぐに鍵を開けるから~』


 そう雫さんのお母さんが言って、通話を切ろうとした時だった……通話の向こうから謎の、何か動物の唸り声のような声が聞こえて来た。


『バナナ、バナナななななななな……』


『あら……はっ、しまった。もう切れっ……きゃっ』


 そう雫さんのお母さんが言った後、バタンバタンという何かが暴れる音が聞こえて来た。

 

「だ、大丈夫ですかッ⁉」


「おい、どうしたっ!」


 そう声をかけるが、何も反応が無い。

 何かあったのだろうか?


 ……もしかして強盗とか!?


 俺と美琴さんは互いに目を向け合う。


「ど、どうすりゃいいんだ?」


「と、とりあえず警察に連絡するとか?」


「そ、そうだなソレが良いのかも……」


 と、行っていた俺達だったが、どうやら心配は杞憂……


『大丈夫よ~、ちょっと……あっ! もうっ!』


 杞憂なんだよな?


『と、とりあえず鍵開けとくから……っわわ、ちょっと落ち着いて』


 そう雫さんのお母さんが言うと、通話はぱたりと切れた。


「な、何が起こってんだ?」


「さあ、私に聞かれてもわかんねえよ……とりあえず家に入るか」


 そう言って、俺達は目を合わせゆっくりと雫さん宅へ足を踏み入れる。


「……ゴクリ」


 つばを飲み込み、扉に手をかける。

 雫さんのお母さんは鍵を開けておくって言ってたけど……


「……開いた」


 ガチャリと音がして開いた扉から中を覗き込む……が、家の中は不気味なほどに静かだ。

 

「……なんだ? 何もねえのか」


 そう言って俺の下からひょっこり顔を出して美琴さんはそう言った。


「まあ、今のところは?」


「そうか、なら大丈夫か!」


「待って、まだ安全が確保できてない」


 そう俺が言うと、美琴さんはいい笑顔で盛大にフラグを立てた。


「大丈夫大丈夫、私の勘が大丈夫って言ってんだ、私の勘はハズレなっ――ぶへっ」


 そして、立てたフラグをすぐに踏み抜いた。


 美琴さんは何者かに吹き飛ばされ、壁にたたきつけられ……そして床に倒れ込み、まるで瀕死の虫のように手足をぴくぴくと動かしている。


 まさに芸術点は100点満点中120点を差し出したいくらいの建築具合……一級フラグ建築史の称号を与えよう。

 ……って、冗談言ってる場合じゃない。


 何ッ⁉ 一体何が起こったの!?


 そう思った俺は、美琴さんを吹き飛ばした何者かを見た。

 

「バナナ―バナナ―……バナナ―は何処だー」


『この気持ちまさしく愛だ!』と書かれたダボダボな大きさのTシャツを着て、下は履いているのか履いてないのか……そんなだらしない服を着た、ぼさぼさ髪の銀髪の少女だった。


 彼女は虚ろな目で「バナナ」と呟きながらまるでゾンビのように徘徊している……


 なんだろう、何時もと様子が違うが……雫さんなのは間違いないはず……


「えっと、雫さん……?」


「バナナっ‼」


 俺が声をかけると彼女はバッと振り返り……


「バナナ……あ、どうも」


 そう言って、小さくお辞儀したのだった。

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