鳴かず飛ばず

古野ジョン

鳴かず飛ばず

 彼女はいつも泣いていた。

自らの運命を恨み、生を授けたこの世界を呪った。

彼女の口癖は、「鳥になりたい」だった。

学校の屋上で地面を見つめては、そう呟いていた。


 俺は、彼女が何を願うのか察していた。

けど、それを止めようとは思わなかった。

そんな権利、俺には無いと思ったから。

何より彼女にとっては、自分で決められる唯一の選択肢だったから。


 彼女はいつも泣いていた。

自らの家を恨み、生を授けた両親を呪った。

彼女の口癖は、「鳥になりたい」だった。

校庭を飛び交う鳩を見つめては、そう呟いていた。


 俺は、彼女が何を求めるのか察していた。

けど、それを叶えようとは思わなかった。

そんな度胸、俺には無いと思ったから。

自由に飛び立つ彼女を、見送ることなんて出来なかったから。


 止めはしないが、送り出しもしない。

優柔不断な自分に、やきもきとしていた。


 だがある日、俺は翼を見た。

屋上に上がると、白い翼を揺らす彼女がいた。

その翼はどうしたの。

分からない。神様がくれたのかしら。

彼女はそう言って、微笑んだ。


 鳥になれたんだ。

俺は自分のことのように喜んだ。

この屋上から、彼女は飛び立つ。

もう泣くことはない。

墜ちることなく、その翼で飛んでいく。


 彼女も微笑んだ。

愛おしく、自らの翼を眺めた。

けど、俺の喜びとはどこか距離を置いていた。


 彼女は屋上の端に立った。

ありがとう。けど、私は鳥になれたわけじゃない。

そう言って、翼を広げた。

人間が翼を持ったって、太陽に溶かされちゃうのよ。


 待って。

俺がそう言う前に、彼女は飛び立った。

高く高く、天まで届くくらいに。

太陽にだって、手が届きそうなくらいに。


 彼女はもう泣かない。そして、飛ぶこともない。

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鳴かず飛ばず 古野ジョン @johnfuruno

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