パンツを貰っているのに

「パンツを渡すのは……」


「貴方だけ」


「どういう事?」


「だからっ……その………えっと」


 そんな会話をして玄関に立ち尽くしていた俺達に、誰かが声をかけて来た。


「雫―帰ってきて……あら? あらあら、その子は?」


 そう言って出てきたのは、優し気な顔をしたウェーブがかかった上品なお姉さんだった。

 年齢は、どれくらいだろうか?

 分かりづらいが……若い、たぶん二十代後半くらいかな? 三十代ではない気がする。


 あ、そんなことよりもあいさつしないと……


「あ、はじめ……」


「ん、ほらLINEで連絡したでしょ? その、クラスメイトで……あの、と、ととととと友達の……」


 挨拶をしようとした瞬間、雫さんがそのお姉さんに言葉を返した。

 ……挨拶のタイミングのがした。


「あ、あ~、今日遊びに来るって言ってたわねぇ~そうだったわ~確か名前は……後藤 花子さん……だったかしら?」


 そう言って、彼女は俺を見た。


 うーん……惜しい。

 いや、名前は全然違うけど……なんか惜しい。


「……佐藤」


「ああ、佐藤 花……」


「太郎です」


「あ~太郎君だったのね~ごめんなさいね~次郎君~」


 そう言われ俺は頭を抱えた。

 ……違う。


「だから、お母さん佐藤 太郎だってば」


 そう雫さんが言うと「そうだったわ~」と女性はのほほんとそう答えた……っていうか待って、お母さん?


「お母さん……え?」


「あら? どうしたの~?」


「いや……なんていうか、凄い若々しいというかなんというか……」


 そう言うと彼女は「あらあら嬉しいこと言ってくれるわ~」と言った後――


「あ、そう言えば名乗り忘れてたわ~、私、雫の母の久恵 由香です~よろしくね~」


 そう自己紹介をした。


「あ、えっと……よろしくお願いします」


 そう言って俺は頭を下げる。

 そんな俺を、由香さんはじっと見ていた。


「あの、どうかしましたか?」


 そう俺が由香さんに尋ねてみると、彼女は頬に手を当ててのほほーんと言った。


「あらあら~、それにしても娘が連れてくる子がどんな子かと思ったら、結構可愛らしい子じゃない?」


 そう言って由香さんはクスクスと笑って言う。


「ちょっとお母さん‼」


「そんなに焦らなくて、大丈夫よ~娘の彼氏取ろうだなんて思ってないんだから」


 ……え、彼氏?


 そう、言われた俺と雫さんは互いに顔を見合わせた。


「……あら? あなたたち付き合ってるんじゃないの?」


「ん……いや、その……ちがっ」


「その……なんていうかその……」


 そう焦る俺たちを見て、由香さんは何かを察したのかポンッと手を打ち「くすくす」と微笑んだ。


「なるほど、そうなのね~……雫がそわそわして話すからてっきりお母さんもう付き合ってる……」


「わわわ~」


 そう言って由香さんの口を止めた雫さんは顔を真っ赤にしながら、早口で言った。

 なんか照れて焦ってるよなぁ。


「お母さん、とととと、とりあえず……その、もう部屋に行くから‼」


 そう言うと、雫さんは俺の腕を掴んだけどさ……。


「その……来て」


「あ、うん……その前に、あの靴……」


「あ、そうだった」


 そう言われて土足で上がろうとした雫さんと一緒に俺は靴を脱ぐ。

 靴をそろえようとした瞬間、俺と雫さんの肩がこつんと当たった。


「あ……」


「ん……」


 互いに目が合い、どことなく恥ずかしくなる。

 ……うぅ、由香さんがあんなこと言うから。


 そんなことを思いながら立ち上がった俺の手を、一度手を引っ込め、そして雫さんがギュッと握って引っ張った。


「……その、来て」


「うん」


 俺はそう言うと、顔を落として頷いた。

 ……おかしいな、何時もパンツを貰ってるのに、なんていうか凄いいつも以上に恥ずかしい。

 いや、恥ずかしいんじゃなくて、なんというか……


「あ、はーい。ごゆっくり~」


 そう言葉にならない思いを抱えたまま、由香さんに見送られ、俺は雫さんに手を引かれて二階に上がっていくのだった。

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