幼児パンツのヤンキー少女

 次の日、今日も今日とて校舎裏にパンツを貰いに行こうとしていたのだが……


「面、貸してもらうぞ」


 何故か今俺は……ヤンキーの女の子に絡まれていた。

 威圧するための派手な金色の髪色、耳に付けた派手なピアスと、着崩した制服。


「おい」


「は……はい、何でしょう?」


「……お前が雫の彼氏ってやつか?」


「え? いや……」


「もっとはっきり喋りやがれ、このボケなすっ‼」


 そう言って彼女は精一杯圧をかけてくる。

 けど……


「……何見下してやがんだよ」


「いや、見下してるんじゃなくて……」


「あ⁉ じゃあなんでそんな上から目線なんだよっ‼」


 いや、その……だって、身長差30cm位ありますし。

 俺は、ちょこんと仁王立ちする彼女を見てそう思った。


 彼女の名前は、四宮 美琴。

 彼女は雫さんの親友であり、学校で有名なヤンキーだった。

 

 ヤンキーとして有名だが……悪名が轟いているわけではない。


 じゃあどうして有名なのか?

 それは彼女のあまりにも愛らしいほどのポンコツぶりにあった。


 走る速度は亀のごとし、放つパンチは綿の様。

 サッカー野球、何でも空振り。

 威嚇の姿は、まるでアリクイ………


 礼儀正しき、非行(笑)少女。


 136cmという低身長もあって、彼女はみんなから愛されるマスコット的な子になっていた……本人は気が付いていないみたいだが。


「……だから、おいっ! 聞いてんのかっ!」


 そう言って出る威嚇。

 ……これが、噂のアリクイの威嚇か。これは確かに、マスコット的に愛されるのも納得だな。


「てめぇ、まさか……オレの怖さにビビってるのか。ほほーん、そうかそうかー」


 そう言って彼女は口元をニマニマと緩めた。


 ……いや、まったく怖がってないけど……けど、まあ言わなくてもいいか。


「それで? テメェは、雫の何だ?」


「友達ですけど……」


「そうか、友達……え、友達?」


 そう言って彼女は俺の事を二度見した後……ブツブツと呟いた。


「(え、友達? ……え? 雫ちゃん彼氏ができたって話してたよな? え? ん? え?)」


 なんて言っていたような気がしたが、きっと気のせいだろう。


「と、とりあえず……お前、雫の友達なんだな?」


「え、あ……うん。あの……もしかして、雫さんって彼氏とかいるの?」


 俺はふとそんなことを彼女に訪ねていた。

 心配になったのだ。

 いや、彼氏でも何でもない俺が心配するというのも……なんというかおかしな話だが……だが、心配なのだ。

 

 もしかして、雫さんにはもう彼氏という彼女にとって特別な存在がいるんじゃないかと。


 だから……思わず聞いてしまっていたのだ。


「いや、いない……っていうかお前以外にアイツが告白するわけねえだろ」


 ドキドキしながら返答を彼女の言葉を待っていたら、彼女はポンッとまるで常識を語るかのようにそう言った。


「え? マジで?」


「……あ、やべ」


 彼女はそう言って口を押えて、あわわ……と、てんぱりだした。


「とととと、とりあえず今の無し、今の無しな? 聞いてないな?」


「え?」


「いいな、聞いてないことにしてくれ……頼む。今の話を聞いてないことにしてくれないと、オレが雫に締められちまう……」


「あ、うん」


 え? 雫さんが締めるの?


「と、とりあえずそう言うことだからっ!」


 どういうことだ?


 そう俺が混乱していると彼女は、そのまま焦ったように走って俺の前から去っていく。


 ふらふらの足取りで、亀のような速度。


 ……あれ、歩いた方が早いんじゃねえかな?

 っていうかなんて言うか、凄い転びそう……


 そう心配していると、彼女はぴたりと立ち止まり、俺の方を振り返った。


「……いいか! 言うなよ、絶対言うなよ⁉ これフリじゃねえからなっ! あ、後今日オレがお前に詰め寄ったことも、黙ってろよっ! じゃねえと……ひでぶっ!」


 そう、念を押して再度走り出そうとした美琴さんは……顔面からずっこけた。

 流石運動音痴……じゃなくて。


「……あ、あの大丈……あ」


 そう声をかけようとした俺は、見てしまった。

 彼女のスカートがめくれあがっているのを。

 そしてその中に秘匿されていた、彼女のパンツを。


 あれは、あれだ……女児用パンツだ。

 女の子ヒーローがプリントされてる……女児用パンツだ。


 俺が思わず固まっていると、彼女は無様な格好で俺の事を見て笑った。


「はは、まさかオレのパンツが見えるって期待してたのか? 残念だったな! 対策済みだ! あーはっはっはっは!」


 そう言って立ち上がりながら、笑う彼女だが……見えてる、見えてましたよ。


「あ、あの……」


「ん? なんだ?」


「……パンツ見えてる」


 そう言うと彼女は、きょとんとした顔をした後、自分のスカートの中を覗き込んだ。


「……あ」


「ね?」


 そう言うと彼女の顔がまるでトマトのように真っ赤に染まり……。


「何見てんじゃこの糞ボケがああああ‼」


 そう言って彼女は泣き叫びながら俺の前から去ったのだった。

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