第12話 マモルくん、それはかなり無茶じゃない!?
ジャックさんが操縦室へ向かったのを見計らって、私は三浦さんに声をかけた。
「三浦さん、大丈夫ですか!?」
「え、ええ……それより、あなたこそ大丈夫? かなり無茶したじゃない」
「あはは……肩外れるかと思いました」
抑え込まれた時、肩甲骨あたりから引きはがされるんじゃないかって思ったよ。
そう言うと、はあ、と三浦さんはため息をついた。
「肩じゃなくて、頭が吹き飛んだかもしれないわよ?」
「す、すみません。三浦さんにも、怖い思いさせてしまって」
「あなたね、自分の心配しなさい! 私のことじゃなくて!」
怒られてしまった。でも、人が攻撃されているのを見せられるって、それだけで攻撃だよね?
捕まってから、三浦さんはずっと真っ青な顔をしていたけど、安心したのか、血色も戻ってきていた。
「にしても、すごかったわ。勢いというか、すごみがあるって言うか」
「そうですか?」
めちゃくちゃ声震えていたと思うけどな。それに必死すぎて、自分で何を言ったのか覚えてない。いまなんか、どっと緊張と恐怖がおしよせて、身体が勝手に震えている。
ただ、ジャックさんの思考を塞がなくちゃ、と思った。そのためには、相手がメリットと感じさせることをデメリットに感じさせたら、優位に立てるんじゃないかと思ったのだ。
彼の反応を見て、わかったことが一つ。ジャックさんは、というか、多分この世界の上層部と呼ばれる人たちは、自分たちより頭の良い人を恐れている。
それだけで、マモルくんが今まで、どんな目に遭ってきたのか想像が着いた。
いや、本当のところは理解できてない。ジャックさんが話したことの五割は、多分聴き逃している。
だって横文字とか、頭に入んないだもん。
オメガなら何度も聞いたことあるけど、マ……なんとか計画とか。
アジェンダとかエビデンスとか、どうして企業や政治家は聞きなれない単語を使うの? 普通に議題とか証拠とか言っちゃダメですか。スパイ映画のコードネームや作戦名みたいで、ワクワクするけどさ。
だから、彼について私にわかることは一つだけ。
マモルくん、辛かっただろうな。
それだけ分かれば、十分だ。
絵が上手いから美大に行ったら、なんて、無邪気に笑う彼が、どれだけ過酷な環境の中で生き抜いてきたのか。「なんでか嫌われてる」とか言ってたけど、ほとんど迫害とか差別のレベルじゃんか。殺したくせに、自分たちの都合で甦らせる? のも、気に食わない。命をなんだと思ってんの。
そう思ったら、恐怖より怒りが混み上がってきたのだ。
「でも、困ったわね。あなたが異世界ドアを使えないとなると」
三浦さんの言葉に、私は思わず黙る。
……実はそれ、嘘なんだよね。
サーヤは柊病院から離れる前、私にも異世界ドアを作ってくれた。そんなにホイホイ作れるものなのかしら、とも思わなくは無いけど、サーヤだから多分故障とか誤作動とかは起きないだろう。
なんで嘘をついたかと言うと、ジャックさんは自分より強い存在には警戒するけど、弱い存在に対しては見下して油断するんじゃないかと思ったからだ。予想は的中。ジャックさんは、私たちから離れた。
だから今なら、異世界ドアが使える。けど、三浦さんはどうなるの? 三浦さんの電気の鎖は、解除されていない。このまま脱出しても、遠隔操作でビリビリ! ってなるんじゃないか。
サーヤなら、何とか分解したり、解除したりしてくれるかなあ? と思っていると、三浦さんが、「やっぱり助けを待つしかないようね」と言った。
「実はね、アイツに捕まる時、シューズに仕込んだブザーを鳴らしておいたの」
そう言えばあの時三浦さん、足をバタバタしてたな。でも、音が漏れない無音装置があるとか、言ってなかったっけ。
「音はならないってアイツ言ってたけど、無音装置は高周波の音を防げないのよね。
私たち地球人には聴こえない音。でも、マモルくんなら耳をつんざくような爆音で聞こえているはずよ」
そう言えばさっき、ジャックさんが
けど、ここは飛んでいる飛行機の中。どう助けに来るんだろう。
そう思った時。
爆発音と、急に飛行機が地震みたいに揺れた。
空を飛んで地震は無い。それはわかっているけど、さっきまで機内はびくとも揺れなかったのだ。それが今じゃ、機内のなかにある物の輪郭が、二重線みたいに見えるほど揺れている。
「な、何!?」
一体何が起こっているのか、そう思った時だった。
「よ、っと。無事か!?」
マモルくんの声が聞こえる。振り向くと、彼は沢山のポケットがついた飛行服を着ていた。額にはゴーグルがある。
「マモルくん!? どうやってここに!?」
「どうやってって、そりゃ普通に」
「……はあ?」
意味がわからない私に、三浦さんは「マモルくんは、最初からこの飛行機に乗っていたのよ」と説明してくれた。
「え、最初から? マジで!?」
「説明は後だ、このままだと墜落するぞ!」
「はあ!?」
振動による騒音と、急展開した状況に、思わず声が大きくなってしまう。
マモルくんは鍵を取り出して、三浦さんに巻き付く電気の鎖の鍵穴に差し込んだ。
あっという間に電気が消え、鎖が解けた。
「三浦さん、これ早くつけて!」
マモルくんは、手に持っていたカーキ色のリュックを三浦さんに渡す。
「ひまりもすぐに出るぞ!」
出るって、どこに?
……ハッチが開かれた飛行機。
つまり、外は空。風は例えようがないほどビュンビュン吹いていて、呼吸するのも難しい。
ちょ、待て待て。
もしかして三浦さんに渡したのって、緊急脱出用パラシュート?
私ら、これから飛び降りる感じ?
戸惑っていると、突然強く抱き寄せられる。
割と熱い胸板と、アルコールの匂いに、頭が真っ白になった。
「……は?」
「暴れんなよ、パラシュート二つしかないから!」
そう言って、紐みたいなもので私と自分の身体を結びつける。
……待て待て待て待て。
もしかして一人用のパラシュートを、二人で使って落ちるつもりか!?
「三浦さん、先に行ってくれ!」
そう言って、カーキ色のリュックみたいなものを三浦さんに渡す。
三浦さんは力強く頷いて、すぐにリュックを背負った。
「わかった、気をつけてね!」
そう言って、三浦さんは迷わず空へ落ちていく。
え、次私らの番? 嘘でしょ、それはヤム茶すぎない?
「え、ちょ、ま、この紐細すぎて全然頼りないって言うか、そもそも一人用なわけだから、」
「もう喋んな舌噛むぞあと絶対に腕離すなよ!」
ギュッ、と私の腰を、彼の片腕が支える。
怒涛の注意喚起にパニックになった私は、彼の背中に回した腕に、力を込めた。服も強く握りしめて、目をギュッとつぶる。
それを確認して、マモルくんは機体から飛び降りた。
悲鳴?
容赦なく襲いかかるGに、上げる余裕すらないわ。
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