壁様
猫科狸
壁様
町民の皆様に注意喚起
〇〇◯公民館裏の◯山で「壁」を見かけたらすぐに役場職員へ連絡をお願い致します。*絶対に近づいたり触れたりしないようにして下さい。*あちらから近づいてきた、既に遅かった場合は、自身で対応することは難しい為役場職員へ早急に連絡をして下さい。その間家族、血縁関係者の名前は絶対に口にしないようにお願い致します。
皆様のご協力をお願い致します。
緊急連絡先 〇〇町役場 安全保安管理課 電話番号(■■■)-■■■-■■■■
〇〇町会報·ホームページより
SNSを通じてフォロワーの方から連絡が来た。それが上記の内容について。
この件についてフォロワー(以下Bさん)と直接お会いして詳しく内容を聞くことにした。
「どうも、直接お会いすることは初めてですね。えーとBと申します。わざわざ遠くまでありがとうございます。
早速なんですけども、DMでもお話しした例のやつ。あれ、両親が住んでいる町での事なんです。
僕は高校進学と同時に町を出てしまったので今は住んでいないのですが、たまに実家に帰ることがあるんですね。その時に広報誌に載っているのを見つけたんですよ。
で、ホームページを確認してみたら、載っているんです。ほら、これ。しっかり書かれてますよね。
いや、熊とかなら分かるんですよ。でも壁って。最初は間違いなのかと思って役場に問い合わせたんですけど、しっかり「壁」で間違っていないそうなんです。
両親にも話を聞いてみましたよ。「壁」って何?って。そしたら壁は壁だと言っていました。最近は町まで来ちゃうらしいんです。
話をまとめると
・○山付近に壁が現れる。 出現に関しては時間やタイミングも分からない。 出現場所も予 測がつかない。
・壁を見ても、近づいたり、触れてはいけない。そのせいで何件か事故が起こっている。
・昔からある事だった。 以前は何の問題もなかったが、近年からこのような事故が起こるようになっている。
との事でした。 事故の内容はプライバシー保護との事で教えてもらえていません。何か似たような話知ってますか?」
※Bさん取材時の音声データより
との事だった。この話に興味が湧いた私は直接現地に出向いて取材することにした。○○町には初めて行ったのだが、 自然豊かな丘陵にある小さな町で、 空気も澄んでおり、 町全体にのんびりとした空気が流れていた。
役場に取材を申し込むと快く受け入れてくれ、早速件の話を教えてくれた。
「いや、 わざわざこんなところまで取材なんて。 そんな大して珍しい事もないんですけど。 どこの市町村 でもこんな話の一つや二つはあるでしょう。
○山は、この町と昔からなじみの深い山でしてね。 壁も町の守り神だって言われてて。
山祭りだったり、神を讃える行事も沢山ありました。 最近はほぼやってませんけどね。
壁もそのせいで町に降りてきてるのかなーって。
いや降りてくるんですよ。 はい。 えー山から壁が。
Hさんがもっと 詳しく知っていると思いますよ。 以前来た方々もお話聞いてたみたいですし、是非聞いてやってください。」
※役場職員取材時の音声データより
更に詳細を知るべく、 紹介されたHさんへ取材を申し込むが、 体調が良くない との事で代わりにKさんという方から話を聞くことができた。
「どうも、いや全然かまわないよ。
Hはね、中々こういった話したがらないもんで。最近体調悪いしね。
壁について聞きたいんだって?
一応、俺等の祖父母の代には、もう山に居たらしいね。
あれ。壁はね、神様と言われているんだよ。
俺が壁を見たのは、20年くらい前かな。山で野営してたんだよ。趣味でね。
夜の山って煩いんだよ、物凄い。あたりからは物音だ鳴き声だ色々な音が聞こえるんだよ。
まぁ俺はそれが好きだったんだけど。で、焚き火しながらそろそろ寝るかーって時に、気付いたんだよ。異音に。
明らかに、夜の山には不自然な音なんだ。甲高い機械音みたいなさ、シィーッ、シィーッて。
気が付いたらそれ以外の音が聞こえないんだ。怖くて怖くて。だから取り敢えず火を絶やさないように必死に起きてたんだけど、耳を凝らしていると、異音が少しづつ近付いてるんだよ。もしかして失敗だったかなと思ってさ。
暗い山の中で、明かりって目立つんだよ。これが獣とかだったら火が有効だったかもしれないんだけど。もし獣じゃなかったら。
俺の場所をそれに教えてるだけなんじゃないかって思って。急いで火を消して、荷物を纏めてその場を離れてさ。
暗い中必死に山を下りて、麓に付いた時、真後ろからシィーッて音が聞こえて。振り向いたら、10m程先に「壁」があった。
いや、本当に「壁」としか言えない。
縦横2mくらいの、白い壁があって。
不思議とそれを見ても恐怖感は無くて、ちょっと近づいてみようかなと思ったけど、爺さんから
「壁は神様だから近寄るな」
って昔に言われてたのを思い出してさ。
そのまま手を合わせて帰ったんだ。まあ山の守神って感じだよ。最近は下りてきてるけど。」
※Kさん取材時の音声データより
壁はこの町の住民からは神様と言われているようだった。私はどうしてもHさんから話が聞きたくて何とかお願いして、少しだけ話を聞くことが出来た。
以下、Hさんの話
「本当は話したくねぇよ。あんなものの話。
あれな、町の皆なんて言ってた?あれな、守神とか言われてるけど、そんなものじゃねぇぞ。おれは昔、爺さんと◯山の近くに住んでたんだ。
その時何度も見たよ。爺さんは言ってた。壁みたいな奴、見たらすぐ逃げろってな。
Kから話聞いたろ?あれな、泣くんだよ。シィーッてな。
静かにしてほしい時、よくやるだろ?口に指当ててシーッてさ。あれと似た感じの音なんだよ。
あの音でさ、黙らせてんだよ。全て。
それによ、あれ、壁じゃねえんだ。近くで見たらすぐに分かる。
あれな、身体は人なんだよ。皆が壁って言ってるの。あれ頭なんだ。山の色んなものが継ぎ接ぎされた頭。
爺さんが言うにはあれな、元は町の人らしい。注意喚起の紙みたろ?
あれ、自分の血縁者探してんだよ。ずっとな。でも、あれは良くない。神様なんてものじゃねぇ。
あの継ぎ接ぎの頭…。なんであれが神様なんて崇められてるのかも俺には分からねぇ。近頃、皆おかしいよ。もう良いか、調子が悪くて。この話をすると嫌な気分になって体調崩しちまう。」
Hさんは物凄く嫌なものを思い出すように語ってくれた。私も話を聞いてると何だか嫌な気分になってきて、もうこの件については調査を終えることにした。
後日、取材の受けてくれた方々にお礼の電話をかけながら、近況を聞いてみたのだが、現地で話した時とは違って何とも素っ気ない対応だった。
Hさんにも電話をしたのだが、連絡は付かず、しばらくして留守電が入っていた。
電話口からはHさんの声は聞こえず、遠くから「シィーッ」という音が微かに聞こえるだけだった。
壁様 猫科狸 @nekokatanuki
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