服はパンツ以外こだわらない主義


 公園を歩き続け、歩き続け……ただただ歩き続け、現在三週目。

 ……あれ? ずっと同じところグルグル回ってるよな?


「あ、あのさ……なんかずっと同じところグルグル回ってるけど……なんか用事あるんじゃなかったの?」


 俺がそう言うと、彼女は……少しだけ黙った後……


「え? 私ずっと同じところグルグル回ってたの?」


 そう言って目を見開いて俺の事を見た。

 きょとんと


「……うん」


「……そう」


 そう言って彼女は耳を赤く染めて俯いた。

 あ……好き。


「あ、あの……それで今日の用事って何なの?」


 俺は彼女に見惚れつつ、そう尋ねた。

 すると彼女は「あ」と小さく呟いたあと……


「……ごめん、特に用事ない」


 目をそらしてそう言った。


「え?」


 用事が無い……え、用事が無くて俺の事誘ったの?

 どうしてなんだ?

 俺がそう混乱していると……彼女はふわりと首を傾げた。


「用事が無きゃ……だめ?」


 そう言って彼女は俺の顔を見た。

 彼女の顔は赤く、瞳は何故かウルウルと揺らいでいる。

 

 そんな彼女に見られたら……首を横に触れるわけない。

 ってか、そもそも駄目なわけないんだよ。

 駄目という選択肢は始めから俺の選択肢には存在していないんだ。

 

 だから、おのずと答えは一つだけ。


「……駄目じゃないけど」


「そう、ならいいでしょ?」


「……うん」


 俺はタダ頷くしかなかった。

 だって、ただ彼女といるだけで幸せだから。


 また訪れる気まずい沈黙。

 俺はふと彼女をチラリと見た。


 ……そう言えば、今日も雫さんって制服なんだよな。

 お洒落とか……しないのかな?


「なに?」


「い、いや……雫さんって休みの日でも制服着てるんだなって」


 俺がそう言うと彼女は口をとがらせてぽつりとつぶやいた。


「……私お洒落な服なんてわからないし。それにパンツ以外こだわらない主義だし」


「え? なんか言った?」


「……ん、何でもない」


 そう言って彼女は俺の事を見た。


「お洒落……した方がいい?」


 そう尋ねられ、俺は困る。

 いや困る。

 困りすぎる。

 どう言えばいいのか。


「……えっと」


「……やっぱりした方がいいんだね」


 俺が悩んでいると、彼女はスッと目線をそらした。

 や、ヤバイ……なんか言わないと。


 そのままの君でも素敵だよ? とか? いや、ここはおしゃれした方が良いって言った方が良いのか?


 ……どうすればいいんだ?


「ん、決めた。服買いに行く」


 そう俺が悩んでいると彼女はそう言って、スマホを取り出した。


「え、今から?」


「ん、そう」


 え、待って……女の子と一緒に服買いに行くって……えっと、それって普通の事なのか?


 もちろん、男が女の子と一緒に買い物に行くことはあるかもしれない。だけどそれってさ、二人の関係が恋人とか……それ以上とか。少なくとも友達としての男と一緒に行く行為ではないような?


「ん、この近くだと……一番近いのここ」


 そう言って彼女はスマホの地図を見ながら歩き出した。

 もちろん、腕を掴まれてる俺も一緒だ。


 ……よく考えたらこれも謎だよな。

 なんていうか、距離が近すぎるような。


 そう、意識すると途端になんでか無性に恥ずかしくなってきた。

 もちろんうれしい事ではあることは確かだが、他人の視線という物から見ると、きっと俺達って……


「あ、あの……雫さん」


「ん? 何?」


 そう言って彼女は首を傾げた。

 そんな彼女が可愛くて、可愛い以上に好きすぎて……俺は何を言おうとしたのか、それを忘れてしまった。


「……付き合ってくれるでしょ? 私の用事に」


「え、まあ……」


「……嫌?」


「嫌じゃないです」


 嫌なわけが無いんだよな。

 むしろ断る理由なんてない。


 そうして俺たちは、腕を絡ませたまま服屋へと歩いていくのだった。


 ……あれ? そう言えば雫さんに何か言おうとしてたけど……なんだったっけな?

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