パンツを使って欲しい。

 それから次の日も、次の日も……休みの日以外俺はパンツを渡され続けられた。


「……今日のパンツ」


「あ、どうも」


 そう言って俺は今日のパンツを受領する……ちょっと待てや。

 

 なんか毎日渡され続けられて感覚マヒしてきたけど。これおかしい事だよなっ⁉


「どうしたの?」


「いや、なんていうか……毎日パンツ貰ってるけどこれっておかしいよなって」


「そう?」


 そう言って 何もおかしいことが無いよねっていうように彼女は首をかしげる。


 ……これ俺がおかしいのかな?


 いや、おかしくないよな。うん、俺おかしくない……


「……嫌?」


「え?」


「私のパンツ……嫌?」


 そうウルウルと目に涙を浮かべて彼女は訪ねて来た。


「え、あ……そのー……イヤジャナイデス」


「そう、ならいいでしょ?」


「そうですね」


 ……いや、違う違う。

 なんでそうですね何だよっ⁉ 


 ……まあ、正直嬉しいけど。

 うれしいですけどっ‼ 何かもんだいでもッ⁉


 あれ? そうなると、やっぱり雫さんの言う通り可笑しなことでもない?


 あれれーおかしいぞー?


「ねえ……その」


 そんなことを考えていると、彼女はモジモジとしながら声をかけてきた。


「え? 何?」


「ん、そろそろ私と話すのに慣れてきてくれた?」


「あ、そう言えば……」


 そう言われてハッとする。

 そう言えば始めは雫さんと話すとき完全に頭が真っ白になってしどろもどろになってたけど……今はそうでもないな?


「……慣れて来たかも?」


「そう……うれしい」


 そう言うと彼女はクスッと笑った。

 

 始めてみる彼女の笑顔。

 初めて触れる彼女の笑い声。

 静かに口元に当たる指先。 


 か、かわ……駄目だ。

 駄目だ、言葉が……押し流されてしまう。


 可愛い? いや違う。なんだ? 可愛い如き低次元の言葉じゃ表せない。

 これは、これは……可愛いを越えた………好き。


「……どうしたの?」


「ひゃっ」


 目の前が見えなくなっていた俺は彼女から声を掛けられ、現実という名の天国へと意識が引き戻された。

 戻された瞬間鼻につく、女の子の香り。熱。


 目の前に広がる、雫さんの顔絶景


「い、いや……なんでも」


「……そう」


 そう言うと彼女は顔を引いた。

 ……ヤバい、やばかった。


 少し冷静になった頭で彼女を見ると、何故か少し顔が赤くなっている。


「……ん」


「な、なに?」


 彼女は、俺の顔を見た。


「ねえ……私たち、仲良くなったよね?」


「え、あ……」


「もう、友達……でいいよね?」


「え、友達……」


 友達? なのか……?


「友達じゃないの?」


 何かにつけて否定していた俺の脳内は、雫さんに悲しそうに尋ねられた瞬間すぐさま答えを出した。


「友達です。ええ、友達ですともっ‼」


 好きな子が友達って言ってくれたんだぞ?

 パンツ渡されてるだけだーとか、教室で話したことないーとか……そんなのかんけえねえ!


 俺と、雫さんは友達である。それこそが事実なのだ。


「ん、嬉しい」


 そう言って彼女は照れつつ笑顔を見せた。

 あ、駄目だ。ダメだ……俺の脳が、溶ける。


「ねえ、友達になったから……聞きたいことがある」


「……え、なに?」


「……渡したパンツって何に使ってる?」


 ……え? あ、パンツパンツね?

 えっと、渡されたパンツパンツ、パンツの使い道かー……


「洗って、すぐに返せるように今も持ってるけど……」


 俺がそう伝えると彼女は何処か呆然とし、そして…下を向いた。

 え? あれ? なんか俺、やっちゃった?


 そう思っていると彼女は――


「……ってよ」


「へ?」


 今雫さん何か言った?

 そう首を傾げると雫さんの口が開いた。


「使ってよ……私、わざわざ君にパンツを渡してるんだよ? こんな超絶美少女のパンツを渡してるんだよ? 一日中履きっぱなしで、エッチな匂い染みついたパンツ渡してるんだよ? ねえ……使ってよ」


 そう雫さんは虚ろな目をしてそう言った。 

 え? え?


 今、何が起こった?


 雫さんは、清楚で静かで、クールな透明感のある美少女……あれ~?

 思わず脳内がフリーズする。


 そんな俺の目の前で、冷静さを取り戻した雫さんは小さくコホンと咳払いした。

 

「……こほん。失礼」


「え、あ……うん? ん?」


 そう言って、訪れる静寂。

 どれほどだろう。たぶん10秒もたってないが……やけに長く感じられる時間だった。


「……何も見なかった。いいね?」


「え? いや……」


「……いいね?」


 そう言って彼女に笑顔で圧をかけられ俺は小さく頷いた。

 彼女はそんな俺を見て何時ものように「それじゃ」と言って静かに去っていく。


 校舎裏に残された俺の間を一陣の風が吹き抜ける。

 風に残る彼女の残り香を嗅いで……

 

「………………好きだ」


 そう俺は渡されたパンツを握りしめていたのだった。 

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