第2話 バイクで転生……って、死んでないから!!
目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。
起き上がると、白いカーテンレールに、白い布団が見えた。そばには、サーヤがパイプ椅子に座っている。
「ひまちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫。ここは……?」
私が起き上がると、「病院だよ」とサーヤが教えてくれた。SF的世界でも、病院はそんなに変わってないみたい。もっと、ロボットとか機械があるのかと思ってたよ。
「良かったよ。バイクにぶつかって、ひまちゃんが異世界転生しなくて」
「いや、異世界で異世界転生ってどういう状態。それに、ぶつかったって言っても、かすった程度だよ」
あの時、バイクの運転手がすぐに気づいて、ブレーキをかけたのだ。だからほとんど怪我はしていない。
ただ、その後私は、意識を失ってしまったのだ。
そう。
寝不足である。
「深夜にラジオつけながら、苦手な理数を頭に詰め込み続けて、寝不足だなんて……恥ずかしい……」
「そんなことないよ。寝不足は命に関わるんだから」
「そうだ」
シャッ、と衝立のカーテンが開かれた。
「寝不足は免疫力の低下、血圧の上昇で循環器系疾患のリスクもある。勿論、集中力の低下で事故に遭いやすくもなる」
そこには白衣を着た、イケメンが立っていた。
髪は金色にも見える茶髪。目つきは鋭いけれど、ヘーゼルの目は大きく見える。目鼻がハッキリしてて、日本人というより洋画に出てきそうな外国人に見えた。
ただ、不機嫌そうな、無愛想な顔で、私の好意パロメータはかなり低い。それに、かなり若く見える。私たちとさほど変わらなそう。お医者さんみたいに白衣を着ていると、不思議な感じだ。
「え、ええと……お医者さん、ですか?」
「マモルくん、飛び級して十八でお医者さんになったんだって」
マモルくん。
よく見ると、白衣のポケット部分に、『まもる』と書いてある。なるほど、このお医者さんの名前はマモルくん。サーヤがあまりにフレンドリーに呼ぶから、この病院の壁に貼ってある、妙なマスコットキャラクターの名前かと思ったよ。ちなみに、ポケットにはキリンがついたボールペンがのぞいていた。かわいい。
しかし、飛び級。医療漫画の知識でしかないけど、確か医学部は六年で、その後も研修医として二年勤めないといけないんじゃないっけ。この世界でもそうなのかはわからないけど、ものすごく頭がいいのはわかる。
「へ、へえ~。天才なんだ」
そうすると、ギロッと睨みつけられた。
不機嫌で無愛想な顔なのは性格かもしれない。けれど、その睨みは間違いなく軽蔑の色があった。
きびすを返して、マモルくんが言い放つ。
「起きたらなら、さっさと家に帰って、しっかり寝るんだな」
「あ、あの、お金……」
「寝不足になるまでお勉強に励む学生から、お金を取るほど、暇じゃねえんだよ。お嬢ちゃん」
そう言って、マモルくんは去っていった。
別に言葉は問題ないけど、間違いなくバカにされた感じだ。なんだよ。確かに私はバカだけども。言葉にならないムカムカが、頭の中でポコポコ殴るように出てくる。
でも、正直助かった。私たち、この世界の保険証どころか、お金すら持ってないし。
そう言うと、グッ、とサーヤが親指を立てた。
「ひまちゃん、お金は手に入れたから大丈夫だよ」
「え、いつの間に!?」
「発明品売って換金できた。はいこれ」
そう言って、サーヤが封筒を渡す。
「あ、デジタルマネーじゃなくて、野口さんなんだ」
「ううん、違うよ」
「え? じゃあ、諭吉?」
私が尋ねると、サーヤはううん、と言った。
「漱石」
頭の中で、猫と門と恋の三角関係が現れる。
色々考えたあげく、私は尋ねた。
「……あ、今度新しくなる紙幣?」
「ひまちゃん、次の千円札は北里柴三郎だよ」
「いや誰それ!!」
サーヤによると、『感染症学の巨星』と呼ばれる微生物学者らしい。それは置いといて。
「え、漱石って私記憶ないけど、2004年まで使われていた千円札……だよね? 昔おばあちゃんから、お誕生日のお小遣いでもらったことあるけど」
「うん、その漱石」
「だよね!? え、この世界、未来かと思ったら、逆行してるの!? あ、日付! 日付どうなってる?」
私が聞くと、ちょっとまってて、とサーヤが病室から離れた。
戻ってきた時には、新聞を握っていた。
「受付に置いてた」
「ありがとうサーヤ!」
私は慌てて、新聞を見る。
そして私は、驚くべき真相を目にしたのだ。
「……………………平成3×年?」
天才のサーヤが、すぐに暗算してくれた。
「西暦で換算すると、私たちの世界と同じ年だね」
「…………まじで?」
え、この世界、平成が続いた世界観?
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