第6話 1999年という分岐点

「その前に、一つ質問」

 サーヤが指を立てると、柊先生は「聞こう」と言った。



「この世界は、もしかして1999年に何かあった?」



 そう聞くと、ほう、と柊先生が関心のありそうな声で言った。


「俺たちはアンタたちのことを、ソイツらの仲間だと思ったが、違ったかな?」

「うーん、多分違うなり」

「わかった。じゃあ答えよう。

「なるへそ」


 なんかサーヤがわかったらしい。


「どう言うことなの、サーヤ?」

「これは私の推測なんだけど、多分この世界は宇宙人がやって来て、1999年を境目に、私たちの世界とは全く違う歴史を歩んだと思うの」

「宇宙人って、確かにあの『NO IMAGE』も言っていたけど……」


 私たちの言葉に、ほう、と柊先生が言った。


「『宇宙人』なんて、久しぶりに聞いたな。最近じゃ、『宇宙人』は差別用語と見なされて、『異星人』と呼ぶから」

「あ、そうなんですか?」

「ああ。異星人は数は少ないが、この社会の科学技術を担っているからな。上層階級にも、異星人が多い」


 その言葉を聞いて、あのNOIMAGEの『侵略』という言葉を思い出した。

 ……もしかして、この社会は、異星人が地球を侵略したの?


「で、でもなんで1999年?」

「ひまちゃんは、ノストラダムスの予言って知ってる?」

「え? ……ああ、なんかオカルト系で聞いたことあるかも」


 そう言えば、1999年に世界が滅ぶとか、なんとか?


「え!? もしかして、その予言が当たったの!?」

「いや、当たったのかはわからない。ノストラダムスの予言では、『1999年の7の月に「恐怖の大王」がやって来る』と言われていた。その『恐怖の大王』が、異星人たちかは不明だ」


 別に1999年に初めて異星人がやって来たわけじゃないからな、と柊先生。


「ただ、社会が急激に変わったのは、1999年だと言っていいだろう。その変化に耐えきれず、脱落したものは多い。この街は、その脱落者で集められた人々だ」

「……」

「さあ、そろそろ質問に答えてもらおうか」


 組んた両手の上に顎を乗せて、柊先生が尋ねる。

 私たちは目配せをして、これまでのことを包み隠さず話した。


 私たちが異世界からやって来たこと。異世界では異星人はやって来てないこと。元号が『令和』に変わったこと。そして、私たちが柊まもる――マモルくんの監視をすること。

 


 全部を聞かされて、マモルくんは頭を抱えていた。


「監視対象に、『監視してます』って言う奴がいるか!?」

「いやー……ね?」

「元々、従う気なんてないもんね」


 ねー、とサーヤと一緒に顔を合わせて言う。


「自分は顔出さないで、取引するって。絶対悪役だよ」

「それに私ら、別に身分証明書とかいらないしね」

「元の世界に帰ればいいだけだしね」


 そう、別に取引とかしなくてもいいのだ、こちとら。

 ただ、明らかに悪の組織っぽかったので、反抗すると危ないかなー、と思って、その場しのぎで取引を行っただけ。


「ただまあ、情報がふせられ過ぎて、このまま帰るのもモヤモヤするから、ちゃんと事情を知りたいなって思って。あの『NO IMAGE』、この世界のこと、ろくに教えてくれなかったし」

「それでなんで、あんな妙ちきりんな格好になるんだよ……」

「事情教えてくださーい、って言ったって、警戒されるだけだろうなー、って思ったから」

 

 そこで、私はひらめいた。私は、柊先生たちにお世話になった。なら、お礼をしに行くのは普通のことだ。


「だから一度元の世界に戻って買い物して、出来たての焼きそばを食べさせるために、柊さん家を訪れたわけ」

「そこにニワトリの理由が見えないんだが?」

「恩返しって言ったら、ツルだから。ニワトリの着ぐるみしかなかったけど」

「だから! そこで着ぐるみを着る理由がわからない!」

 それはサーヤのアイデアで、着た私もわからなかった。けど。

「でも、敵意は無いことは伝わったでしょ?」

「狂気は感じたけどな!!?」


 どうやら、サーヤの頭の中は、天才のマモルくんにも理解できないらしい。

 ツッコミに回るマモルくんとは正反対に、腹を抱えて笑っていたのは柊先生。


「ワハハハハ!! いや、悪かった! えーと、名前なんだっけ」

「あ、私サーヤです」

「ひまりです」

「サーヤちゃん、ひまりちゃん。悪かった。あんたたちがまたここに戻れるなんて、一体どんな魔術を使ったのかわからなくて、警戒していたんだ」


 目に浮かぶ涙をぬぐいながら、柊先生は言った。


「ここはな、ちょっとした手品を使ってて、この『無法地帯』に住む住人以外は、たどり着けないようになっているんだ」

「……えーと、諸葛孔明の石兵八陣みたいな?」

「おお。そんな感じ。よく知ってんな」


 マモルくんが、へえ、と感心した声を出した。


「本とか読みそうにないのに、『三国志演義』とか読んでるんだ」

「はあ!?」

「こらマモル! 失礼なことを言うな!」


 柊先生が叱るが、当の本人は何処吹く風だ。

 何こいつ。さっきから腹立つことしか言わないんだけど!

 ――まあこいつの言う通り、三国志演義とか読んだことないけどね!!

 私の歴史や文学の知識は、大体ソシャゲ発祥だよ!! ちきしょう!

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