パンツを渡すのは清楚?

 彼女に引っ張られやってきたのは赤い背景に白い文字が書かれた、カジュアルウェアのブランドショップだった。


「ここが、ユークロ……始めてきた」


「そうなんだ」


「ん……いつもは別の所にしか行かないから」

 

 そう言って腕を組んでユークロの外観を眺めていると、雫さんは俺達の組まれている腕を見た。


「ところで、ねえ」


「え、なに?」


「……いつまで腕組んでるの?」


 そう言って彼女はきょとんと首をかしげてきたが、いやいや、これ俺が今掴んでるんじゃないんだが?

 雫さんにがっちりホールドされてるんだけど?


「え、あの……雫さんがずっと組んでるんだけど」


 俺がそう彼女に伝えると、雫さんは「え?」ときょとんとした顔になった。


「えっ……それ本当?」


「うん」


「マ・ジ・か」

 

 そう言うと彼女は、腕を外した。

 小さくゆっくりと、たまにちょこんと伸びながら彼女の手は離れていく。


 離れていく手を見て、少し落ち着いた。

 いや、少しどころではない。

 絶望に打ちひしがれる。


 寂しいような残念なような。やっぱり寂しくて残念だ。

 腕に残る彼女の体温と感触を感じて俺の心はブルーに染まった。

 

「……あ、う……ごめんなさい」


「いや……」


「やっぱり、私なんかが貴方に触れるの……嫌だよね」


 そう彼女はズーンと落ち込んだ。


「え、いや……そんなことないよ、むしろ……」

 

 むしろありがとうございました。

 そう言いかけて言葉を止める。

 いや、むしろありがとうございましたってなんだよ。


 なんか普通に気持ち悪い発言になるだろうが。


「むしろ……?」


 そう言って俺が言葉に難儀していると、彼女は俺の言葉の続きを求めてきた。

 え、あ……どうしよ。えっと……


「……むしろ、嬉しかった、かな?」


「そう……」


 ヤバい怒らせた?

 そう思っていたら、彼女は俺の瞳を見つめて……そして、しどろもどろになってねだってきた。

 

「……あの」


 そう言って彼女は何処か目線を泳がせながらぽつりとつぶやいた。


「ん……ねえ、その……やっぱり手つないでいい」


「え、うん」


 そう答えると彼女は、そっと俺の手に触れた。

 ちょこんと、指先だけ……何処か恥ずかしそうに彼女は触れてきた。


 しっとりと、柔らかい手。

 ふにふにで、ふわふわで……ぽかぽかだ。


 触れてるだけで心臓がバクバクと音を立てまくる。


「ん、なんか凄い……こそばゆい」


「……こそばゆい?」


「ん……こう、なんていうか……ちょっと恥ずかしい」


 そう言って彼女はうつむき気味にそう言った。


「え、恥ずかしいの?」


「ん……ちょっと」


 よく見たら彼女の耳は赤くなってる。

 ……本当に、恥ずかしがってる?


 いや、まあ俺も俺で恥ずかしいような、嬉しいような狭間で揺れ動いている訳なんだが……

 けど、雫さん……毎日パンツ渡してくるんだよな。


 手をつなぐのを恥ずかしがるって……


「ん……何?」


「い、いや……なんていうか……毎日パンツくれるから……なんていうか」


 俺がそう言うと彼女は「はわわ……」と口を動かし……


「やっぱり羞恥心は……人並に持ってるし」


「え? そうなの?」


「何? 私の事痴女だとでも思ってるの?」


 今までの事を考えたら冷静に傍から見たら痴女なんじゃ……ありがたいけど。

 俺がそう思っていると、雫さんは何かを感じたのか頬を膨らませた。


「……むぅ、私清楚系なのに」


「清楚、かなぁ?」


「何?」


 そう言って彼女は不満そうに俺のこと見て来た。

 ちょっとした圧も感じ……なんか抓ってません?

 ……気持ち的には最高にハッピーだから問題ないけど。 


「……何でもないです」


「ん、それでよし」


 けど、パンツを渡すのって……やっぱり清楚かな? 助かるけど。

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