第14話 異世界ドア奪われました

 ――今は、気づかないことにしよう。

 今、恋とか愛とか考えてたら、恥ずかしくてまともに顔を見られなくなる。

 

「そういえばさ、なんであんな形で救出したわけ?」


 声がうわずってないかドキドキしながら、私は一番聞くべきことを聞いた。


「ひまりにはピンと来ないと思うけどさ、普通、上層部のアジトまで連れて行かれたら、二度と帰って来れねーの」

「え、そなの?」

「やつらは自分たちの居場所を知られないように隠れ住んでいる。そこに連れて行かれる人間は、死刑か、実験体にされるか、幽閉されるかなんだ。だから俺が使うセキュリティとは逆で、一度入ったら出られない仕組みになっている」


 アリジゴクみたいなセキュリティだな。

 そういえば、私たちも目隠しされて連れていかれた。ジャックさんのボスも画面越しだったし、よほど居場所を知られたくないんだろう。


「だから、うちのセキュリティが破られた時に備えて、スタッフには防犯システムを鳴らすように言っていた。ひまりには言うの忘れてたけど。

 でも、あんたなら大丈夫だろうと踏んで、このまま飛行士のフリして乗り込んで、敵地を調べるつもりだった。ヤバくなったら、あんたが持っている異世界ドアで逃げる算段だったし」


 けど、とマモルくんは言う。



「それ持ってんのは、あんたじゃなくて、サーヤなんだろ」


 操縦席から盗聴してた、とマモルくん。


 …………あ。

 ジャックさんに迫られて、咄嗟に嘘をついたことを思い出す。


「だから作戦変更して、飛行機を爆破させて、ジャックを眠らせたんだよ。そこからジャックの懐から鍵をとって、後はあんたの知ってる通りだ」

 

 パラシュートが飛行士とジャックの分だけだったのが痛かったな、と呟くマモルくんに、私の頭は真っ白になった。


 つまり、なに? 私があの時嘘をついたせいで、マモルくんはパラシュートで海にダイブ! を決行したってこと?


 じゃああの時、本当のことを言っていたら、パラシュートでダイブすることもなく、マモルくんはいい感じに敵地視察して、異世界ドアで柊病院に帰れたってこと???



「……本当にごめん。おじさんも俺も、あんたを巻き込んでこんな目に遭わせてしまった」



 私がカタカタ震えるうちに、マモルくんが謝罪の言葉を重ねてくる。



「あんたは俺のせいじゃない、って言ってくれるけど、巻き込んだのは事実だ。本当に、なんていえばいいのか……」



 私は耐えきれなくなって、シュパン! と、異世界ドアを取り出す。

 突然目の前に現れた異世界ドアに、言い募っていたマモルくんが、ポカンと口を開けたまま固まった。


「……………ごめん」


 私は、罪悪感で死にそうになった。



 そこからは、記憶がすっ飛んでいる。









 翌日。

 目を覚ますと、マモルくんは家から消えていた。

 ホコリまみれの家を全て確認した後、私はその場で突っ伏した。


 ――ま、まさか私のやらかしに、呆れて出ていった!?


 その考えが過ぎったとたん、夏の暑さとは関係なく、どっと汗が吹き出てくる。

 子鹿のように震える足を、なんとか動かして、もう一度リビングを確認した時、テーブルには昨夜ランプの役割を果たしたペットボトルと懐中電灯の下に、置き手紙が挟まれていた。



『異世界ドアを借りる。おじさんに連絡したから、そこから動かないで待っていて欲しい』




 ……多分これ、マモルくんの字だよね。

 え、ってか『異世界ドアを借りる』!?

 異世界ドアは、「出ろ!」と念じると出てくる、不思議な道具だ。だからさっきから念じてみるけど、ちっとも赤いドアが出てこない。

 間違いない。マモルくんは、私から異世界ドアを奪って、どこかへ行ってしまったのだ。

 え、ってか異世界ドアって、他人の手に渡れるの? これどうやってしまったり取り出したりしているのか、イマイチわかってないで使っていたけど、マモルくんは使い方や仕組みを理解して奪ったの!? すごいなマモルくん、天才じゃん!


「と、『天才』は使われたくなかったんだっけ」


 誰もいないのに、思わず一人言が出る。だけど口に出した分、ぐちゃぐちゃになっていた頭の中が整理された。

 慌てたって仕方ない。一つずつ確認していこう。

 まず、この置き手紙から浮かぶ謎は三つ。


 ①なぜマモルくんは、私を置いていったのか?

 ②マモルくんは、どこへ行ったのか?

 ③マモルくんは、どうやって柊先生と連絡を取ったのか?


 ③に関しては、マモルくんが「通信は傍受されているから、自分たちが作った有線の手段しか使えない」って言っていたんだよね。なのに、通信の手段があるってどういうこと?

 と思ったけど、そうじゃん。やつは私から奪った異世界ドアが使えるんだった。こんな感じで、置き手紙なり置けばいい。

 でもここで、別の問題が出てくる。


 ④どうしてマモルくんは、異世界ドアを使って、私を柊病院まで送らなかったのか?


 わざわざ柊先生に私を迎えに行ってください、なんて頼まなくても、そのまま柊病院に送ってしまえば簡単なのに。

 しばらく考えてみたけど、全然答えが浮かばない。

 ……あまり考えてもわからない問題は飛ばして、別の問題を考えよう。これ、受験生の心構えだ。


 ①なぜマモルくんは、私を置いて行ったのか?

 ②マモルくんは、どこへ行ったのか?


 ②は一つしか心当たりがない。

 彼は、異世界ドアを使って、上層部のアジトに向かったんだ。私が意識を失っているうちに奪った、異世界ドアを使って。


 ……

 そう言えば、彼はジャックさんを眠らせた、と言っていた。よくわからないけど、彼にはその手段があるのだ。

 つまり私は、意識を失ったんじゃなくて、マモルくんに意識を奪われた、ってこと?

 ――私から、異世界ドアを奪うために?



 そう思った時、ふと、リビングにあった棚の引き出しが、半分開かれていたことに気づいた。

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