差し出される黒パンツ

 靴に履き替え、俺は校舎裏へと向かっていた。

 しかし、一体誰だ? この手紙を送りつけたの。


 毎度毎度言うが、俺は普通の男だ。魅力なんてない、ゲームで言うところのそこら辺にいモブ学生だ。


 そんな男にラブレターを出すなんていったいどんな……それに。


「一体誰だよ、こんなパンツ入れて……俺なんか脅してさ……」


 わざわざパンツを入れて呼ぶなんて、どれだけビッチな人間なんだ?

 少なくとも、雫さんみたいなクールで清楚そうな人間ではないだろうな。

 そう思いながら校舎裏へとたどり着いた俺は、ため息をついて周りを見渡した。


「ここでいいだろ? しかし……校舎裏なんてやけに抽象的な場所の指定だよな……」


 なんて思っていたら、誰かが俺の背中を叩いた。


「……⁉」


 誰だ?

 ビクッと体を揺らして振り返った俺は、俺は……ちょっと待って、脳みそが混乱してるんだけど??


「ん、来てくれた」

「く、久恵さん」


 俺が振り返ったそこには、雫さんがいた。


「……ちゃんと、手紙読んでくれたんだ」


 俺が呆気に取られていると彼女はそう言った。


「え? 手紙って……これ、久恵さんが出したの?」


「ん、そう」


 そう言って彼女は頷く。

 

 ……マ・ジ・カ。え? マジで?


「……嘘じゃなくて?」


「なんで嘘つかなきゃいけないの?」


「……そうだよ…ね?」


 やっべぇ、これ本当にどういう事?

 っていうか、手紙を出したのが雫さんってことは……中に入ってたパンツって……まさかかかかかかかか。


 あまりの衝撃的事実に俺の頭がパンクしかけていると、雫さんは俺の手に持っていた封筒を指さした。


「ん……それ返して」


「え、あ……はい」


 そう言って封筒を返す。


「ちがう……中身だけでいい」


「え、なかみ……中身?」


 これか。

 俺が封筒から白パンツを取り出すと、彼女はそのパンツを奪い取るようにしてひったくった。


「……まだこれ、綺麗な奴だから」


 そう言って彼女は、白パンツをポケットに入れると、今はいているパンツを脱ぎだした。


「え⁉ ちょ、何やってんの⁉」

「ん、しずかに。誰かに見られたら困るでしょ? ……はい」


 そう言って、彼女はパンツを脱ぐと俺に見せつけるように開いて見せてきた。

 は?


「これ、あげる……」

「はい?」


 そう言って彼女は、俺にさっきまで履いていた黒パンツを差し出してくる。


 ……ん?

 

 どういうことだってばよ。

 

 これ、あげる。

 これ……あげる?


 なんだ? 何かの隠語なのか?


 ……教えてくれ雫さん。ゼロは俺に何も言ってはくれない。教えてくれ雫さん。


 そう、俺が呆気に取られていると、彼女は何処か満足げな顔で去っていく。


「あ、ちょっと……」


 そう俺が引き留めようと声をかけると、彼女は振り返り、小さく笑った。

 まるで天使のような、まるで女神のような……いや、そんな低俗な物に例えることなんてできない。


 可愛い。とにかく可愛い。可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い………………




 …………好きだ。


「ん、それじゃあまた明日」


「え、あ……うん。また明日」


 そう言って彼女は小さく手を振って歩いていく。

 彼女がいなくなった校舎裏で、俺は一人ただただ呆気に取られていた。


 まるで、夢のような。


「……好きだ」


 そうつぶやいた時、俺はハッと意識を取り戻した。

 

「俺は、今いったい……あ」


 そう言って思わず顔に手を当てた時、鼻の先に彼女のパンツが当たった。

 女の子の匂いがする、エッチな匂いがついた……彼女の、パンツ……。


 これ、さっきまで雫さんの……その、大事な場所を隠してたんだよな?


「……これ、どうしよう」


 そうそう思いつつ、残された俺は、まだ温かい黒パンツを握ってただただ、困惑を極めていたのだった。

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