第4話 私たちが宇宙人!?

 連れていかれたのは、地下だった。

 って言っても、私たちはその場で目隠しされて、どこに連れてこられたのか、イマイチ分からなかったのだけど。わかったのは、ギュンギュンギュンギュンという音と、下へ落ちていく浮遊感。だから、「エレベーターに乗っているんだな」とわかるぐらい。

 でも目隠しを外された途端、最初見た街以上に無機質で機械的な建物、少し暗くて空が見えない空間に、「これ地下都市だ」とすぐにわかった。国民的アニメで見たことある。


 進んだ先は、研究所だった。

 何かを培養しているのか、筒状になったガラスケースがいくつもあった。緑の蛍光色の液体で満たされていて、その中に生き物らしい何かが眠っていた。液体が薄暗い部屋でぼんやりと光っていて、なんだか、気味が悪い。

 研究するため、つきあたりにはキーボードみたいなのが、壁一面にはモニターがある。それが全て、同じ映像になった。

 


『待っていたよ』




 黒い背景に『NO IMAGE』と白抜きされたモニターから、ボイスチェンジしたような耳障りな機械の声が響く。


『さて、君たちのことを、なんて呼べばいいかな?』


 それを聞かれて、私は戸惑った。

 私たちデジタル世代は、個人情報、特に本名を入力するリスクを骨身に染み込まれている。

 サーヤと目配せして、私たちは偽名を名乗ることにした。


「Madoです」

役満聴牌やくまんてんぱいサロンです」


 まあSNSのアカウント名を使うんだけど。私がMadoで、サーヤが役満聴牌サロンだ。

 モニター越しの相手は、特に疑うことなく受け入れた。


『Madoくんにサロンくん。単刀直入に聞こう。君たちは、?』


「……………は?」


 どの星? つった、この人。


『隠すことは無い。君たちがこの世界には不釣り合いな科学技術を用いて、この地球にやって来たことはわかっている』


 そう言うと、モニターの一つがプツリ、という音と共に切り替わる。

 映像だ。そこには、誰もいない広場から、突然現れた赤いドアが開いた。

 そこから、フィッシュボーンにストローハットを合わせた女の子、次にセミロングに黒いキャップを合わせた女の子が出てくる。間違いない。サーヤと私だ。


『広場の監視カメラに映っていた』


 見られてたのか……。

 得体の知れない恐怖にゴクリ、とつばを飲み込む。


『君たちはワープホールを使って、この地球にやってきた異星人だ。だろう?』


 いえ違います。異世界人です。

 って、絶対正直に言っちゃいけないよな。なんか相手ヤバそうだし、情報は与えちゃいけなさそう。

 サーヤを見ると、サーヤはこくんと頷いてから、「そうです」と答えた。



「我々は休暇で、とある星からやって来ました」


 ここは、相手の勘違いを利用しておこう。イマイチ現状がわからないけど。


『ほう? この星に、バカンスとな。侵略するための視察ではなくて』

 し、侵略。あまり穏やかじゃない言葉だ。

「はい。我々がここに来たのは、あくまで観光です。なので、この国のことがわからず、ルールを破ってしまったことをお詫びします」


 ぺこり、と頭を下げるサーヤ。

 しばらく間を開けて、モニター越しの人物は答えた。


『そちらの星では、人に謝罪する時、頭を下げるのだな。まるで日本人のようだ』



 …………しまったー!

 これはあれだ! 「異世界に来て、メートル法とかじゃがいもがなんであるんだ」って言われるアレだー!

 お辞儀も仏教圏ならまだしも、唯一神教国だと「神に崇拝するための儀式だから、人にするのはおかしい」ってされてるもんね! どうしようか!

 焦る私に、サーヤは涼しい顔で答える。


「我々、Z星のレイ=ワ国では、地球学というのものが存在します。我々は、特にニホンを専攻して学んでいました」


 すごい、サーヤ! その場の思いつきでサラサラと設定を作ってる! あんた異世界ファンタジー書けるよ!!


「ですが、我々の知っているニホンとはかなりかけ離れているようですね。我々が知っているニホンは、『スシ』『天ぷら』『すき焼き』、そして『ド○キ』」


 最後、私たち高校生がよく行くところじゃん。

  文化祭とか、特に頼りになるところだよね。


「そのため、差支えのないところで、この国について知りたいのですが、滞在許可をいただくことは出来ますか?」

『…………いいだろう。こちらで、身分証明書を発行しておこう』

「え、本物の?」


 思わず私は聞いた。

 口からすぐ出るこの性格、直したい。


「いや、あの、さっきこの方が、ロボットをハックしたとか言ってたので、てっきり……」


 しどろもどろに続けても、失礼な言葉しか出てこない。「てっきり犯罪組織だと思ってました」とか、失礼にも程があるし。

 けれど、モニター越しの人物は気にせずに続けた。


『正規の手段で手に入れるのか、という質問であれば、その答えは「YES」だ。安心して欲しい。

 確かにロボットにハッキングはしたが、我々は警備ロボットの製造・管理に携わっていてね。犯罪行為ではない、とは言わないが、グレーゾーンの範囲内だ』

「そ、そういうものですか……?」


 私らの世界だったら、絶対問題になると思うけど。いや、実はこっそり行われてたりする?


『さて、身分証明書の代わりに、ある人物のことを探って欲しい』

「ある人物?」

『君たちのことは、後ろのジャックに追跡させてもらった』


 ジャックって、ここまで連れてきてくれた人か。


『その時、偶然、我々がずっと探していた人物を見つけることが出来た』


 この人物だ、とモニターが変わる。



「…………え」



 そこには、あのマモルくんが映っていた。

 全部同じ顔じゃない。幼かったり、表情や服装が違ったりしている。でも、間違いなくマモルくんだとわかった。


『この人物に接触し、観察および報告を依頼する』


 その時の機械の声は、雨の後の冷え込む空気を連想させた。

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