パンツをあげるのはあなただけ。
次の日俺は、雫さんと前日に打合せしていた待ち合わせ場所に向かっていた。
「ヤバいな、色々してたら……時間ギリギリになっちまった」
……お洒落かどうかなんてわからない………が、とりあえずネットで調べた、精一杯のお洒落コーデだ。
「……雫さん、今日どんな服で来るんだろうな?」
白いワンピースとか? もしかしたら地雷系女子みたいな服で来るのかもしれない。
「楽しみだな」
そう思って待ち合わせ場所に行くと、彼女はもうすでにそこにいた。
学校近くの公園の中にある小さな噴水の近くが、俺達の待ち合わせ場所だ。
休みで少しにぎわうその噴水の近くに、彼女はいた。
白銀の髪をポニーテールで括り、上にはパーカー……中は制服という、何時もとあまり変わらない姿で。
彼女は、いつもの何を考えているか分からない……けど、誰もかれもを惹きつけるその愛らしい無表情な顔で俯きつつスマホをいじっている。
そして……
「……クラスで見た時から気になってたんだよね、ねえ取り合えずLINE交換しない?」
なんか、絡まれとる。
待ち合わせ場所にいた彼女は、さわやかイケメンの男に絡まれていた。
あれ? よく見たらアイツって、クラスでも有名なリアルハーレム王、晴間じゃねえか?
女好きって聞いてたけど、まさか……雫さんにも手を出そうとしてるのか?
「大丈夫、俺の彼女たちも君と仲良くするの許可してくれるはずだからさ」
そう言って彼女に晴間は腕を回した。
あいつっ……そう、思わず拳に力が入るが……雫さんの様子を見てぴたりと足が止まった。
「……あ」
「お、交換してくれる気になった? それじゃ早速……」
彼女は、顔を上げ……何処か嬉しそうに顔頬を緩めていたのだ。
……そうだよな。
雫さんもやっぱ晴間みたいなイケメンで明るい陽キャが好きなんだよな。
こんな普通で、何も特技も強みもない俺なんか……彼女の眼中になかったんだろ……帰ろう。
そう思って肩を落として引き返そうとしていた時だった。
「……来た」
「あ、ちょっと……来たってどういう……」
そう言うと彼女はスッと立ち上がって、俺の方へと近づいてくる、そして……
「ん、一緒に行こ? ここ煩いハエがたかってるから」
そう言って彼女は俺の腕に腕を絡ませてきた。
「え、あ……うん」
煩いハエって、どういうことだ?
そう思いつつ、俺は雫さんに引っ張られていく。
柔らかい、甘い……お日様みたいな彼女の匂いが鼻に触れ……
服越しに肌が触れている腕からは暖かい彼女の体温が伝わってくる。
ふと、さっきまで彼女がはなしていた晴間の事が気になり振り返ると、奴は呆然とした顔で立っていた。
「あ……あの、晴間のこといいの?」
「晴間? ……あ、あの人のこと」
「なんか、肩に手を回されて……その、雫さん嬉しそうな顔してたけど」
俺がそう尋ねると彼女は吐き捨てるようにつぶやいた。
「……質問。気にならない程度の埃が肩についててどう思う?」
「え、嫌……別に何とも思わないけど……」
「……ん、それと同じこと……嬉しそうな顔してたのは……その」
そう言った後、彼女の声が突然小さくなった。
「……あなたが来たから」
「え?」
「ん、何でもない」
そう言って彼女は、プイっと顔をそらした。
少しの静寂。
「ねえ……」
そう言って、何処かモジモジしながら雫さんが俺に聞いてきた。
「……もし……あなたが望むなら……私が他の人に触れられてるのが嫌なら、あなた以外の男に体触らせないように……するけど?」
本当は、彼女が俺以外に触れてほしくなんてないけど……でも、そんな理不尽なことなんて……それに、そもそも俺に、そんな権利なんてあるわけないし。
「……俺に聞かれても……その」
そう俺が言うと彼女は静かに呟いた。
「そう……そうなの」
そう言って彼女は顔を伏せた。
きまづい沈黙が俺達の間を支配する。
……う、なんか……なんか会話とかないのか?
会話を探そうと、チラリと改めて彼女を見る。
俺なんかが付き合えるわけない。至高の美少女。
やっぱり、俺なんかより……あいつみたいなイケメンの方が似合って……
そう俺が思っていると、バチッと彼女と目が合った。
目と目が合う、瞬間……やっぱり好きだ。
雫さんは、雫は……あいつなんかに渡さない。渡したくない、だけど……
そう弱気になってしまう、俺の心を見透かしたように彼女はジト目を向けた。
「ねえ、もしかして貴方私が……あいつの事好きだなんて思ってる?」
「え、いや……その」
そう言ってしどろもどろになる俺を見て、彼女は小さくため息をつき………ちょいちょいとまるで招き猫のように手を動かした。
「ん……しゃがんで」
「え? あ、はい……」
そう言われるままに俺はしゃがむが……いったい何を。
しゃがんでって言われても、何を……
「……パンツをあげるのは……あなただけなんだから」
そう彼女は俺の耳元でささやきながら、ちらりとスカートを捲って見せた。
よく見えないが、黒色の……ひもで結ばれたパンツ。
彼女の温かい息が耳に当たり、こそばゆさとパンツで……心の底から来る何かで顔が赤くなる。
……これが、天国か。
「……そう言うことだから」
そう言って耳を赤くした彼女は俺の耳元から離れたのだった。
どういうことか分からなかったが……けど、今俺が幸せなのはわかった。
……やっぱり俺は、雫さんが好きだ。
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