第7話 二重スパイと人質を任されました!?
「でも、これであの『NO IMAGE』が、私たちに依頼した理由がわかったね」
「うん。外国人は目立つから、とか言ってたけど。本当は、ここにたどり着けないんだね」
異世界ドアの存在を知って、柊先生らの石兵八陣を突破できるんじゃないかと思い、私たちと取引したのだろう。
アイツ、嘘ばっか言ってんな。他の情報と比べながら真偽を確認するメディア・リテラシー、大事。
「じゃあさ、マモルくんが監視される理由は? なんか、コンパクトシティの邪魔をしている、とか言ってたけど」
「別に邪魔してるわけじゃない」
むす、と返すマモルくんに、柊先生が引き継ぐ。
「さっきも言ったが、この『無法地帯』は、社会の急激な変化に耐えきれなかった脱落者の集まりなんだ」
「と、いうと?」
「例えば老人の中には、機械そのものに触るのを怖がったから、使い方の習得ができなかった。けど、都市部じゃ機械を触らないで生活はできない。
それから、食の仕事に携わっていた人は、大幅にカットされた。別の仕事につけた人も多いが、そうじゃない人もいる。
あとは、身分証明書とか、管理社会への移行のための法改正とかな。そうやって、社会の脱落者が集まった場所が、この『無法地帯』だ」
それは、私たちの社会でも言えることかもしれない。
レジも機械化してついていけない、っておばあちゃんがぼやいていたし。AIによってなくなる仕事が沢山出る、って予想はついてるもの。
「コンパクトシティによって、交通機関の対費用効果は出たが、代わりに住居が足りず、都市部の土地はおろか、家賃もどんどん上がっている。それをしっかり払えない世帯も少なくない。
だが、国は都市部以外に予算をつぎ込まない。『無法地帯』は、そうやってインフラ整備もなく、病気も蔓延して、強盗などの犯罪行為が多発する地帯だった。
それを、マモルは変えたんだよ。衛生環境とインフラ整備を整えて、居住できるようにした。そしたら、『今の社会にギリギリついていけるけど、もう限界』だっていう人たちが住み着いて、都市部と無法地帯を行ったり来たりするようになった。
都市部から人が流れることに、政府は危機感を抱いているってわけだ」
なるほど。政府が思った以上に、あの未来都市についていけない人は多いわけだ。けど、インフラとか命綱を握ってたから、人の流出は抑えられた、と。それをマモルくんが変えたから、政府は嫌がってるわけね。
マモルくん、良い奴じゃん。態度は悪いけど。
「あらかた説明したけど、質問とかあるか?」
「んー、今んとこは」
サーヤが言うと、そうか、と柊先生。
「そんじゃ、これからのことを話そうか。二人はどうするつもりなんだ?」
「どうするって、そりゃ、監視なんてしないよ。今言ったことも話さないし」
私がそう言うと、柊先生は、なぜか黙った。安心させるつもりで言ったんだけど、何かマズかったかな。
ホットプレートは、麺より肉を多めに買ってしまったので、もはや焼肉状態になっていた。焼肉のタレも買っておけばよかったなあ、と後悔していると、柊先生は口を開いた。
「……このまま、監視を頼めないだろうか」
「え?」
「勿論、こちらが不利になるような情報は伏せて。本当と嘘を混ぜたような報告を。そして、あちらの様子を、こちらに報告して欲しい」
それって、二重スパイ。
私は思わず、目を瞬かせた。
柊先生の申し出に、マモルくんが血相を変えて立ち上がった。
「おじさん、そんなこと!」
「守るだけじゃダメなんだ。こちらから攻めないと、突破口は見つからない。
それに、サーヤくんもひまりくんも、権力や情報に惑わされない、信用に足る人物だし」
「着ぐるみニワトリのどこを信用しろっつーんだよ!」
それは正論だわ。
私も、ニワトリの着ぐるみを着て、ほぼ初対面の人の家に来る人に、二重スパイをお願いするのは、正気を疑うわ。それを実行した当の本人だけど。
なお、提案したサーヤは、さっきホットプレートで作ったイカ焼きを食べながら、こう言った。
「もきゅもきゅ、ごくん。いいよ」
「本当か!?」
「なッ!?」
「代わりに、ひまちゃんを病院に待機させるね」
そう言って、グッ、と親指を立てる。
「人質に大切な親友がかかっていれば、私は絶対に裏切らない」
「サーヤ……」
サーヤの言葉に、私は胸を打たれる。
でもサーヤ、青のりとソース、口周りにめっちゃついてるよ……。
マモルくんは、「いや裏切るとかの心配をしているわけじゃ、」とブツブツ言っていたけど、結局サーヤが二重スパイをすることになった。
■
そんなわけで、平成が続いた異世界に滞在二日目。
私は、病院の受付にいた。
彼らは日中ここで過ごすので、目につく場所にいて欲しい、とのこと。何か手伝えることがないか聞いてみたけど、
「お嬢ちゃんは勉強でもしときな」
というマモルくんの言葉で、勉強することになった。
――いや、勉強のフリしてるだけだけど。
アイツの言う通りにするのもシャクだ。決して、「勉強がわからなくて手が止まっている」とか、「やる気がない」わけじゃない。
……誰に言い訳してるんだ、私。
受付の人は二人いて、女性の看護師さんと、筋肉質な男の人が座っている。
電話とかひっきりなしにかかるし、書類仕事も多いし、傍から見ていても結構忙しい。ここでボーッとしているの、邪魔じゃないかな、私……。
忙しいのは、もう一つ。
なんとこの病院、訪れる子どもの数が多いのだ。
主に二~六歳児の子が、あの児童スペースに遊びに来ている。
女性の看護師さんに話を聞くと、「ここは託児所とフリースクールの役目もあるのよ~」だって。『無法地帯』は、最近だと子育て世代も引っ越してきてるらしい。でも、『無法地帯』には保育園もこども園もない。だから、彼らの受け皿を柊先生やマモルくんが引き受けたのだとか。
「マモルくんは教えるのも上手だし、特にやんちゃな男の子に好かれやすいのよ。ボス山のボスみたいな」
「なるほど~!」
すんごい納得出来る説明だ。
しかも顔がめちゃくちゃよくて、顔にも目にも凄みもある。悪ガキであっても、美貌のにーちゃんにはナニかを感じずにはいられぬのだ。知らんけど。
けど意外。アイツ子ども好きなんだな。私は逆に、子どもがニガテだったりする。
今児童スペースでは、五歳くらいの男の子二人が、おもちゃを投げあって遊び始めてる。柊先生もマモルくんも受付の二人も忙しくて、止められそうにない。
仕方ない。子どもがニガテとか、言ってる場合じゃないか。
私はカバンからタブレットを取り出して、児童スペースに向かった。
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