ノーパンで膝枕

 数分、数秒……コンマ数秒。


 どれほどの時間が経ったか分からないが、少なくとも俺の体感では一瞬だった。


「……ん、ごめん。ちょっとしびれて来た」


「あ、うん」


 そう言って俺は雫さんの膝から頭を……退けられなかった。

 力を入れても何故か雫さんの膝から離れられない。


「あの、早くどかしてほしい。うれし……こほん。別にやっててもいいけど、流石に疲れて来た」


「う、うん分かってる……けど」


「けど?」


「頭が、離れない」


「え?」


 そう言われ、雫さんは俺の頭を持ち上げた。


「ん……離れるじゃん」


「あ、本当だ」


 そう言って俺と雫さんは目を合わせた。

 ……なんで離れなかったんだろう?


 分からんな……嫌、分かる。

 原因は一つしかない。



 何故俺の頭が雫さんの膝枕から離れなかったか、全ては雫さんの



 あんな気持ちいい場所から頭を外すなんて考えられないだろ⁉

 きっと俺の体は、それが分かっていたからこそ、意志に反してずっと膝枕から頭を離さなかったんだろう。


 おそろしや。


 なんてくだらないこと考えて、雫さんと見つめ合う……

 好き。


 話したくても離れない。


「ねえ……その、何でずっと見てるの?」


「そっちこそ……」


 そう言って互いに目線を外すが、またちらりとぶつかり合う。


「……寝る?」


「うん……」


 そう言って俺はまた、雫さんに膝枕してもらう。


「……どう?」


「その……なんていうか、その……」


「良い? 悪い?」


 そう尋ねられた俺は、少し考えて……


「最高です」


 そう答えた。

 俺の答えを聞いた雫さんは、プイッと顔をそらし……


「そう……」

 

 と小さく言うと、俺の頭をどかした。


 え!? いきなり……やっぱり嫌だった?


 そう思って、焦っていると、雫さんは俺の膝に頭をのせて来た。

 ゴロゴロと、頭を擦り付ける。


「……え、あ」


「……駄目?」


「良いです」


 そう言って俺は、雫さんの顔を見て固まっている。

 ……好き。


 大好き。

 どれくらい好きかって? そんなの言葉にできない。できるわけがない。たかが数千、数万、数億、数兆程度の歴史の中で生まれた概念で表せるわけがない。


 誰にも渡したくない。

 早く伝えなきゃ、伝えなきゃいけないはずなのに……


 いや、違う。

 何を悩んでいるんだ?

 好きだったら、早く伝えなきゃいけないだろう?


 時間はいつまでも待ってくれるわけないんだ。

 

「……あ、あの……さ」


「……何?」


「その……」


 好き。


 そう言おうとした時、部屋の扉がギギギと開いた。

 ガチャガチャと音を立てて入ってきたのは、雫さんのお母さんだ。


 なんつーたいみんぐでっ。


「二人とも~、ジュース持ってきた……わ」


 雫さんのお母さんは、雫さんに膝枕している俺を見て「あらあら~」と目を細めて言った。


「ふふ、二人とも……お熱いようで」


「え……あ」


「あっ、ちょ、これは違くて」


 そう言われ、俺と雫さんの顔は真っ赤になった。

 ……いや、冷静に考えたら、恥ずかしっ。まあ幸せですけれどもっ! 

 幸せですけどっ!


「ふふ、いいのよ~それじゃあごゆっくり~」


 そう言って雫さんのお母さんは微笑ましいものを見たというように持ってきた飲み物を置いて部屋から出て言った。


「あっ……うぅ……」


 そう言って雫さんは呻いていたが、その気持ちはわかる。

 ……なんていうか、そのきまづいよな。


 なんていうか、オナニーを友達の家族(それも好きな人の母親)に見られたみたいななんて言うか……


「ん……とりあえず、もう膝枕……いい」


「あ、うん」


 そう言って雫さんは俺の太ももから頭をどか……せなかった。


「ん……あれ?」


「どうしたの?」


「……おかしい」


 そう言って雫さんはコロンと頭を俺の方へ向け……


「貴方の膝枕から、頭が取れなくなった」


 少し涙目になった雫さんはそう言ったのだった。

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