休み明けのパンツ

「………なんで、貴方知ってるの?」


 次の日、いつもの場所に呼び出され、パンツを貰った俺は雫さんに昨日の雑誌のことについて尋ねてみた。


「ん、恥ずかしい」


 そう目を伏せて雫さんは言う。


「……雫さんって、お金持ちだったんだね」


 俺がそう言うと、彼女はプイッと顔をそらして呟いた。


「別に……家そんなにお金持ちじゃないし」


「そう? ……そっか」


 そう言って俺は、スマホを操作して久恵財閥と書かれたホームページを閉じた。

 昨日、少し調べてみた結果分かったことだが、玉雫のオーナーさんは大手の会社の社長の妻だったことが分かった。


 その社長さんの名字が、久恵。

 

 お判りいただけただろうか?

 雫さんの名字は久恵。


 つまりそう言うことだ。


 それを見た時、俺はいろいろ思うことがあった。

 なんでそんな金持ちのお嬢様が普通の高校に通ってるのか、とか。いろいろと警戒しなくていいんだろうか? とか。


 ……あと、なんでそんなお嬢様が普通の高校生である俺に毎日パンツをくれるのかとか。


 いろいろと謎な事ばかりだ。


 そんなことを思い返していると、雫さんが聞き取れないほど小さく言った。


「あの……その……だった?」


「え?」


「ん……ねえ、どうだった?」


 そう雫さんに尋ねられ俺は首をひねる。

 どうって……どれだ? 

 

 雫さんがお嬢様だったことについて?

 それとも毎日パンツを渡されることについて?

 はたまた別の……どれだ?


「どう、とは?」


「ん、分かるでしょ? その、雑誌に載ってた私……どうだった?」

 

 そう言って彼女は俺の目を見た。

 それか、雑誌に載ってた雫さんについて……か。

 

「えっと、俺でいいの? 俺別に詳しかったりしないし、その……感想も薄っぺらい事しか言えないけど……」


「貴方の感想じゃなきゃ価値が無い」


 自信なく言う俺の手を雫さんが握ってきた。


「貴方の、思ったことを知りたい」


 彼女はそう言うと身体をグイッと近づけてきた。

 彼女の匂いが、髪が俺の鼻くすぐる。


 上目遣いの彼女の目が、俺の顔をしっかりととらえて離さない。

 口は小さく結ばれ、まるで不安そうな………。


「私だって、その……だから。と、とにかく、貴方の感想を教えて」


 そう言って彼女は瞳を潤ませる。

 その時俺はハッと気が付いた。

 ……もしかして雫さんも自信が無かったのか?

 自信が無いから、誰かの感想を聞きたかったのかな?

 ……たぶんそうだろうな。 


 まあ、だったらなんで俺に聞くんだって話になるけど。

 そう思った時俺は思い出し、何故彼女が俺に感想を聞いているのかが分かった。 


 ……そうか。なんで俺に聞くか分かった。


 俺達友達だからか。 

 あーそうか。


 つまりこれは、友達に自分描いた絵を見せて感想を貰ったりするみたいなものか。

 まあ、俺友達いないから全部想像だけど……い、いや。間違えた! 今の俺には雫さんっていう友達がいる!

 最高で最強に可愛い……否! 最高に好きな友達だ!


「あの……それで」


 そう頭の中で盛り上がっていた俺は、雫さんが声をかけられた。


「あ、ごめん……えっと、そうだね」


 そう言って俺は、すぐに頭の祭りを片付け、昨日の雫さんの姿を思い出す。 

 白くて清楚な彼女。

 彼女を見て、俺が思ったこと……思ったことか。


「きれい……違う、かわい……違う」


 なんていえばいいんだろうな?

 綺麗も、可愛いも、確かに思った。

 けど、俺が思ったのは、こう……もっと強い言葉だ。


 女神如きでも、天使如きでもない。

 既存の例えなどゴミ以下であり、俺の例えに使う事なんてできない。


 心がトキメキ、心臓が高鳴り、心の底から……心の底からあふれ出る、この気持ち……


「好き」


「え?」


 ……あれ? 今俺なんて言った?


 今、俺『好き』って言った?


 言った言葉を認識した瞬間、俺は、カーと顏が真っ赤になった。

 いや、俺何言ってんの⁉

 すすす、好き⁉


 いやいやいや、いや!? 確かに雫さんは好きだけど⁉

 好きですけど何か⁉


「は、い、いや雫さんえっと、これはその……雑誌に載ってた雫さんが僕好みで好きだったな……っていう。いや、それも違うか。えっとなんていうか……とにかく可愛かったなって」


 俺何言ってんだろうな⁉


「そ、そう……そう言う好きね。うんそうだと思ってた。別に、貴方も私のとこ好きだったんだなんて思ってなんてないから」


 焦っている俺と同じようにに、雫さんもまた焦りで目を泳がせていた。

 互いにてんやわんや状態になる俺と雫さん。

 ふと彼女を見ると、彼女の顔が赤くなっている。


「と、とにかく………その、感想ありがとう。きょ、今日はもうこれで……」


「あ、うん」


「そ、それじゃ」


 そう言って雫さんは振り返って歩き出す。

 何処か虚ろ虚ろしたような感じで……


「あ、雫さん前っ……」


 俺が言うのが遅くなり、彼女は柱にぶつかった。

 雫さんは少し頭をさすった後、俺の方を見てそして駆け足で走って行った。


「だ、大丈夫かな?」


 そんなことを思っていた俺は、ふと時計を見た。


「……俺も帰るか」


 それにしても、なんで雫さんあんなに慌ててたんだろ?

 まあ、なんていうか……凄い良かったけど。

 

 可愛かったし、好きだし。

 なんていうか……最高だった。


 貰ったパンツに触れ、そう思いながらさっきの雫さんを思い出して歩いていた俺は……ふと、足を止め雫さんが去って行った方を見て呟いた。


「あれ、そう言えばさっき雫さん『別に、貴方も私のこと好きだったんだなんて』……って、言った?」


 と。

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