チラ見せさせられるパンツ

「……冷静に考えると、雫さんはやりそうだよな」


 そう言ってソファに寝転がっていた俺はスマホを見た。


「……パンツ……か」


 そう言えばなんで雫さんはパンツくれるんだろうな。

 ……一回聞いた時は『馬鹿』って言われたけど。

 

「分からん」


 そう呟いた俺は起き上がると、ふと机の上に置かれている雑誌が目に入った。

 何かのファッション雑誌か。

 母さんの、いやこれは遥のかな?


 ……見てみるか。


 つい昨日雫さんの服を選んだのもあって、俺は手を取り捲ってみる。

 最近の女の子の流行とか知ってた方が……いいのか?


 雫さんは流行とかどうでもいいって感じだったんだよな。


「まあ、知らないよりは知ってた方が良いだろ」


 俺はそう思い、雑誌を見る。


「ふーん、皆可愛いよな。特にこの子とか……雫さんに似て……」


 そう言って俺はページを捲る手を止めた。


「……あれ? これ雫さんじゃね?」


 そう俺が呟いた時、二階から遥が降りて来た。


「兄ちゃん~僕の本知らない?」


「え? あ、これのことか?」


「そうそれ!」


 そう言って遥は俺の手から雑誌を取り上げた。

 

「あ、兄ちゃん見てたの?」


「まあ、ちょっとな……」


 俺はそう言って目をそらした。

 ……なんとなく、恥ずかしかった。


「むふふ~やっぱり女装するからには服も大事だからね~これ見て妄想膨らませてたのかな~」


 そう言ってニヤニヤする遥。


「……はいはい、そう言うことにしておけ」


 俺がそう言うと、遥は俺の隣に座り嬉々として話を始めた。


「実はこれって有名な下着ブランドとのコラボしてる奴なんだよね」


「下着ブランド?」


「そう、玉雫っていう……これね」


 そう言って遥はスマホを操作して玉雫のホームページらしきものを開いた。

 画面に表示される女性もの下着+下着姿のモデルの女性の姿に思わず目をそらす。


「そ、そうか……」


「玉雫ってプチプラもあって……凄い履き心地がいいんだよね」


「へぇ…………まて、履き心地が良いって? お前まさか……」


 俺がそう言うと遥は小悪魔的な笑みを浮かべて、スカートの横をちょんっと持ち上げた。

 見えるパンツの横のレース。


「にひっ、僕も愛用してるからね」


「そ、そうか」


 戸惑いながらそう言うと、遥は俺に体をこすりつけて来ると……


「ドキッとした?」

 

 そう耳元でささやいた。


「……ッ」


「ふふ、動揺してる……エッチ」


「い、いや俺は別に……と、とりあえず離れろよ」


「ふにゅ~」


 そう言って俺は、遥を引き剥がした。

 

 遥男で、俺の弟なのに……や、やばかった。

 正直めっちゃドキッとした。


「まったくぅ、兄ちゃんはレディの扱いがなってないな~そんなんじゃモ・テ・な・い・ぞ♡」


「う、うるさいな。余計なお世話だって」


 俺はそう言って顔をそらす。


「うーん……まあいいや! それより~」


 そう言って遥は俺にまた体をこすりつけて、パラパラと雑誌を捲った。


「兄ちゃんはどの服が好き~僕的にはこの子の来てる服とかいいなーって思うんだよね、この主張が小さいけど要所要所で見られる玉雫の特徴が可愛くて~」


 そう言って遥が指さしたのは、雫さんだった。

 いや、正確には雫さん? っぽいモデルさん……だと思う。

 いいや、やっぱりコレ雫さんでは? んなわけないよな。


「しずっ……」


「あれ? 兄ちゃんどうしたの?」


 思わず反応してしまった俺の顔を、遥が覗き込んできた。


「い、いや……何でもない」


「ふーんそう? まあいっか。実はさ、この子って玉雫のオーナーさんの娘さんなんだよね」


「……そうなのか?」

 

 そう言って俺は穴が開くようにモデルさんを見る。

 ……有名なブランドの娘さん、か。


 もしかして雫さんって……お金持ちのお嬢様?


 そう思ってふと俺は彼女のことを振り返る。

 普通の高校に通う女子高生。

 教室の高根の花で、毎日のように告白されている。

 そして……何故か俺に毎日パンツを渡す。


 それくらいだ。

 ……よく考えたら俺って雫さんの事あんまり知らないんだな。

 ふとそんなことに気が付いた。


 ――いや今はそれはいいか。今は雫さんがお嬢様かどうかってことだ。

 そう思って振り返るが……お嬢様らしいところはそんなにない。

 

 下着ブランドのお嬢様ってことだから、強いて言えば……本当に強いて言えば! 

 パンツを渡すのがお嬢様っぽいのかな~……なーんて、んなわけないか。


 ――まあ、地球上に似た顔の人が三人はいるって話だし、きっとこの子もそう言う類の別人なんだろうな。


 ……そう俺が結論を出した瞬間。 


「あ、因みに~……玉雫の名前の由来って娘さんの名前なんだって~」


 遥そう言われ俺は悟った……雫さんだなこの子、と。

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