第2話 癒されたい心理療法士

彼女がきたのはやっと暑さ和らいだ九月後半。予約は90分。

入ってきた時から不機嫌な様子がよくわかった。

そして、店内を見まわし、店主の私を頭のてっぺんから足の先まで、品定めをするように見ていた。こう言う視線はフランスではよくされるのですっかり慣れっこである。


私はカウンセリング席に案内し、基本的な情報、どこか痛いところがあるか、気になっているところはあるか、過去の手術や病気の履歴などを記入してもらう。

さらに施術後に今日行った施術内容、問題点、とアドバイスを行う。

 彼女は心理療法士で、スポーツウーマンで普段は週3で泳ぎに行って、週一でダンスのクラスに行っているが、足が痛くてそれが邪魔なので九十分のコースで予約したとのこと。

 彼女の話し方から、本当の問題は違うところにあると理解した。


「最初に身体全体のバランスを見ていくので、うつ伏せでお待ちください。では、キャビンにご案内いたします。」


マッサージテーブルの上でうつ伏せになった彼女に、昨日はよく寝れましたか?と質問した。

すると彼女は早口で話し出した。


「今は両親が飼いはじめた仔犬を預かっていて、彼がともかくなにも教育を受けていない状態なのであちこちにトイレをし、あちこちを齧りまくり、朝四時には私を起こして、ここ二週間全然寝られていないの。

昨日はダンスに行ったけど、足の中指の付け根が痛くてそれがもう邪魔でしょうがなかった。

私は両親に子犬を飼うのを反対したのよ、でも、彼らはきかなかった。隣人は挨拶すらしないし、上に住む階の家族は何度言ってもハイヒールで歩いたり、椅子を引く音をやめない。もう六年もつづいてる。そもそも家の中を靴で歩くのは非衛生すぎる。息子はもういい大人なのにパスタを作って、鍋をそのままにするからこびりついたパスタを取るのに苦労する …Etc….」


 ふむふむ…彼女の仕事は誰かの話を聞く仕事。彼女は吐き出す場所を探している。

 それが理由できた足の痛みは、関節が少しずれていたから治して、あとは優しめの指圧と、全体的に身体を触り、リラックスを目的にツボとほぐしをして、あとは、相槌に専念した。彼女は九十分間息継ぎをする間もなく話し続けた。


キャビンを出てきた彼女は

「あーなんて気持ちよかったか。ありがとう!九十分間は子犬の事を忘れられた!」


それから毎週いらっしゃる。もちろん、施術時間中はほとんどおしゃべりの時間。私の事を知りたがったり、時に日本の問題点を指摘したり。時に私のカウンセリングをする立場になる時もある、その時はその役に徹する。今日は心理療法士の気分。そして彼女はやっぱり最後に必ず言う


「あー気持ちよかった!ありがとう!」


      心理療法士のカルテ

常に他人の話を聞く事が仕事の為、自分のストレスを吐き出す場が必要。施術内はともかくたくさん話しすること。

考えすぎにより頭皮が堅い。

他人の出す音に敏感。


自然療法処方箋

・パッションフラワーのハーブティー

小さじ一杯のパッションフラワーに一カップの沸騰したお湯を注ぐ

五分間蒸らし、きれいに濾す

一日数回(日中は各1杯づつ、就寝前は一〜二杯)服用するストレスを感じた時に飲む。


・スイートオレンジの精油

就寝前に寝室をディフューズ、枕元に精油を数滴垂らしたコットンを置いて寝る、または手首に塗布する。


・頭皮マッサージ

毎朝髪の毛をブラシで良く梳かす。

眉頭を摘み、ほぐす。


現在、彼女の最大のストレスになっているエネルギー溢れる仔犬にはラベンダーフィンのアロマウォーターを両手に馴染ませた手で背中とお腹を寝る前にマッサージする。


おすすめレシピ

パリジェンヌ風簡単レッドキヌアボウル

・レッドキヌア … 一〇〇グラム

・アボカド … 一個

・トマト … 一個  

・黄パプリカ 赤パプリカ … 一個

・オイル漬けサーディン … 一缶

・スウィートコーン … 五十グラム

・ミックスナッツ … 五十グラム

・パクチー … 好きなだけ

・醤油 … 大さじ一杯

・オリーブオイル … 大さじ二杯

・レモン汁 … 半分 

・塩胡椒 … お好みで


一、レッドキヌアは表示通りに茹でる。

二、アボカド、トマト、二種のアボカドを食べやすい大きさにカットする。

三、パクチーはみじん切りにする。

四、ボウルにオリーブオイル、醤油、レモン汁、みじん切りにしたパクチーを入れ混ぜる。

五、茹で上がったレッドキヌア 、二でカットした食材、油を切ったオイル漬けサーディン、スウィートコーンを三のボウルに入れて混ぜ合わせる。

六、最後にミックスナッツを散らし、塩胡椒で味を整えて完成。


所要時間十五分、忙しくて時間がないパリジャンが愛して病まない、手っ取り早く栄養を取れて身体に優しいキヌアボウル。そこに日本の心で今やパリでもスーパーで手に入る醤油の発酵の力でストレスにより傷ついた消化器官もカバー。

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