早くパンツを渡せるようになりたい。

 先生が着て、ホームルームが始まる。

 しかし、雫さんは来ない。


 みんな何かについて話しているが、まったく声が入ってこない。

 それほどまでに俺の頭はまっさらだった。


「……いない」


 ……もしかして、ずっと家で待ってた? 声をかけるべきだった?

 いやいやいや、そうだとしてもだ……だったらなんで今学校に来てないんだ……?


 俺が遅刻したって思って、もう一人で学校に来ててもいいだろうに。


 ……もしかして、俺のことを信じて待っててくれてるとか? いや、そんなわけない……ないよな?


 そう俺の中で不安が渦巻いていた時、ポケットからスマホが落ちた。


「あ……」


 ポケットに入れっぱなしだった……

 そう、俺はスマホを拾い上げると、ふと思いついた。


「そうだLINE」


 そうだよ、なんで思いつかなかったんだ?


「……何か連絡が着てるかもしれない……って」


 そう、LINEを見ると、そこには案の定雫さんからの連絡が入っていた。


「…………え……風邪?」


 どうやら、雫さんは風邪をひいて、熱を出したから学校を休むことにしたらしい。


 ……大丈夫なのか?


 まあ、雫さんを置いて行ったりしてなくて良かったけど……っていやいや、好きな子が体調悪いってのに、俺が遅刻したのが問題にならなくて良かったなんて思って……俺は――


「……とりあえず……何かメッセージ送らないと」


 俺は必死に頭を働かせ、文章を構築する。

 が、できない。


 何度書こうとしても、上手い文字が書けない。

 手が震えて、文字を上手く打てないのだ。


「……とととと、とりあえず……早く元気になってね……」


 と、そう打ち込んだ。


「……あ、返信来た」


 えっと、何々? 

 早く元気になってまたパンツを渡せるようになりたい……と。


 ……なんか、微妙に何処かズレてるよな。

 まあ、パンツは欲しいけど。


 まあ、何はともかく、早く元気になってくれるといいな。

 そう思って、教室を眺めていた時、クラスのみんなが一角に集まっていることに気が付いた……


 あそこは確か、晴間の席か。

 

 耳を傾けると、雫さんの話をしているのが聞こえてきた。


「俺の方にも雫から何も連絡来てねえんだよな」


「え、晴間にも来てねえのか?」


「ってか、俺も雫の連絡先知らねえし」


「え? お前も知らねえのか? その、あれだろ? 雫さんってお前の事好きで、お前も雫さん気に入ってるんだろ?」


「まあそうだなぁ~」


「なのに連絡先交換してないのか?」


 そんな話をしていた。

 適当なこと言って……雫さんが好きなのは………好きなのは。


 ……俺だと、思いたいけど。


「あ、いたいた。よっ」


 そんなことを思っていると教室の中に見覚えのある小さな金髪が入ってきた。


「あれ、美琴。なんか俺の教室にようかい? 彼氏としては嬉しいけど、あんまり時間は取れ……」


 そう言って声をかけたのは、誰であろう晴間だった。

 美琴は晴間を見ると、首を傾げた。


「ん? ああ、晴間か。お前は読んでねえよ。後、彼女でも何でもねえし」


「あっは、冷たいなぁ~」


 そう言ってそっぽ向いた美琴さんは、俺と目が合うと近づいてきた。


「いたいた。おい、お前……雫からなんか連絡なかったか?」


「え?」


 そう、俺に近づくと美琴さんは率直にそう尋ねて来た。


「え? ってなんだよ、えって?」


「いや……なんていうか、なんで僕なのかなーって」


 美琴さんって親友だし、連絡の一つくらい貰ってるんじゃないかなーって……そう思っていた俺に、美琴さんは不思議そうに言葉をかけた。


「そりゃ、お前……雫の一番はお前だからだよ」


「へ?」


「とりあえず、見せて見ろ……って、やっぱ貰ってるじゃねえか……ふむふむ、風邪か」


 美琴さんの言葉に俺が呆気に取られているうちに、スマホを取られてメッセージを見られた。


「ちょ、おま……」


「それにしても、お前……かったいなぁ文章。ん? ヤる? なんでこれでこんな話を……ま、とりあえずサンキューな」


 そう言って美琴さんは俺の肩を叩いて去っていく。


「……なあ、美琴」


「ん?」


 教室から美琴さんが出ようとした時、晴間は彼女を呼び止めた。


「今の、どういうことだ?」


「どういう事って?」


「雫が、あんなモブのことが一番だって話だ」


 そう晴間入って俺のことを指さした。

 ……モブでわるうござんした。


 美琴は俺と、晴間の顔を交互に見ると首をかしげてふしぎそうにいった。


「だって事実だからな?」


「は? いやいや、おかしいだろ。雫って俺のことを好きじゃん」


「お前の事を雫が好きだってって? ははは~、くそ下らないジョークだな~。うーん、人を笑わせたいなら少しジョークについて勉強した方が良いと思うぜ」


「は?」


 そう言って美琴さんは『ニカッ』と笑った。


 ……あれ、たぶんだけど何にも分かってない顔だ。たぶん、普通にいいアドバイスしたって思ってた顔だ。


 そう100%の善意でそう言った美琴さんは教室から出て行ったのだった。


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